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召喚士されし者 67・出会いはいつでも突然に

 拳王杯の予選回参加者は500名を越える為、予選回はバトルロワイアル方式で6名まで絞られるそうです。なお、本選はシード権を持つ10名をそこに加え、16名によるトーナメント戦で雌雄を決するそうです。


 武祭と違い、毎年開かれる拳王杯では参加者は多くても100名程。例年通りであれば時間を掛けても予選回からトーナメント戦が行われるそうです。

 ですが、武祭の前祭として開かれる場合のみ、参加者が異常に増えるらしく、早急に結果の出るバトルロワイアル方式にかわるそうです。


 私、シェイリアは今、予選回第一戦が始まる会場に来ています。

 会場にいる85名、その内たった一人しか本選出場のキップを得る事が出来ない為か、嫌に空気が重々しいです。


 それぞれ理由はあるのでしょうが、私も負ける分けにはいきません。なんとしても勝ち上がり優勝をもぎ取って、武祭への出場資格を得なければならないのですから。

 見渡した感じ、自分より強そうな気配も姿もありませんし、油断しなければ問題ないでしょうが。


 そんな事を考えてながら体の柔軟をして始まりの合図を待っていると、軟派な優男が声を掛けてきました。

 優男は私より頭一つ大きく、それなりの体つきをしていますが、はっきり言って雑魚の部類でしょう。ロイドでさえ素手で倒せるはずです。


 そんな人が私になんのようでしょうか?


「そこの彼女、可愛いねー。まさか出場者?」

「はぁ。そうですが、何か?」


 優男は驚いた顔をした後肩をすくめました。

 なんでしょう、凄く不快ですね。


「驚いたな、こんな可愛い子が出場者なんて。世も末だね。」

「はぁ。」

「だってそうじゃないか。ラヴィラージュの花のように可憐な君に拳を握らせるなんて、絶対に間違っているよ。君の手は誰かを傷つける為にあるじゃない━━」


 優男は私の手をとって、そっと手の甲に口づけをしてきました。

 ━━━してきました。

 ━━━した。

 ━━━た。


「愛を確かめ合う為にあるのさ。」


 いやぁぁぁぁぁぁ!!


 えっ!?な、なんですか、こいつ!?

 あれですか、殴っていいんですか!?

 ふるボッコにしてもいいんですか?!

 ユーキ様!すみません!私、優勝する前に退場させられるかもしれません!!


「あれ?どうしたの?照れちゃった?」


 はぁぁぁぁぁぁぁ!?


 何言ってるですかね、この男は。

 あれですか、やっぱり殴っていいんですか!?

 いいんですよね?ボッコしてもいいんですよね!

 い、いえ、駄目、駄目ですシェイリア!落ち着くのです、我慢するのです!


「━━━と、言うより。いつまで握ってるんですか!!放して下さい!きっしょくの悪い!!」


 優男は私が振り払うまで、擦ったり、揉んだり、指を絡めてきたりしてきていました。

 どうしましょう、あのクソ野盗を思い出して吐き気がします。

 ぶっ飛ばしたいのは、本当に、凄く、山々ですが、まだ予選回の合図は出されていません。

 我慢、我慢ですね。我慢っ!!


「ははは。照れちゃって可愛いねぇ。オレ、ウイック・デール。可愛い子ちゃん、いい子でいたらご褒美上げるから大人しくしてるんだよ?」


 そう言いった後、ウイック・デールと名乗った優男は高笑いしながら人混みに消えていきました。


 ・・・・・・まぁ、今はいいでしょう。


 後で死ぬほどボッコしますから。


「そこの小娘ぇ!」


 ・・・・・。

 はて、どこの小娘でしょう。


「お前だ、お前!舐めてんのか!おぅ、こら!?」


 振り向くとガラの悪そうな獣がいました。

 茶色に染まった長い耳をピンと立て、目を赤く充血させて此方を睨んでいます。

 珍しい事に獣人の方のようです。

 しかも兎の獣人です、おっさんの兎獣人です。


「・・・・・・なんでしょうか?」

「メスが男の戦場を彷徨くな!目障りだ!!おぅ、こら!?」


 威嚇、でしょうか?

 いえ、なにか違う気がしますね。


「怪我しねぇうちに帰んな!分かったか!おぅ、こら!?」

「・・・・はぁ。」


 なんでしょう。

 心配してくれたのでしょうか?

