召喚士されし者 44・刀対竜
どうも、どうも。
話題に流され、ついシンゴジラ観てしまいました。の、えんたです。
面白かったです。何が?って聞かれると、さぁ?としか答えようがない有り様ではありますが。まぁね、映画評論家じゃないからね、仕方ないよね。すいませんした。
ゴジラ時々エヴァな映画でした。
毎度の事になりますが、読んでくださっている方々、ありがとうございます。
拙い文ですが、楽しんで頂いたら幸いです。
では。
「決闘よ!」
どこぞの御嬢さんが声高々に言った。修練場に響くその言葉は、俺を含めたほぼ全員がキョトンとする提案であった。
俺は開いた口が塞がらなかった。
まじか。
それが俺の率直な気持ちである。
よくこの状況でその言葉が出た物だ。いや、むしろ良く言ったと褒めてやっても良い。今までのやり取りが合った上で良く言ったと。
確かに俺は自分が強いとは思わない。グラスプリザードを倒したし、巨人の軍を蹂躙もしたし、キリシマ拳刀術家の師範代を治療院送りにもしたが、それはまくまでも召喚獣の力であって俺の力では無い。純粋な俺の力だけなら今まで無傷では済まなかっただろう。魔力での身体能力の強化は、あくまで仮の実力であって俺の素の能力は低い。
俺は召喚術をこなせるただのガキだ。だから、見掛けだけなら油断するのも、侮られるのも、舐められるのも納得は出来る。勝てるとふんで挑んで来たのだとしても、そっか位にしか思わない。何も知らない相手なら、の話だが。
「決闘、で良いのか?」
一応確認しておく。
本気で決闘を申し込んでいるなら、はっきり言って殺す気で行こうと思うからだ。この世界での決闘も文字どおり命を賭けての殺し合いだ。1度決闘の約束を取りつけたら、相手が死ぬまで闘うのが普通だ。
まぁ、出来れば穏便に済ませたいとは思ってはいる。だが、やると言うならやる。相手が殺す気でくる以上、手加減する余裕は微塵もない。幼女の体力は何時だってピンチアラーム鳴りっぱなしなのだ。
それに、巨人の時とは違いお互い了承の上で行われる事なので、多少は気が楽だし。
「そ、そうよ!闘うのはあんたよチンチクリン!こっちはラーゴが出るわ!」
「ユミス!?」
ユミス御嬢さん、鬼だな。
ラーゴの顔が真っ青通り越して、白くなっている。死ぬのかな?胃痛とかで死ぬのかな?
「ラーゴさんで決闘すか?」
「そうよ!!」
「ユ、ユミスゥ!?」
うん。何だかアホらしくなってきた。
「誇りを賭けて決闘って事でいい?」
「臆したか!!」
「いや、何かアホらしくて。命を賭けて━━━って気分じゃないかなぁ。ラーゴさん、それで良い?俺らが勝ったら大人しく帰る事、あんたらが勝ったら武祭には出てやるよ。」
俺に聞かれたラーゴは首を縦に振る。高速で何度も振りまくる。この人は大変だな。道中、何度もこんな危機があったのかもしれない。
「ヤヨイ。ラーゴと闘える奴、今の門下生にいるか?」
「はい。矯正組みが全員。一般門下生にも数人おります。」
おぉ。まじか。
予定通りに師範代クラスに成長した奴らがいたのか。
・・・・矯正組み、全員?・・・・まぁいいか。
「じゃぁ、一般の奴らから1人準備させてくれ。」
「矯正組みの方が勝利は確実ですが?」
「いや、いい。一般から選んで。」
何か闘わせちゃ行けない気がするんだよな。アイツら。
そんなこんなで、修練場の中心に2人の男が並ぶ。
防具を脱ぎ捨て身軽な姿になったラーゴ・ビィーラ、キリシマ拳竜術家師範代。隣に並ぶのは我がキリシマ拳刀術家門下生、ケイト・ビンゲイツ。
あっ、アイツ昨日塀に捩じ込んだ奴だ。
「ふん。門下生如きをラーゴと闘わせるとは、目が曇っているな。拳刀術家も堕ちたものだ。」
