召喚士されし者 74・騒ぎの終わり
「俺の嫁になってくれ!一目見たときから、俺の嫁はお前と決めていた!お前なら、お前となら、どんな困難も越えていける!」
「い・や・だ!」
キリシマ拳岩術のガンレイは断られた後もしつこく求婚してきた。今も俺の両肩を掴み、鼻息を荒く迫っている。
辺りの客達も騒ぎを聞きつけ、此方に意識を向け聞き耳を立てている状態だ。
何これ、恥ずかしい。
「な、なにをしているんですか!!ユーキ様から離れなさい!」
あまりの超展開でシェイリアの酔いもぶっ飛んだようだ。
何よりだ。うん。何の解決にもならないけどな。
「落ち着け!どうしたらしくねぇぞ!おい、離せよ!つか、子供になんて事言ってんだ!!」
フリークも引き剥がそうとしてくれているが、ガンレイの腕はびくともしない。
「あっらららぁー。ユーキちゃん、モテモテですねぇ。いいなぁ、ずるいなぁ、彼氏ぃー欲しいなぁー。」
こいつは駄目だ、使えない。
「おかわりくださぁーい!」
使えないとかの次元じゃなかった。
欠片でも期待した俺が悪かった。
「だーもう、離せよ!お前みたいな熊野郎に求婚される筋合いはねぇー!」
と、必死に抗議するものの、ガンレイは聞く耳を持つ気は無いようで、グイグイ迫ってくる。
がぁぁぁぁ!近いっ!ちかぁいーー!!
あまりにもうざったいので、魔力強化を中開放でガンレイを蹴りあげる。
蹴りあげはガンレイの顎を捉え、インパクトと同時に顔が跳ね上がる。ガンレイの腕から力が抜け、その場に膝をついた。
やり過ぎたか?
と一瞬思ったが、ガンレイの変態オーラが消えてない気がしたので、一応逃げておいた。
近くにいたシェイリアの影に隠れ、様子を伺う。
あ、ほら、動いた。
生きてるよ。あれ。
「シェイリア。本当キリシマってろくなのがいないな。」
「それは、その、師範代の私としては何とも言えないのですが・・・・。」
大切な、なんかこう、人として欠けちゃいけない何かが、絶対的に足りない連中だよ、本当。拳刀の門下生の聞き分けのよさを見習って欲しい。
それから10秒と持たずガンレイが復活する。
少しふらついているものの、目には光が宿っている。相変わらずギラギラした獣みたいな目だ。
「効いたぜ、流石俺様の嫁だ。益々惚れたぜ。」
「お前の嫁になった覚えはない。もっかい蹴飛ばすぞ。」
「はははっ、照れんなって?」
こいつ・・・・。
「ガンレイ、冗談が過ぎるぞ。婚約なんて考えた事もないような子供に何を言ってんだ。」
もっと言ってやれ、フリーク。
「あ?歳なんざ、ほっときゃとってくだろ。今すぐナニしようってんじゃねぇしな。問題ねぇ。」
問題しかねぇ。
「そもそも!ユーキ様は嫌だと言ってます!お慕いしている方も!」
お慕いしている方はいねぇけど、もっと言ってやれ、シェイリア。
「問題ねぇ。時間さえありゃぁ、惚れさせてやるぜ。」
事後承諾!?
つか、惚れねぇから。惚れてたまるか。
「・・・・まぁ、それなら。」
「よくない!よくないからなシェイリア!まだ酔ってんのかっ!━━つか、惚れねぇからな。惚れる要素がねぇもん。筋肉で岩で熊だぞ!人間になってから出直してこい!!」
せめて人間で無くてはいけない。
獣はノーセンキューだ。
「まぁ、そう言うな。それを言ったらお前も対外だろ?ドラゴン並みの化け物を切り落とす奴なんざ、俺様よりの人外だろうがよ。いいパートナーになれると思うがな。」
はぁ?
「お前、極彩の森付近で馬鹿デカい鳥を落としたろ?俺は飛行船で見ていた。少しは覚えていてくれてねぇか?」
飛行船?
