表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キャットライフ  作者: RK
第一章 猫と虎頭と魔女と
20/20

第二十話 観測する猫


『なんで…?』


 俺の呟きが空虚に響く。

 その少女は俺の知っている少女の面影を色濃く残した魔女だった。

 あの少女があのまま自殺などせず、そのまま月日を経てたとしたら。

 そこまで考えて思考に違和感があった。

 月日を経たら。成長したら。

 そこから思考を続けると、一つの仮定が思い浮かぶ。

 もしかしたら、あの少女は俺の知っている少女と同一人物なのではないかと。

 ただ、金髪という異なる部分が存在する。

 しかし、俺みたいな元の姿と似ても似つかない例だって存在するのだ。

 自分だけが特別とは思わず、あの少女もこの世界へとやってきている可能性も捨てきれない。

 そう考えて、俺は少女に声を掛けようとする。

 その時、先ほどの猫人の言葉が頭に思い浮かんだ。

 俺が何を成そうと、何を起こそうと、未来は変わらない。

 と言うよりも、何をしても過去は変わらない。既に起きた事を変えることなど不可能だから。

 俺にとってここは『過去』であって、『今』ではないのだ。

 あの猫人の言葉を借りるなら、俺が既に『今』を観測してしまった為に、この『過去』はその『今』へと続く為に変化することが出来ない。

 なら、『今』から『過去』に来たところでなにも出来ないではないか。


「その考えは間違っていますよ。確かに『過去』を変えることはできないのですが、なにも出来ない事は無い。貴方は『過去』を観測することで『今』に繋がる経緯を知ることが出来る。過去を知ることは『今』を知ることに繋がるのですよ」


 猫人の言葉が俺の思考を否定する。

 俺のなにも出来ないということが間違いだと、指摘する。

 その言葉に、俺は今すべきことを考える。

 俺が今すべきことは『過去』を見て『今』起きている事を理解すること。

 それがあの樹の魔物がどうして生まれたのか、俺の知る少女の面影の残した魔女が何をするのか。

 過程を知る事で対策を思いつくかもしれない。

 俺達がこれから何をすればいいのかもわかるかもしれない。

 俺は観測する。この『過去』を。


「えっと…、貴方は誰?」


 動物や魔獣に囲まれて、エルフのような魔女が問いかける。

 その問いに、後から来た魔女は答える。


「私?私は魔女。悪い女。人でなし。私は私。貴方は何?」


 エルフのような魔女の問いへの答えを返すと同時に問いかける。


「…私も魔女と呼ばれる者です」


 おずおずとエルフのような魔女が答えた。


「ふぅん。それで貴方は本物?それとも器?」


 その問いはどういう意味だろうか?

 俺の疑問と同じようにエルフの少女も疑問に思ったのだろう。


「えっと?」


 困惑の表情を浮かべている。

 それを見て後から来た魔女は嘲笑を浮かべる。


「そう、何も知らないの。その様子からすれば器。それもしっかりと継がれなかった器」


 説明するつもりのない一方通行の言葉。

 それは本人が確認し納得する為だけの物。

 エルフのような少女は困惑し続ける。

 後から来た魔女はその様子を見て嗤う。


「貴方は魔女じゃない。ただの器。バラして留めるための忌々しい竜が残した楔」


 竜の呪い?魔女の呪いじゃないのか?

 だが、それを問いただすことを俺には出来ない。

 ここは『過去』。俺は観測者に過ぎない。映画を見つめる観客と同じだ。

 映画に問いかけても返事がないのと同じように、俺の疑問に返事が来ることは無いのだから。


「貴方、魔女と呼ばれるのは嫌?」

「…はい」

「なら、私が解放してあげようか?」

「出来るのですか?」

「出来るわよ。私は本物の魔女だもの」


 その言葉にエルフのような魔女、いや、彼女は魔女ではないのだというのだから少女と言おう。

 エルフのような少女は魔女の言葉に一瞬のためらいを見せたが。


「お願いします」

「わかったわ」


 その言葉を受けて、魔女、本物と名乗った魔女は少女の胸に手を伸ばすと。


 ――そのまま腕で胸を貫いた。


「え…?」


 何が起きたか分からないという顔をする少女。

 胸に開いた穴は魔女の細い腕が貫通している。

 貫通した手には少女の心臓が握られている。それは未だに拍動し続けている。確かに生きていた証。

 それがだんだんと弱くなっていく。


「よかったわね?これであなたはもう魔女なんて呼ばれないわよ?」

「どうして…」

「解放してほしいんでしょう?ほら、解放してあげたわよ?この生き苦しい世界からね」

「なんで…」

「なんで?それは私が魔女だから。魅了し、惑わし、狂わせる魔女。言葉に惑わされた貴方は可哀想だけどさようなら」

「…」

「もううるさいから黙って」


 そう言って無造作に手を引き抜く。

 支えを失った身体が地面に倒れ伏す。流れ出る血が地面を赤く染めている。

 動物や魔獣達は動きを見せない。

 少女に懐いていた素振りを見せたのに、全く動じていない。眼中にない、まるで魅了されているかのように見える。


 そうして魔女は無言で作業を開始する。死体には一瞥もせずに。

 心臓に向けて何やら呪文のようなものを唱え始める。

 最初は何も起こらなかったが時間が経つにつれて変化が現れる。

 心臓から弾けるように何かが飛び出てくる。それは鎖のような蛇だった。

 解放とはあれから解き放つことだろうか?一体何を解放すると言うのか?

 器、というからには何かが納められているはずだ。そして解放。まるで封をされている…。

 封印?

 そこまで考えが至ると同時に何やら禍々しい気配が迸る。

 それは目に見えるようなものではなかったが、心臓から腕を伝って魔女へと流れて行く。

 あれが、封じられていたものだろうか?

 魔女は目的を果たしたらしく、もう用は無いとばかりに心臓をその場に投げ捨てる。

 だが、すぐに何かを思いついたように呪文を唱え始める。

 心臓は朽ちた様に崩れ、大地へと溶け込んでいった。

 大地に溶けたそれは根から樹へと吸い上げられ、呪いのように樹を変質させる。

 苦悶を表すかのように樹から葉が落ちて、そしてそれは樹のような何かへと変貌したのだった。

 

「私の力の一部と、貴方達の愛した少女の血肉を分け与えてあげたのよ?貴方達はこれからどうして狂って行くのかしら?」


 それだけ言うと、魔女はその場から立ち去った。 


 これが俺が観測した『過去』だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