俺の隣で、ユミスが偉そうに鼻息を鳴らす。
横に控えていたヤヨイに、小声で訊ねてみた。
「ヤヨイの目が曇っているらしいけど?」
「私の目が曇っているなら、彼女の目は腐り落ち、変わりに硝子玉でも入っているのでしょうか?愉快な話で御座いますね。」
辛辣だなヤヨイは。硝子玉って。
「誰の目が硝子玉だ!!」
ありゃ、聞こえてたみたいだ。
「さて主様、硝子玉は置いておきましょう。私は決闘の合図をして参ります。」
「ちょっ!?」
「おう。いってらー。」
向かい合う2人にヤヨイが近づく。
「さてお二方、準備は宜しいですか?勝敗は相手を戦闘不能にするか、敗北を認めさせるかのどちらかです。なお、主様は殺し合いにならぬ事を望んでおりますので、その事を留意して頂けたら幸いです。」
「僕は大丈夫です。」
「あの、いや、何でもありません。大丈夫です。」
「両者構えっ!!」
ヤヨイの合図と共に両者が構える。
ラーゴの堂々とした姿に比べ、ケイトの自信無さげな姿に不安を覚えるが、大丈夫だろうか・・・。まぁヤヨイが大丈夫だと思うのであれば大丈夫だと思うが。
「始めっ!!!!」
ヤヨイの言葉が発せられた瞬間、ラーゴの体が消えた。ラーゴは一瞬でケイトを間合いに捉える。ケイトは目を見開いたまま反応出来ずに、棒立ち状態だ。
地面を抉る程の踏み込みから、強烈な連撃が打ち込まれる。
ケイトの体が浮き上がり、苦痛に顔を歪める。
体勢を崩したケイトに、ラーゴは追い打ちとばかりに回し蹴りを放つ。なんとか反応出来たケイトは、それを腕で受けるが威力までは殺せず地面を転がる。
「ふん!当然よ!ラーゴは私の家で最も強いんだから!師範代様、今から貴女が代わりたいと言うなら構わないわよ?頭を下げればそうしてあげる。こっちもあんな門下生如き倒しても納得出来ないしね。」
自信満々と言った顔で俺を煽るユミス御嬢さん。
1発殴ってやろうか。
不利を理由に代わる気はないが、ユミス御嬢さんの笑顔を絶望に染め上げる為なら、それも悪くない気がしてきた。
ケイトよ、むかつくから早く決めてくれ。
「あ、あれ?」
吹き飛ばされたケイトは、起き上がると同時に素っ頓狂な声を上げた。自分の体をペタペタと触り、体を調べている。
その姿にラーゴは動きを止める。
「・・・・どうかしましたか?」
「あっ、いや何でも無い。あ、続きをしよう!」
思い出したように構えるケイト。
それに対し、ラーゴは警戒したように見えた。
一瞬ラーゴの意識がそれる。
その瞬間を狙い澄ましたようにケイトは駆け出す。一気に懐まで潜り込むと、腹部に拳を放った。
「ドゴォォッ!!!」
最近よく聞く、会心のボディブロー音が鳴り響く。
体が一瞬浮き上がり、前のめりにラーゴの体が沈む。
地面にドサリと倒れると、そのまま動かなくなった。
「・・・・・ラーゴ?」
「オオォォォォォォォ!?やったぁぁぁぁ!オレ、師範代に勝ったぁ!!!」
修練場にケイトの雄叫びが響き渡る。
俺の隣の御嬢さんは茫然とそれを見ていた。
ヤヨイが手でケイトを指し示す。
「勝者、ケイト・ビンゲイツ。」
「ちょぉぉぉぉっと待ったぁぁぁ!!!」
ユミス御嬢さんが雄叫びを上げる。ケイトの雄叫びが可愛いと思えるような、獣のような雄叫びだ。
ほら、元気に雄叫びってたケイトが、すっかり縮み上がってしまった。
「駄目、駄目よこんなの!!反則よ!汚いわ!ラーゴがそんな簡単にやられる訳が無いもの!毒よ、そうだわ毒を使ったに違いないわ!私達は公正な条件でのやり直しを要求するわ!」
まじか。
「御言葉でありますが、そのような愚劣な技、私の目は捉えておりませぬ。もし、私の目が捉えられぬ妙技であれば、称えるべきではありますが、反則などと揶揄される言われは無いかと?」
