第15話 二度目
倉庫の中は、静かだった。
さっきまで光っていた装置は、完全に止まっている。
「直ったね」
私は満足そうにうなずいた。
クロは何も言わない。
ただ、じっと装置を見ている。
「クロ?」
「……触るなって言ったよな」
「言ってたね」
「なのに触ったよな」
「うん」
「結果、止まった」
「止まったね」
クロはゆっくりと息を吐いた。
「……はぁ」
私は首をかしげる。
「なに?」
「いや」
クロは装置に近づいた。
「ちょっと見せろ」
「どうぞ」
クロは台の上に飛び乗る。
装置をぐるりと見回す。
金属の継ぎ目。
石の刻印。
魔力の流れ。
そのすべてを確認するように。
「どう?」
私は聞いた。
クロは答えない。
ただ、じっと見ている。
さっきよりもずっと長く。
そして、小さくつぶやいた。
「……同じだ」
「なにが?」
「前の遺跡と」
私は首をかしげる。
「そうなの?」
「ああ」
クロは低く言う。
「崩れ方も」
「止まり方も」
一拍。
「まったく同じだ」
私は少し考えた。
「偶然じゃない?」
クロは即座に言った。
「違う」
その声は、はっきりしていた。
私は少し驚く。
「そんなに?」
「そんなにだ」
クロは装置から目を離さない。
「普通はな」
「うん」
「崩れた時点で終わりだ」
「うん」
「止まること自体がおかしい」
私は腕を組む。
「でも止まったよ?」
「だからだ」
クロは言う。
「一回なら偶然で済む」
一拍。
「でもこれは二回目だ」
私は「ふむ」とうなずいた。
「たしかに」
「たしかにじゃねぇ」
クロは振り返る。
「お前、分かってんのか」
「なにが?」
私は素直に聞いた。
クロは少し黙った。
それから、ゆっくり言う。
「お前が触ると」
「うん」
「壊れる」
「うん」
「でも」
クロの目が細くなる。
「結果は良くなる」
私はにこっと笑った。
「いいことだね」
「よくねぇ」
クロが即答する。
「意味が分からねぇ」
私は首をかしげる。
「そうかな?」
「そうだ」
クロは言った。
「こんなの、普通じゃない」
私は少し考えた。
「じゃあさ」
「なんだ」
「私、すごい?」
「違う」
即答だった。
「そこじゃねぇ」
私はちょっとだけむっとする。
「じゃあなに」
クロはしばらく黙っていた。
それから、小さくつぶやいた。
「……スキル」
「え?」
「お前のそれ」
クロはゆっくり言う。
「ただの失敗じゃねぇ」
私は首をかしげる。
「失敗だよ?」
「違う」
クロははっきり言った。
「何かが起きてる」
一拍。
「お前が気づいてないだけで」
私は少し考えた。
でも、よく分からなかった。
「でもさ」
「なんだ」
「結果よければいいんじゃない?」
クロは頭を抱えた。
「お前ほんとそれだな」
私は笑った。
「細かいこと気にしすぎだよ」
クロは深くため息をついた。
「……はぁ」
そしてもう一度、装置を見る。
完全に止まっている。
魔力も安定している。
異常なほどに。
クロは小さくつぶやいた。
「二度」
一拍。
「次で分かる」
「?」
私は首をかしげる。
「なにが?」
クロは答えなかった。
ただ、静かに言った。
「帰るぞ」
「はーい」
私は倉庫を出る。
外は少し夕焼けになっていた。
「今日もなんとかなったね」
「……ああ」
クロは小さく返事をした。
その声は、少しだけ重かった。
私は気にせず歩く。
クロは、肩の上で考えていた。
遺跡。
装置。
崩壊。
そして――
安定。
同じ結果が、二度。
クロは小さくつぶやいた。
「……次で確定だ」




