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王の素質

気持ちいい。

 その感覚を、否定できなかった。

 登録者100万人。

 数字だけで脳が痺れる。

 今まで俺を見下してた教師も、

 既読すら返さなかった友達も、

 多分もう無視できない。

 世界が、俺を見ている。

 怖い。

 でも。

 嬉しい。

『だろ?』

 黒い俺が笑う。

『お前は元々、そっち側だよ』

「……そっち側ってなんだよ」

『観測される側』

 画面の向こうの俺は、ゆっくり手を広げた。

『人間はな、見たいものに神を作るんだ』

『救世主』

『英雄』

『怪物』

『配信者』

『お前はもう、“そういうもの”になり始めてる』

 コメント欄が静まり返る。

 リリスもアルテナも、口を挟まない。

 俺だけが置き去りにされる。

「……意味分かんねぇよ」

『分かるさ』

 黒い俺がニヤつく。

『もっと数字が増えれば』

 その瞬間。

 ピコン。

 通知。

『同時接続 100万人突破』

「…………は?」

 世界が止まった。

 みうがスマホを落とす。

「うそ……」

 コメント欄が、流れない。

 処理落ちしていた。

 数が多すぎて。

【あ】

【サーバー】

【耐えろ】

【世界規模】

【人類側が観測開始】

 窓の外。

 遠くからサイレンの音が聞こえる。

 近づいてくる。

 赤色灯。

 ヘリ。

 空が騒がしい。

「……お兄」

 みうの声が震えていた。

「外、ヤバい」

 恐る恐る窓から下を見る。

 マンション前。

 人。

 人。

 人。

 スマホを掲げた群衆が、建物を囲んでいた。

「…………」

 数百じゃない。

 数千。

 もっと。

 配信を見た人間たちが、集まってきている。

【聖地巡礼】

【リア凸】

【現地勢】

【やめろ】

「終わったァ!!」

 俺は絶叫した。

「人生終わった!!」

「始まったんだよ、お兄は」

 みうが真顔で言う。

「インフルエンサー人生が」

「いらねぇそんな人生!!」

 その時。

 コンコン。

 部屋のドアが鳴った。

 全員止まる。

「…………」

 嫌な沈黙。

 俺の部屋、今日来客多すぎる。

 誰だよ次。

 恐る恐る覗き穴を見る。

 スーツ姿の男が立っていた。

 黒服。

 イヤホン。

 完全に“そういう組織”。

「誰?」

 すると。

 男が、ドア越しに静かに言った。

「内閣異常現象対策室です」

「は?」

「天音りんさんですね?」

「違います」

「配信中ですよね?」

「帰ってください」

 即答した。

 無理。

 怖い。

 だが男は続ける。

「単刀直入に申し上げます」

 ドアの向こう。

 低い声。

「現在、“空に巨大な目が出現している件”について、日本政府が緊急対応中です」

「そりゃそうだろ」

「そして、その中心地点がこの部屋です」

「知ってる」

「避難誘導を――」

 その瞬間。

 空が、割れた。

 ズ ガ ン !!!!

 轟音。

 夜空いっぱいの“目”が、さらに開く。

 そこから。

 黒い何かが、降ってくる。

 流星みたいに。

「……は?」

 それは、人型だった。

 無数。

 黒い影の群れ。

 街へ落下していく。

 悲鳴。

 爆発。

 車が吹き飛ぶ。

 コメント欄が絶叫する。

【端末体!!】

【地上侵攻】

【まずい】

【配信守れ!!】

「配信中心で考えるな!!」

 リリスが舌打ちした。

「本体が近い……!」

 アルテナも空を睨む。

「世界の壁、もう限界だね」

「いやいやいや」

 俺は後ずさる。

「ちょっと待て」

 待って。

 待ってくれ。

 さっきまで底辺配信者だったんだぞ?

 なんで数時間後に世界滅亡イベント始まってんだ。

 黒い俺が、画面の向こうで笑った。

『ほら』

『面白くなってきた』

 その時。

 部屋の隅。

 転がっていたマイクが、勝手に光り始めた。

「……え?」

 コメント欄。

【来る】

【覚醒】

【王の声】

【ついに】

「だから何が!?」

 マイクが浮く。

 赤と白の光が絡み合う。

 リリスが目を見開いた。

 アルテナも固まる。

「え、ちょ……まさか」

「嘘でしょ」

 マイクが、俺の前に来る。

 まるで。

 “喋れ”と言うみたいに。

 その瞬間。

 頭の中に、無数の声が流れ込んできた。

 人間。

 魔族。

 神。

 知らない世界の住民。

 みんな、叫んでいる。

 助けて。

 怖い。

 救って。

 導いて。

「っ……!」

 頭が割れそうになる。

 黒い俺が、楽しそうに笑った。

『選べよ、りん』

『ただの配信者で終わるか』

『それとも――』

 空の巨大な目が、こちらを見下ろす。

 街が燃えている。

 みうが震えている。

 リリスが剣を握る。

 アルテナが祈る。

 そして。

 世界中の視線が、俺に集まっていた。

『“王”になるか』

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