表情には出ていないが、ヤヨイは実に不満げに発言する。
多分自分の目が疑われたのと、教え子であるケイトの勝利に茶々を付けられたのが気に入らないのだろうな。
「反則です!キリシマの拳術は持たざる者の為にあるのです。卑怯にも道具を使用し勝利したのならば、この結果は反則により無効です。さぁやり直しなさい!この卑怯者!!」
「貴様ぁ━━」
「はい、そこまで。」
怒りが爆発しそうなヤヨイにチョップをかましてやる。
はっとしたヤヨイが顔を赤らめ頭を下げる。
良いんだよ?分かってくれれば。
素直に反省するヤヨイの頭を撫でてやり、ユミス御嬢さんの方へ顔を向ける。
「なら、俺がやろうか?ユミス御嬢さん?」
「はい?」
俺は身に付けていた白のローブを脱ぎ、シャツ1枚の姿になる。
「何を!?」
「道具を隠し持って無いことを見せる為だよ。あ、髪も縛ろっか?こんだけ多いと暗器とか入れられそうだし。何ならズボンも靴も脱ぐけど?」
いそいそと準備をする俺にユミス御嬢さんは釘付けになる。
ズボンを脱ぎ、いよいよパンツ1枚にシャツ1枚スーパー薄着状態だ。大きめのシャツがワンピースみたいにパンツを隠す。
男だったら捕まってるな。この格好。
いや、幼女でも危ないか。
長い髪を結わいて頭の後ろで1つに纏める。
「ほい。準備出来たよ。かかってこーい。」
「なっ!?」
ユミスの顔がみるみるうちに赤くなった。
あれ?怒らせた?何でよ、言うとおりにしたのに。
「な、舐めるな!ラーゴには届かないけど、私だって師範代なんだぞ!ふざけた格好で挑んだ事、あの世で後悔するがいい!!」
お前、師範代だったのか。
ラーゴよりは格段に速度は落ちるものの、それなりの速度でユミスが間合いを詰めてきた。放たれる拳を避け、蹴りを反らし、俺は隙を伺う。
隙を伺いながら、俺は考える。どうしたらこのアホ女は納得するのか、と。このまま勝っても、難癖つけてくるのは分かりきった事だ。手加減などして倒しても、手を抜くな愚弄するつもりか、とか言うに決まっている。なら、本気でやるか?駄目だな、反則だーが始まるに決まっている。
いっそぶち殺してしまおうかとも思ったが、後味が悪そうなので止めておく。苦労人のラーゴさんには笑顔で帰って欲しい。
なら、本気で威嚇してみるか?
上手くいけば戦意を挫けるし、怪我もさせない。・・・・うん。いいんじゃないか、うん!
そうと決まればやる事は1つ。
俺はユミスのがら空きの顔面に掌底を打ち込む。かなり手加減はしているが、門下生の大半はこの1発で沈む代物だ。
流石に師範代を名乗るだけあり、後ろに数歩さがるだけで倒れる気配は無い。
だが、それで十分。
俺は腕を最大強化し、魔力を限界まで凝縮させる。
ビリビリと腕に痛みが走り、ギシギシと腕が悲鳴を上げる。
これが現状最大最強の俺の一撃だ。
「ドッゴォ━━━━━━━━━━!!!!!!!」
地面に放ったそれは、修練場全体にひび割れを起こさせた。
それと同時に轟音と爆風が生まれ、砕かれた地面が飛び上がる。
巻き上がる土埃が天高く舞い上がり、あたりに砂の雨を降らせた。
視界が晴れ俺が最初に見たのは、地面に額を擦り付けるユミスの姿だった。すっかり大人しくなったユミスを横目に、修練場だった場所を見渡す。・・・・・うん。
「参りましたぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ユミスの割れんばかりの大声が虚しく響き渡る。
参ったのは俺だ。明日にも帰ってくるはずのフューズベルトの爺さんに、なんて説明しようか・・・・・。
項垂れた俺に手を差し伸べる奴は、誰もいなかった。




