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無茶な主任、乗り切ろうとする


 いつもより出発時刻が遅くなってしまったせいでラッシュに重なってしまったが、なんとか会社にたどり着いた。


 エレベーターに乗り込み、閉ボタンを押す。


 閉まる直前、まるで忍者のように滑り込んできた男がいた。


 おはようと言うと、その男は悪びれた様子で視線をあげ、そして笑顔のまま固まった。


「……しゅ、主任? どうしたんですか、ソレ」


「ああ、今朝からどうしても痛んでな。冷やすのが良いと聞いた。おはよう」


「あ、おはようございます。……そのままで来たんですか?」


 私は口を一文字に結び、重々しく頷いた。


 その男――――部下の田山(たやま)は、神妙な表情で私の頭を凝視(ぎょうし)する。


 私の頭、いや、頭からあごにかけて結ばれているタオルをまじまじと観察した田山は「まさか、虫歯ですか?」と聞いた。


 屈辱を感じながら、私は再び重々しく頷いた。




 当然ながら、食後の歯みがきを欠かしたことのない私が虫歯になるはずもない。


 で、あるのに、やむなくそのような屈辱的な嘘に頼らざるを得なかったのは、この猫耳のせいである。


 頭部を覆うもので、覆うに足る理由を持つもの。


 すなわち、虫歯を冷やすために固定するタオルである。


 多少、いやかなり酷いものだが、押し通すしかない。手詰まりなんだ。




「主任…………今日のプレゼンはどうするんですか?」


「こんな状態だから、私はできるだけ裏に引っ込んでいることになる」


「えっ!? 進行役はどうなるんですか!?」


「何を言う。田山くん、そのためにきみがいるんじゃないか」


 責任者である私は参加しなければならないが、元より前に立つつもりはなかった。さすがにタオルを巻いた頭(コレ)では注目を浴びる場には出れない。内容でなく悪い意味で注目されてしまう。


 プレゼンの進行役には無論、代替として田山にこなしてもらう。


「そんな……おれ…私には無理ですよ」


「きみに足りないのは自信だけだ。問題ない、やれるよ」


 弱々しく項垂(うなだ)れた田山を励ますと、短く高い音が聞こえた。なんの音だ?


「はい、頑張ります」


 顔をあげた田山は頼もしい笑顔だ。腹をくくったのだろう。

 優秀な田山に任せれば、進行は問題ない。私は(かげ)に隠れ、フォローをこなすのみだ。



 フロアに入るといやに注目を浴びた。課長に詫びて説明をしたはずが、何故か部長にも聞かれ、さらには室長にも聞かれた。ひそひそと小声も聞こえるが、甘んじて受け入れるしかない。


 それも社内コンペの時間までだ。時間が近づくと、私のささいな頭部など誰も気にしなくなる。


 やがて、その時はきた。


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