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召喚士されし者 50・飛行船の拳術家

お待たせしちゃいまして、申し訳ないです。

いつも読んでくださる皆さまに感謝感謝で御座います。

 アスラ国東部、空を駆ける1隻の船があった。


 船の名前は[商船ルナカトラス]。アスラ国に認可を承けたその商船は、今日も大きな問題もなく空の旅を続けていた。


「あぁ。退屈だぜぃ。」


 甲板に一人の男がいた。

 2メートルの体躯を広げ、大の字に寝そべるその男は、まるで熊のようだった。

 大きな欠伸をひとつかき、延び放題になった頭をかいた。


 船員達が甲板を駆け回っている姿を横目に、忙しない奴等だと男は思った。

 そんな雑踏の中から、自分に近づくよく知る気配がある。

 男は起き上がりもせず、首だけその方向へとむける。


「ガンレイ殿。そんなに暇なら鍛練のひとつでもしてくださいな。」


 そこには丸眼鏡を掛けた1人の女性がいた。

 黒い髪を頭の後ろに束ねたその女性は、つり上がった目で男を見つめている。


「キュドンか。鍛練ねぇ・・・・そう言う気分じゃねぇ。」

「でしたらこんな場所に居座らず、部屋にお戻り下さいませ。船員が迷惑しておりますよ。」

「・・・はぁん?んな事言ってこねぇぞ?」

「言える訳御座いません。貴方のご立場を考え下さいませ。そもそも、アカルド商会の商会長ケビン・アカルド氏の誠意により、この船は貴方の為に手配された船なのですよ?その貴方に文句が言えますか?その上、キリシマ拳岩術次期当主として武勇を轟かせる、ガンレイ・ギルドレイ殿に誰が文句を言えましょうか。」


 ガンレイは顔をしかめる。

 名とは実に面倒だと。


「あぁそうかい。たく、文句くらい自分で言えっつんだよ。そう言やよ。今回、拳刀の奴等が参加するって本当なのか?」

「一応、そのように聞いておりますが・・・・。」

「・・・はっきりとはしてねんだな。」

「はい。」


 やはりデマか。

 ガンレイは肩を落とした。


「まぁ、良いけどよ。しかし、あの頑固者が来てくれりゃーよ。俺もタガ外して闘えるってのによ。また八百長かよ。つまんねーなぁ。」

「そう言わず頑張って下さい。」

「八百長をか?」

「言いたい事は分かります。しかし、当主と成られるのでしたら我慢下さい。力があれば良い、そんな時代はとうの昔に終わっているのですよ。他家の者達と手をとり、キリシマ拳岩術を発展させる事、それが現当主ヒルドラ・ギルドレイ様の、お父上様の願いで御座いますよ。」

「つまんねーなぁ。やっぱ。」


 ガンレイはのっそりと起き上がる。


「分かったよ。お邪魔虫の俺様は部屋で寝てるよ。」

「はい。」


 ガンレイは立ち上がり甲板を後にしようとした。

 その時だった。


「ゴォン」


 大きな衝突音と共に、船が大きく揺れた。

 船員達は悲鳴を上げ転げ回る。


 ガンレイ多少体勢を崩すが、肩膝も着くことなくその場に立ち続ける。辺りを見渡し腰の抜けたキュドンを見つけた。


「キュドン!大丈夫か!何があった!?」


 キュドンの元へと駆け寄る。


「はい。私は大丈夫です。ご心配はいりません。しかしあれは?」

「何か見たのか?」

「あっはい。金色の大鳥です。」

「金色の?」


「あの、ギルドレイ殿それは本当ですか?」


 ひとりの船員がガンレイに尋ねる。


「俺の伴が言うにはな。しってんのか?」

極彩王鳥(ニビイロウ)と言う金色の大鳥かもしれません・・・。」

「ニビイロウ?」

「この近くに極彩の森と言う場所があるのですが、そこに生息する魔物なのです。」

「魔物だぁ?はん。俺様がぶち回してやるぜ。」

「お、お止めになって下さい!あの魔物は縄張りに入らなければ無害の魔物です。下手に手を出せば此方がやられかねません!!」

「あ?たかが魔物だろうがよ。」

「いえ、厄介な魔物なのです。空で商いする我等にとって忌むべき奴等なのです。ニビイロウは群れで動きます。ニビイロウに敵対すれば、下位個体であるニビイロが数百羽群れなして襲ってくるはずです。逃げ場のない空でそれだけは避けなくては、死にます!それにニビイロウは強いのです。」

「はぁん?強いだぁ?どんなもんか知らないがよ━━」



「竜に勝てますか。」


 船員の真剣な目がガンレイの目を捉える。


「竜、だと?」




「キュオオオオオ!!!!」


 突然悲鳴が空気を揺らす。

 ガンレイはその音の方向へ顔を向けた。


 金色の大鳥。

 翼を虹色に染め、船より大きい翼を広げ、鋭い目をした獰猛な大鳥がそこにいた。・・・・獰猛?


「キュオオオオオ!!!!」


 その咆哮はどこか悲鳴染みていて、恐ろしいと思えたその顔は悲壮的であった。


 大鳥は力の限り翼をはためかせるが、一向にその場から動いていないように見えた。


「何が・・・・。」


 大鳥の様子を眺めていると、足に何か光る物が見えた。

 それは光る白いヒモであった。


「まさか、あの巨体をあの細いヒモだけで捕らえているのか!?」


 目を凝らせば、大鳥の足には幾本ものヒモが絡んでいた。それにしても、あれだけの巨体を捕らえるにしてはあまりにも弱いように思えた。


 その時、不意にガンレイに影が落ちる。

 驚き顔を上げる。


 そこには金色の大鳥と同等の巨体を持つ、白金に輝く大鳥が空を舞っていた。

 あまりの光景に息を飲み、ガンレイは凝視する。


 すると、その白金の体毛の中に、赤く輝くひとつの影を見た。


「・・・子供・・・か?女?」


 赤い髪をなびかせたその少女は、こちらに一瞥もくれず、金色の大鳥目掛け飛び降りる。


「逃げられると思うなよ!鳥野郎!!!」


 少女は叫びながら白い剣を振り降ろす。

 鈍い音を鳴らしながら、少女は一刀で翼を叩き斬った。

 金色の大鳥は声にならない悲鳴を上げ、地面に落ちていく。


 当然少女も落ちていくが、白金の大鳥が落ちる少女をその身に乗せる。そして極彩に色づく森に向け飛びさっていった。




 2羽の大鳥が消えると、何事もなかったかのように辺りは静寂に包まれた。


 船員は固まったまま。

 キュドンは目を見開き腰を抜かしたまま。


 そして、ガンレイは。




「惚れたぜ。」


 岩のような顔を赤らめ、少女を乗せた大鳥の飛び去った森を眺め続けた。

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