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召喚士されし者 42・赤い髪の代理様殿

どうも、どうも。


シンゴジラが話題になってますね。これがゴジラとよく聞く今日この頃。個人的には一個前のハリウッド版ゴジラのレスラーみたいな感じ、結構好きなんですけど、の、えんたです。


いつも読んでくださっている方々、ありがとうございます。

まいどの事ながら、しょっぱい文ですが、楽しんで頂いたら幸いです。


では。

「ぐはぁっ!!」


 ゴスッと腹部に拳が突き刺さる。耐え難い痛みが頭のてっぺんまで響き、堪らず転げ回る。


 人間の拳では無い。華奢な拳は白く小さい。それなのにその拳の威力ときたら、えげつないほど重い。まるで鋼鉄の塊でも叩きつけられているようだ。


「大丈夫か?」


 オレの前に立つ拳の主が、あどけない顔を曇らせ見下ろす。

 小さい体だ。自分の半分にも満たない、腕も足も細い小さい体だ。


 キリシマの門をくぐり早3年。門下生として努力を重ねてきた。千本の打ち込みも、数十キロの走り込みも、毎日欠かさず続けてきた。最近はグリム師範代にも認められ始め、拳術家として自信がついてきていた。

 強くなったはずだ、グラスボアは一撃だし、レッドウルフなら3体同時に相手も出来る。


 だと言うのに何だこれは。

 オレは、一体何を相手しているんだ?


 目の前にいる拳の主が手を差し出す。

 綺麗な赤髪をたなびかせた拳の主は、優しげに笑う。

 けれどオレにはその表情が酷く恐ろしく見えた。何となく今聞きたくない事を言われそうな気がしたからだ。


「さぁ、続きをやるぞ。」


 やはり死の宣告だった。






「・・・・生きてる。」


 目が覚めたオレが最初に思った感想だ。

 ケイト・ビンゲイツ。それがしがない拳術家である、オレの名前だ。何気なく見ていた天井が見慣れた物だと分かり、自分の部屋で横になっている事を理解した。


「うなされてたぞ、ケイト。」


 同期であり同室であるハリー・ラポッドが心配そうに言った。


「大丈夫だ。つか、あの後何があった?っつ!?」


 全身、とくに背中に痛みが走った。


「師範代代理様殿が、お前を塀に捩じ込んだんだよ。今も跡ついてるぞ。」

「そうか、聞くんじゃなかったよ。運んでくれたのお前だろ?ありがとな。」

「おう。」


 痛みに顔を歪めながら体を起こす。


「骨折れてんじゃねーか?いてぇ。」

「いや、バッキバキに折れてたぞ。師範代代理様殿が芋虫で治してた。」

「聞くんじゃなかったよ。頭痛くなってきた。」


 ハリーが溜息をつく。

 やけに重い溜息に嫌な物を感じ、ハリーの顔を見る。


「どうした?」

「あ、いや、な。師範代代理様殿、どう思う?」

「どうって。・・・まぁ、メチャクチャだな。」

「あぁ。それもあるけどよ、・・・・強いよな。正直ついていけない程によ。」

「・・・・あぁ。・・・・・・そうだな。」


 ハリーの言いたい事は分かった。

 恐らくハリーは辞める気なのだろう。


 確かに、あれだけの強さを子供に見せつけられれば自信も揺らぐ。オレだって、僅かに積み上げた自信をボコボコにされている。


 だが・・・・。


「止めとけよ。」


 オレはハリーに釘を刺した。

 理由はある。


「ジェイフがどうなったか・・・・知らない訳じゃ無いだろ。」


 ジェイフ・ユキンス。同門の拳術家だ。

 キリシマ拳刀術を受け継ぐ、次代の師範代と期待されていた男だ。拳術の才能もさる事ながら、性格も真面目で明るく人当たりも良い、誰にでも好かれる男だった。・・・・だった。


 ジェイフは一度逃げ出した。原因は、師範代代理様殿と組手をした後だ。


 組手の結果は悲惨な物になった。

 一撃。抵抗も許さぬ、剛の一撃。ジェイフは20メートルもの距離を吹き飛び、塀に叩きつけられた。普通ならそこで終わっていたはずだ。しかし、人より頑丈であった彼は立ち上がったのだ。震える足で、虚ろな瞳で、苦しげな呼吸で、彼は立ち上がってしまったのだ。

 構えを無意識にとるジェイフに師範代代理様殿は笑顔を見せる。そしてスキップで近づき、目にも止まらぬ速度で再び拳を振り抜いた。当たる寸前、ジェイフの腰が落ちた事が幸いし、師範代代理様殿の拳は空を切る。


『パァン!!!』


 到底、拳が鳴らす音とは思えない音が修練場に響いた。

 遠くから眺めていたオレですら、背筋が冷えた音だ。ジェイフの顔は見た事が無い程に青く、冷や汗でぐっしょりになっていた。


 逃げ出したのは、そのすぐ後だ。


「今のアイツみたいに成りたいのか?」

「いや、でもよ恐いんだよ。明日、あの人と手合わせしなきゃならないんだと思うと手が震えるんだよ。見ろよ、今だってほら震えが止まらないんだよ。笑えるだろ、情けないよな。ハハ・・・・。」