極彩の森って、あれか、なんとか鳥がいた所だよな。
・・・・飛行船?
「知らん。鳥は落としたけどな。」
「・・・すげぇ、接近してたんだが。」
すげぇ接近?
「うん。知らん。」
「・・・そうか。知らんか。飛行船の連中が死ぬ程感謝してたってのに、その恩人は気がつきもしなかったのか・・・・。」
死ぬ程感謝されてもなぁ・・・・。
ポカンとしていると、ガンレイが頭をかきむしった。
「━━━分かった。なら、勝負を申し込む。俺が勝ったら嫁に━━━━」
「おらぁ!!」
「ユーキ様!?」
「ユーキ!!」
「!!お客様っ!!?」
俺の拳はガンレイの顔面を叩いた。
手加減したとはいえ勿論仕留める為に放ったものだ。それなりの威力は間違いなくあった。そこいらの魔物ならば、これでお陀仏する位だ。
それが━━━。
「はぁー!やるなぁ、流石だ。女にしとくにゃぁ勿体ねぇ位だ。益々気に入ったぜ。もっと来いよ。」
耐えやがった、だと?
ガンレイは倒れる事なく、拳を額で受け止めていた。
「キリシマ拳岩術ってのはな、身体能力を極限まで上げた技もへったくれもねぇ力だけの拳術、真っ向勝負しか頭に無い馬鹿がやる拳術なんでな。ぶっ飛ばすのもぶっ飛ばされるのも得意なんだよ。分かってりゃドラゴンの一撃だって耐えきって見せるぜ・・・!本気できなぁ、受けきってやる!」
上等だ。
ユミスの時は脅しとして外した一撃だが、その頑丈さ信用させてもらうぞ。
魔力を集中させる。
拳から赤い魔力が視認出来る程に。
それをさらに全身に━━━━。
「ぁれっ?」
急に視界が揺れた。
いつも沸き上がる魔力が上手く引き出せない。
視界が暗くなり、息が苦しくなる。
気がつけば床に転がっていた。
「ユーキ様っ!?」
シェイリアの声が聞こえる。駆け寄ってくる音も。
視界がぼやけているので、よく周りが見えないが近くに感じる。
なんだ?酔っぱらってんか?
いや、そんな事ない筈なんだが。
立ち上がろうと力を入れるが、一向に体は動かない。
そうこうしている内に、意識がぼんやりとしてきた。
「━━━━━!!━━━!」
「━━━━?!」
「━━━━━━!━━━━━━!」
声が聞こえる。
誰の声か分からないが、騒がしい。
「━━━━!!」
声が聞こえる。
誰かの声が━━━━━━━
◇━◇
エルキシタ北東。
人通りの少ない寂れた道に、二人の男が倒れていた。
一人の男は赤く染まり、もう一人の男はうめき声をあげる。
それを虚ろな目で見つめる影と、倒れた男達を庇うよう、一人の獣人が立ちはだかっていた。
獣人の名はヤヨイ。
ユーキの使役する召喚獣、その内の一体だ。
「━━━━━主様?」
ヤヨイは自分の中にあるユーキとの繋がりが消えるのを感じた。一瞬、振り返りそうになるが、視線は眼前の敵を捉えたまま動かす事は無かった。
「早々に済ませたい所ですが・・・・。」
ヤヨイは静かに構える。
油断も無く、手加減も無く、全力で討たねば止まらぬその影に。
「さぁ、来なさい。」
その言葉を合図に影とヤヨイがぶつかり合う。
静かな街に轟音が鳴り響き、土煙が舞いあがる。
拳を振るう度、蹴りを放つ度、大気が揺れる。
街に静けさが戻った頃、騒ぎを聞きつけた人々は戦慄する。
二区画に刻まれた、人外達の闘いの余波。
50を越える建物が瓦礫とかしているその光景に。
そこで何があったのか、それは誰も知らない。
知っている筈の獣人の姿も、影の姿も、何も残っていなかったのだから。




