4 決着の行方
僕の側頭部に迫る剣に、プリシアとミシュレイが息を呑んだ。
「クィード!」
――判ってる。剣を背中に隠した瞬間に踏み込み、利き手の右手ではなく、左手を大きく回して側頭部に斬りつけてきた。
これを受けたら頭の上半分が飛び、即死だ。
頭を下げる通常の動きでは間に合わない。
僕は瞬時に膝の力を抜き、倒れ込むようにして上半身を下げた。
僕の頭頂部のすぐ上を、黄金剣が通り過ぎる。
と、僕は目の前にあるライラの腹部に、当身を入れた。
「旋気侵撃破!」
ライラの身体が、僕の打撃を受けて吹っ飛ぶ。
「う……う――」
ライラがカハッと血を吐いた。攻魔四元将のバルガスを倒した技だ。多分、内部にもダメージがいってる。
「く……うぅ――」
まだ立ってる。そしてライラは剣を構えた。
「内部も負傷してる。もうやめた方がいい」
僕はライラにそう言った。しかしライラは、凄い形相で僕を睨む。
「……あたしの師匠は世界一の剣士なんだぞ! その剣士の弟子のあたしが――負けるわけにはいかないんだぞ!」
ライラはそう叫ぶと、さらに凄みを増した勢いで攻撃してきた。
なんて気迫だ。尋常ではなく、普通の者ならその気迫だけで押されてしまうだろう。だが僕は、その攻撃を把気で捉える。
「気流半月投げ!」
ライラの身体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。
しかしライラはすぐに立ち上がり、また僕に向かってきた。
僕はそれをまた捉え投げる。また斬りかかって来て、また投げる。
そんなことを――十度以上は繰り返したろうか。
さすがのライラもふらふらになり、足元もおぼつかない。
身体もボロボロになっている。
「ど……どうして――届かないんだぞ……」
多分、投げ技では負けを認めない――。
そう判断した僕は、手に杖を出した。
ぐっ、歯を食いしばったライラが、突きを入れてくる。
僕は杖でその剣線を微かに逸らすと同時に、ライラの鳩尾に杖を突き込んだ。
「ガハッ――」
ライラがまた血を吐く。が、ぎり、と歯を食いしばると、担いだ剣を叩きつけるように斬りかかって来る。
僕はその剣を杖で僅かに受流し、逆側の手でライラの膝を打った。
「う――」
膝が崩れるライラの身体が沈む。
僕は右腕をライラの喉元に差し入れつつ、右足をライラの後ろに踏み込む。
そのままライラを後ろ向きに地面に倒した。
僕は倒れる際に、ライラが後頭部を打たないように右手でかばう。
そのまま僕らはもつれあうように、地面に倒れ込んだ。
「……まだ続ける?」
僕は、すぐ傍にあるライラの顔に向かって、そう言った。
すると――見開いたライラの眼に、涙が浮かんでくる。
「あたしの……負けなんだぞ――」
ライラの口が、ふにゃっと開く。
「あぁぁぁぁん、あぁんあぁんあぁ~んんっ!!」
号泣だ! もう、見事な号泣だ。
ひとしきり大きな声で泣くと、満足したのか口を開く。
「クィードは……なんで、あたしの頭をかばったんだぞ……」
僕は立ち上がりながら、笑った。
「後頭部のダメージは危険なんだ。本気でライラを傷つけるつもりはなかったからね」
「あたしは……クィードの側頭部に斬りつけたんだぞ――」
ライラはそう言って、うつむく。と、ミシュレイが声をあげた。
「そうだぞ! 一瞬だけど――本当に心配したんだ! ……もう、こんなことはやめてくれ! ――クィードもだぞ」
ミシュレイはそう言って、僕を見てくる。眼鏡の奥の眼が――心なしか潤んでいた。
「わかったよ、ミシュレイ。ごめん」
「……あたしの真似だぞ」
「真似てない!」
僕は地面に、あぐらをかいて座ったライラに言った。
「君は僕に勝つために――僕を傷つけようとした」
「勝つために攻撃するのは、当然だぞ」
僕は苦笑した。けど、その後に続ける。
「人に危害を加えようとはいうのは邪気だ。邪気に囚われると、人は自分を見失う。相手に危害を加えようとするあまり、自分の状況を見失うんだ」
「あたしが……それだったんだぞ?」
「そうだね。対して僕は、君を傷つけたい――と思ってないから、君の攻撃を冷静に観察してた。だからその攻撃を捕らえて、反撃できた」
僕の言葉に、ライラは呆然とする。
「そんなこと……師匠から習ってないんだぞ……」
「君の剣技を見て、ブレッカーさんが君をまだ旅に出すのをためらった理由が判ったよ」
「あたしが――未熟だからだぞ」
がっかりした顔で、ライラが言う。僕は笑ってみせた。
「まあ、それはそうだけど――けどそれは、きみがまだ成長途中ってことだ」
「成長――するのかだぞ?」
「そう。君はまだ、これから伸びる伸びしろがある。……ブレッカーさんは、それを充分な段階まで上げてから、旅に送り出したかったんだろうと思う。けど――その成長も見込んで、君を送り出した。そう思うよ」
ライラは神妙な顔になった後で、ごしごしと拳で涙を拭いた。
「あたしは……まだ、これから強くなるんだぞ」
「そうだね――僕らはまだ、みんな成長途中だ。……一緒に強くなろう、ライラ」
僕はそう言って笑いかけた。
ライラが僕を見て――赤くなってうつむく。けど、すぐその後に、ライラは声をあげた。
「すぐに強くなって――クィードを叩きのめすんだぞ!」
「いや……別に叩きのめさなくても――」
僕は思わず苦笑する。と、その時、プリシアが口を開いた。
「ライラ……クィードは弱体化ベルトを着けたままだったんですよ」
「は――?」
ライラが呆然とした顔になる。
「なんだぞ……? 弱体化って?」
「魔獣を飼いならすために弱体化させる魔道具だそうです。クィードは、体内の竜気を消すために、普段は弱体化ベルトをしてるんです」
プイシアはそう言って、にっこりと微笑んだ。
ライラは愕然とした顔で、声を洩らす。
「なんだぞ、それ……クィードは…最初から本気じゃなかったってことなんだぞ――」
「そうじゃないよ、ライラ。ただ弱体化ベルトを外した状態は制御が難しいし、そのパワーがある状態の戦い方に慣れてないから外さなかっただけだ」
僕はそう言って、笑ってみせた。
だがライラは、愕然とした表情のままだった。
「そんなの……ズルだぞ――」
そう呟くと、ライラはふっと意識がなくなった。
「……限界だね。荷馬車の中で治癒するよ」
僕はライラを抱えると、荷馬車の中に運び込む。
前もって翼の盾のドームを作ると、ライラに治癒の光を浴びせた。
「うン……」
ライラがうっすらと眼を開ける。
「あたし……また、クィードに治してもらってるんだぞ――」
「そうだよ。だからリラックスして」
僕はそう囁いて、ライラに治癒の光をあてた。