 ハリーの手が小刻みに震える。

 いや、手だけでは無い。全身が小さく震えている。

 オレはハリーの肩を抱く。


「大丈夫だ。オレだって生きてんだ。大丈夫、大丈夫だ。」

「おま、お前は知らないから、そんな事言えるんだ。見たんだよ、オレ。お前の真っ赤になった背中、血が出て、骨が飛び出て、でもお前、悲鳴所か、唸りもしないで・・・・。恐いんだよ。自分がああなるのが!!」


 オレは一晩中ハリーの背を撫で続けた。


 翌日、空は生憎の雨模様。

 ハリーのいつもの陽気な気配はなりを潜め、今日の天気のように暗く沈んでいる。

 他に指名を受けた者達も一様に表情が冴えない。


 もしこの場に部外者がいたのなら、そんなに辛いなら辞めてしまえば良いと言うのだろうな。だが、それは出来ないのだ。人にもよるが、多くの奴等が2つの理由で辞められずにいるはずだ。

 1つは、帰る場所が無いからだ。キリシマの門を叩く者の多くは持たざる者なのだ。キリシマは持たざる者の戦闘術。そんな指標を掲げていた為か、道具以外でも金や地位、家族や家、と言った抽象的な物を持たない者達が集まりだした。今いる連中の殆どが、そう言った持たざる者達なのだ。

 もう1つは、師範代代理様殿が許可しないからだ。

 師範代代理様殿は現在キリシマ拳刀術の一時的な代表であり、オレ達門下生の進退を管理しているのだ。あの人物が首を縦に振らない限り、辞める事はおろか、逃げる事も出来ない。

 逃げようとした門下生は軒並み捕らえられ、狐耳の獣人に矯正される。辞めようとした者は、師範代代理様殿に優しく肩を叩かれた後に、ばかでかい魔獣に追われながら地獄の走り込みをやらされた。


 逃げ道など無いのだ。始めから。


 ・・・・・いや、違うな。この状況はオレ達が招いた事なのかもしれない。もっと礼儀を持って接するべきだったのだ。見かけに騙されずに、もっと思慮深くあの人物を見極めるべきだったのだ。そうすればきっと・・・・。



 修練場にて準備運動を済ませ待機していると、師範代代理様殿が赤い髪をなびかせトコトコとやって来た。


 全員の背筋ががピンと伸びる。胸を張り、足を揃え、全員が全身全霊で声を張り上げる。


「「「「「「「おはようございますっ!!」」」」」」」


 師範代代理様殿が軽く此方を見る。「おはよ」と小さい挨拶を返すと、欠伸をかきながら定位置である場所に向かった。


 今日も、いつもと同じ1日が始まる。

 朝から晩まで死ぬほど走らされ、指名を受けた一部の者は組手をやらされる。初日以外はずっとそうだ。


 全員が息を飲み、師範代代理様殿の号令を待つ。

 その時だった。



「「たのもぉーーーー!!!!」」


 男女の大声が修練場に響いた。


 オレを含めた門下生の全員が血相を変え声の主を探す。いや、狐の獣人に矯正された連中は見向きもしていない。

 そんな事よりあの声の主だ。朝は師範代代理の機嫌がすこぶる悪い。余計なちょっかいをかけられ機嫌を損ねれば、1日地獄を見る事になるのは自分達だ。


 すると門下生の1人が声の主を見つけ声を上げる。


「いたぞ!!あそこだ!」


 その声に続き、門下生達が声の主に駆け出す。オレもそうだが皆必死だ。目が血走り、歯が砕けそうな歯軋りを鳴らし、冷や汗を流す。


「てめぇ!ふざけんなぶっちゃすぞゴラァ!!」

「朝からやかましんじゃぁ!!!!」

「帰ってママのおっぱいでもしゃぶってこいやぁ!!」

「殺す殺す、絶対殺す!!!」

「あの馬鹿共黙らせろ!」

「失せろ、カス共!!」


 叫びながら駆けてくる門下生達に怖じけついたのか、訪問者達が狼狽える。


「あ、いや、あの、僕達はキリシマ拳竜術の者で・・・!」

「うわぁっ!?何だよコイツら!?」


 謎の訪問者を全員で取り押さえようと、飛び掛かった瞬間。


 一迅の風が吹いた。

 うっすらと赤と白の軌跡が目に写る。


「何をしておるか?馬鹿共。客人も分からぬか?」


 声の主を理解したオレは目を瞑り、痛みに備える。

 よく考えれば分かっただろうに。世の中、上手くいかない物だ。


 ゴスッと腹部に蹴りが突き刺さる。

 痛みで意識が薄れる中、オレの耳はある言葉を捉えた。


「ふむ、中々に頑丈であるな。稽古量を見直す事、主様に進言せねばならぬな。」


 成る程、また死の宣告か。

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