配信者の素質
「王とか、そういうのやめろ!!」
俺は反射で叫んだ。
マイクが光る。
空の目が瞬く。
街の炎が揺れる。
一瞬だけ、世界が“俺の声”を待ったみたいに静止した。
……気持ち悪いくらいの静寂。
【選択】
【選択】
【選択】
コメント欄すら、それしか流れない。
黒い俺が笑う。
『ほらな』
『もう逃げられない』
「うるせぇ!!」
俺はマイクを掴んだ。
正確には、掴まされた感覚に近い。
手が勝手に吸い寄せられる。
「俺はただの配信者だぞ!?」
『それがいいんだよ』
黒い俺が、画面越しに肩をすくめる。
『“ただの”が一番危ない』
空の“目”が、ゆっくり開く。
ギギギ、と世界が軋む音。
街の向こうで、何かが崩れた。
人間の悲鳴。
遠すぎて、現実感がない。
でも確かに起きてる。
リリスが低く言う。
「りん、時間ない」
アルテナも頷く。
「もう“外側”の観測が完全に固定される」
「固定されるとどうなるんだよ」
答えたのは黒い俺だった。
『世界が“完成”する』
「は?」
『お前を中心にした物語として』
『全部、整合性を持ってしまう』
意味が分からない。
でも、理解できてしまう。
嫌な予感だけは本物だ。
マイクの光が強くなる。
声が溢れてくる。
助けて。
見て。
お願い。
選んで。
「……やめろ」
俺は呟いた。
でも声は止まらない。
もっと強く。
もっと大きく。
世界が俺を“必要としている”みたいに。
その時。
みうが、俺の腕を掴んだ。
「お兄」
「……みう」
妹の手は震えていた。
でも目はまっすぐだった。
「さっきのさ」
「……」
「“楽しい?”ってやつ」
黒い俺が笑う。
『お前も同じだ』
みうは無視した。
「答えて」
沈黙。
空の目が見ている。
街が燃えている。
神も魔王も、全員が黙っている。
俺は――。
息を吐いた。
「……楽しいよ」
正直だった。
みうは少しだけ笑った。
「だよね」
その瞬間。
黒い俺の顔が歪んだ。
『……ほらな』
マイクが一段階、強く光る。
世界が反応する。
空の“目”が、完全にこちらをロックした。
リリスが叫ぶ。
「まずい!観測確定!!」
アルテナが詠唱を始める。
でも遅い。
もう遅い。
世界が“俺”を中心に収束していく。
そのときだった。
俺は、もう一度マイクを見た。
そして。
思った。
(……うるせぇな)
ただ、それだけ。
そして口を開く。
「おい」
世界が止まる。
全部。
空の目も。
炎も。
コメント欄も。
俺の声だけが響く。
「選べとかどうでもいい」
「王とか知らねぇ」
「神とか魔王とか、勝手にやってろ」
黒い俺が目を見開く。
『……何を』
俺はマイクを、机に叩きつけた。
ガンッ!!
光が揺れる。
「俺はただの配信者だ」
「見たい奴だけ見ろ」
「勝手に救われるな」
「勝手に崇めるな」
息を吸う。
「俺の人生を、勝手に“物語”にすんな」
その瞬間。
マイクの光が――一瞬、揺らいだ。
空の“目”が、わずかにひるむ。
コメント欄がざわつく。
【バグ?】
【今の何】
【観測ズレた】
【ノイズ発生】
黒い俺が、初めて焦った顔をした。
『……お前』
「うるせぇ」
俺はマイクを指で弾いた。
カン。
乾いた音。
「配信は続ける」
「でも主導権はやらねぇ」
沈黙。
世界が揺れる。
空の目が、ゆっくりと細くなる。
――そして。
フッ、と消えかけた。
「……え?」
リリスが目を見開く。
「押し返した……?」
アルテナも呆然としている。
「そんなの、理屈上できないはずなのに……」
黒い俺は、最後に一言だけ残した。
『……面白いじゃん』
そして、画面から消えた。
空の“目”も、ゆっくりと閉じていく。
街の炎が弱まる。
ノイズが消える。
世界が、少しずつ“普通”に戻っていく。
残ったのは。
焦げた部屋と。
壊れた窓と。
そして、震える俺と妹。
「……終わった?」
みうが小さく聞く。
「……たぶん」
俺は床に座り込んだ。
マイクは、もうただのマイクだった。
光っていない。
ただの金属とプラスチック。
コメント欄。
【何だった今の】
【伝説回すぎる】
【世界一位確定】
【配信史変わった】
【でもまだ見たい】
俺はため息をついた。
「……まだ見んのかよ」
リリスが笑う。
「りん、人気者だね」
「嬉しくねぇ人気だよ」
アルテナがぽつりと言う。
「でもさ」
「ん?」
「今のは、“選ばれなかった世界”だったかもね」
俺は少しだけ黙ってから言った。
「知らん」
立ち上がる。
カメラを起こす。
マイクをセットする。
「とりあえず」
配信画面が再び点く。
同接は、まだ減っていない。
むしろ増えている。
俺はカメラを見た。
「続きやるぞ」
【うおおおおおおおお】
【神回継続】
【生きてる】
【ありがとう】
みうが呆れる。
「お兄、メンタルバケモン?」
「いや」
俺は少しだけ笑った。
「ただの配信者」
その画面の向こうで。
誰かが、まだこちらを見ていた気がした。
りん△〜!!
ってことで一区切り。続けたかったら続けます。




