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召喚士されし者 52・東への旅路の果てに

いつも読んでくださる皆様、毎度の事ながら

ありがとうございます。


 エルキスタを示す立て札を見つけ、いよいよ20日間の長いような短い旅路が終わりを迎えようとしていた。


 地味に長かった旅路を振り返りながら、俺はムゥ先生の足をニギニギしながら風景を楽しんでいた。

 エルキスタに近づくに連れ、風景は平原から森へ変わり、森からゴツゴツした岩場混じりの高原へと変わっていった。


 因みに、ここに来るまで魔物に絡まれたり、盗賊に絡まれたり、まぁ色々あった。だが、シェイリアが瞬殺してしまうので俺の出る幕はニビイロウで終わっていた。

 暇になった俺のやる事は、ただひたすら糸を紡ぐ事と、気が向いた時、ユミスに技を掛ける事だけになった。

 お陰様で俺は、関節技だけ人一倍上手くなり、ついでに編み物が出来るようになった。


 あと最近、女子への免疫が強くなったみたいなのだ。

 ユミスに技を掛ける時、図らずも胸や尻に触れる事があるのだが、まったくと言って興奮しないのだ。寧ろ締まりの良い尻にイラッとくる時があるくらいだ。


 まぁ、あれに対してだけの可能性もあるのだが。



「ロイドー、ロイドー。あとどれくらいで着くんだぁー。」


 なんとなしに、剣の手入れをしているロイドに聞いてみた。


「ん?あーー、そうだな。日が暮れる前には着くんじゃねぇか?なんだよ暇なのか。糸でも紡いでろ。」

「俺は糸の製造機じゃねぇ。それにな、糸を作るのも体力使うんだからな。なぁームゥ?」


 ムゥは何も言わず、ただ頷くようにウニョっと頭を縦に動かす。


「ほらな。」

「・・・そうなのか。無尽蔵に出る訳じゃないんだなら。もしかして、他の召喚獣もそうなのか?無敵だったり、不死身だったりしないのか?」

「おまっ、俺の召喚獣を何だと思ってたんだ。こら。」

「例外なく化物だと。しかも、特級の化物。時空とか切断するんだろ?世界を焦土に変えたり。」

「出来る訳ないだろ。」


 コイツ、ウチの子達をそんな目で見てたのか。

 ・・・・・まぁ、出来そうな子もいるけど。


「そんなに暇なら・・・シェイリアと走ってきたらどうだ。」


 ロイドの指差した先に、背中に毛玉を背負い今日も元気に走るシェイリアの姿があった。


 ニビイロウ以来、シェイリアはほぼ走っている。

 どうやら、本気で武祭に参加するつもりらしい。いや、まぁ、考えてみるとは言ったけど。ここまでマジに仕上げてくるとは思わなかったよ、俺は。


 元々のポテンシャルが高かったのだろうか、シェイリアの体は鍛えたら鍛えた分だけ強くなっていった。この世界の人間が皆そうなのかも知れない、そう思いロイドに聞いてみたが「あれは普通じゃない」と苦笑いしていた。

 シェイリアは世紀末覇王かもしれない。


「まぁ、もうすぐ着くならなんでもいいや。編み物でもしてるわ。・・・あ、マフラー編んでやろうか?」

「・・・・また、似合わない事してるな。おちびよ。」

「似合わない事ないだろ。俺女の子だぞ、ピッタリだろ。」

「いや、ちっさいオーガにしか見えねぇ。握り潰したり、捻り殺したり、叩き壊したり、なんかこう非生産的な行動しかとらない奴にしか見えない。」

「取り合えず、お前の目を潰すわ。」


 舐めた口を叩いたロイドをしばき倒した後、いつもの棒を取りだし、棒針編みでマフラー作製を始める。因みに、この編み方はムゥ師匠から教わった物だ。俺の衣類もこの製法で編まれている。

 チマチマと編みながら思うのだが、ムゥ師匠は虫なのにどうやってこの技術を学んだのだろうか。魔術も使えるし、本当に謎である。


 ーーーあ、間違えた。




 マフラーが30センチ位出来た頃、ロイドと交代し、御者だったユミスが馬車の中に戻ってきた。


「お、ユーキ。また編み物してるの?本当、あんた器用だねぇ。私は無理だわ。」

「ん。そうか?案外出来るもんだぞ。教えてやるからラーゴにでも編んでやれ。」




「・・・・・ラーゴに?なんで?あ、それよりさ、私にもなんか編んでよ!ほらこの間ユーキに買わされた糸あったでしょ?あれでさ、なんか編んでよー。いいでしょーねぇねぇー。」


 チマチマ編みながら、俺は御者台に座っているはずのラーゴを見た。幌で姿は見えないが、なんか項垂れている気がする。


「元気だせよ。女なんてのはな、あんなもんだ。」


 ロイドの慰める声が聞こえたので気のせいではないだろう。

 つか、お前が女を語るとはな。ヴァニラか?ヴァニラの事か?


「おちび。あいつの事では無いからな。断じて無いからな。」


 よく俺の考えが読めたな。エスパーか。


「?・・・・あ、そう言えば、ユーキは泊まる場所どうするの?」

「ん?どっかの宿。着いてから決めるけど。」

「あーーーー。やっぱり。多分だけど、宿空いてないと思うわよ。この時期は観光客死ぬ程来るから、予約とかでどこも埋まってるはずよ?」

「まじか。つか、そんな話し聞いてねーんだけど。あの爺、言うの忘れてたのか?」

「いや、拳刀術家は前当主の代の時から参加してなかったから、忘れてたんじゃなくて知らなかったんじゃない?」

「あの爺ぃ・・・・。」


 よく参加もしないであれだけ言えたもんだな、おい。


「じゃねユーキ、私から提案があるんだけど。良かったら家に泊まりに来ない?広いし。」

「・・・仮にも敵だぞ。そんなんで良いのかよ。」

「大丈夫、大丈夫!私用の別宅もあるから、そっちに泊まったらいいわよ。流石に本宅だと門下生も五月蝿いだろうしねーー。」


 そう暢気に笑うユミス。

 御者台から胃がキリキリする音が聞こえるのは気のせいだろうか?いや、気のせいだな。


「これ飲め、効くぞ。」


 ロイドの声なんて聞こえない。気のせいだな。うん。間違いない。


「よし、ユーキ達は家に泊まりで決定ね!大会本選までは楽しくいこうね、おーーー!!」


 高らかにユミスは声を上げた。

 澄み渡る空にその声は何処までも響いていった。


 そしてその声は、ラーゴの胃にもキリキリ響いていった。


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