 でも言ってはなんですが、私より果てしなく弱い方に言われても何とも言えないのですが。


「シュー・ド・メン・ドゥハサだ!メス!覚えとけ!!おぅ、こら!?」

「しゅー、ど、え、なんですか?」


 兎獣人はそれだけ言って、颯爽と去っていきました。

 ・・・・なんなんでしょう。


「あれは求婚じゃねーか?」


 振り向くと顎髭その二がいました。

 なんなんでしょうか?私の後ろに立つ事は流行りか何かなんでしょうか?


「血の濃い奴等は言葉数が極端でいけねぇよな?あれじゃ何言ってるか分からん。あ、オレはへリックソン・ルグナーだ。お手柔らかに頼むぜ。お嬢さん。」

「・・・・はぁ。」

「さっきの獣の真似じゃねーけどよ、棄権しときなよお嬢さん。下手に顔を怪我してみろ。嫁の貰い手がいなくなるぜ?」


 また・・・か・・・。


「そんな顔しないでくれよ。こっちは親切で言ってやってるんだぜ?それに、怪我させて逆恨みでもされたら堪らねぇからな。」

「・・・・・はぁ。」

「それじゃな。忠告はしたぜ。」


 そう言うと、顎髭その二は颯爽と━━━。

 と言うか、何を言っているんですかね?あの顎髭その二。

 見た感じのままの実力ならば、恐らく盗賊3人分程度。

 下手したら、我がキリシマ刀拳術の新門下生にすら勝てないだろう実力で片腹痛いですね。


「あー、そこの女。」


 今度はオークのような男が声を掛けてきました。

 でっぷりとしたお腹を揺らして、なんでしょう。

 もういい加減にして欲しいです。


 イライラしていた私が拳を構えると、「違う、そうじゃない」と額に汗をかきながら首を横に振られました。


「いやな、さっきの光景を見てた。雑魚に絡まれて腹を立てるのは判るが、下手に手を出すなよ?勿体ない。」

「はぁ?」

「お前さん、強いだろ?見てりゃ分かる。どうせなら本選でやりたい。」


 本選で?


「貴方は予選回の参加者では?」

「いや、ここにいるのは様子見。面白い出場者がいたら発破かけようかと思って来たんだ。オレは本選出場が決まってるシード組だから、余裕がありあまってるからな。まぁ要するに暇って事。オレはブーギー・ビンクスだ。」


 ブーギーさんはでっぷりとした腹を揺らし、手を差し出してきました。

 ・・・・握手、でしょうか?

 またキスされたりしませんよね?


「・・・・いや、あんな事しないから。」

「・・・あの、シェイリアです。」


 警戒しつつも握ったブーギーさんの手は、妙にプニプニした手でした。





 がっしりと掴んだ手を見ながらブーギーさんが唸ります。


「ふむ?やっぱり強いな。」

「手を握った程度で何か分かるんですか?」

「これでも拳術家の端くれだもんでね。手を握れば分かるさ。・・・っと、言いたい所だけど、あんたの場合は気配が強すぎる。これは確認みたいなもんさ。」


 気配ですか・・・・。


「あんたはあんまり気にしてないみたいだけど、そう言うのはある程度操れないと苦労するぞ。無駄に馬鹿を寄せるし、無駄に人から逃げられちまう。」

「それは、その、ありがとうございます。」

「気にするな。それにな、それは努力した証みたいなもんだろ。本当なら隠すもんじゃないさ。けど、世の中それじゃ上手く生きれねぇからな。仕方ない。」


 気配、気にした事ありませんね。

 師匠からは特に言われてませんし、今までは大した問題ではありませんでしたが・・・。


「時間になりました。予選回第一戦、もうまもなく始まります。関係者以外は退場して下さい。繰り返します━━━」


 会場に審判の方の声が響きました。


 それを聞いたブーギーさんは手を放し、会場の外へと歩きだします。


「あ、あの」

「予選回は楽勝だろ?練習してくればいい。本選で当たるの楽しみにしてる。」


 それだけ言うとブーギーさんは暗い通路に消えていきました。


 さっきのアホとは大違いです。

 見掛けはブーギーさんの方がアレでしたが、人としてはブーギーさんの方が百枚位上手ですね。


 それにしても、・・・・・気配ですか。



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