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嵐の前の

 




「どうした、ザイファ。さっきからそわそわして」


「い、いや、その……」


 オレの隣で顔を赤くしてチラチラとオレを横目で見てくるザイファ。


 酒で酔っているわけではないのは分かる。


 ザイファは要人の防人なのだ。


 つまりオレや族長である婆ちゃんの専属ボディガード。だから酒は飲まない。護衛が酔っ払っちゃ話にならんしょ。


 では何故顔が赤いのか。


 それはさっき婆ちゃんがザイファに耳元で囁いた話だろう。


 実はオレにはマルッと聴こえちゃってるんだよなあ。


 舐めなるよ、オレのケモミミヘルズイヤーを。


 内容はこうだ。


 婆ちゃん「ザイファ。アンタも男なら今夜一発キメな。あの娘は酒に弱いから騙くらかして飲ませればイチコロだ。じゃないとライバルに取られるよ」


 ザイファ「んな!?お、俺は、そんな真似は……っ」


 はい〜、なんかもう不穏な話しでしたねー。


 実はこの成人の儀以降はオレは成人とみなされ村の男衆からの求婚が許可されるのだ。


 前々から男どもの視線は嫌ってほど感じていたからな。


 村の掟で成人じゃない男女は結婚は許されない。もちろん夜這いとかニャンニャンするのもアウト。


 そういうのは成人してからの話なのだ。


 逆に言えば成人さえしてれば基本的にOKなのである。


 えっ、何それ怖い。


 つまり明日になれば、オレは村中の野郎どもから、ア――――ッ!な展開になるかもしれないのだ。


 今生のオレは自分で言うが、超絶美少女なのだから男にモテてしまうのは仕方ないが、前世はこれでも立派な成人男子であり、今は乙女の身体だが野郎はノーサンキューだ。


 んでもってこのオレより5つ上の幼馴染であるイケメンに逞しく育ったザイファくん。


 お前のオレに対する好意はずっと昔から気付いていたぞ。何年幼馴染やってると思ったんだ。オレはオレで鈍感にぶちんヒロイン演じてたけど正直しんどいわ。


 でもコイツ成人して村の女衆からスゲーモテまくってんのに一切手を出してない硬派っぷり。


 露骨なお色気や一夜のお誘いにも目もくれずオレに好意を寄せてくれる。


 一途に想われるのはそりゃまあ悪い気はしないし、嬉しいけども。


 これが他の女衆に手を出しまくってるスケコマシだったらブチのめして性根叩き直したんだけども。


 純粋すぎる想い、重いよっ!


 オレは今生では清らかな乙女だけれども、前世はまともな生き方してない下衆ヤローだったんだよ。




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