召喚士されし者 37・シェイリア尾行中
巨人進行に賑わいだあの日からもう一月。
アスラ軍はアトヌウス砂漠に前線をはっている。
今だ巨人達の動きはないらしいのだが、当分警戒が解かれる事はないだろう。
最初に攻めてきた部隊は俺が殲滅してしまったが、次の部隊が無いとは言えないので、完全には無駄にはならない処置だと思う。
決して、真実を伝えてない事への後ろめたさで、彼らの行動を肯定している分けではない。決してないのだ。
この一月の間、ギルドに寄せられる仕事は激減した。
いや、正確に言えば無くは無いのだが。
仕事の大部分は商工ギルドに寄った物になった。戦士ギルドに寄せられる仕事の大半は護衛任務に占められ、その仕事でさえ指名依頼となっており、ランク3以上ないと受ける事も出来ない状況だ。
おかげでランク1の俺はまともな依頼を受けられず、文無しのプー太郎状態だった。
まぁ、最近、ムゥの糸がそこそこの値段で買い取って貰える事を知ってから、商工ギルドに糸を卸しているので、金には困らなくなったのだが。
さて話はかわるが、最近シェイリアが急速に力を付けてきている。そりゃもうメキメキと。
この間なんて裏町のチンピラ達を片腕で捻っていた。
10人相手で息も切らさずにだ。
おかしい。旅に出る前はあんな子じゃ無かった。
そんな訳で、今俺達はシェイリアのパワーアップの秘密を探る為、シェイリアを尾行中である。
「不毛だぜ、おちび。」
「いいだろ、どうせやる事もない穀潰しなんだから。」
「お前も似たようなもんだろ。」
最近、買い物以外で出かける事の増えたシェイリア。
聞けば教えてくれると思ったが、後でこっそり尾行したかったので聞くのは止めた。
楽しみはとっておく主義なのだ。
「聞けばいいだろ。間違いなく答えるぞ嬢ちゃんなら。」
「いいんだよ。こう言うのやってみたかったんだから。」
「不毛だろ。本当に。」
シェイリアは大通りに向かっているようだ。
こそこそと物影に隠れながら尾行を続ける。
「・・・ヴァニラん所のお嬢ちゃん。何してんだい。」
近所のマルフス爺さんが不意に話しかけてきた。
「尾行中だ。静かにしてくれ。」
「そうかい。楽しそうだね。あぁ、良かったらコレ食べるかい?美味しそうなトーガが売っててね、買いすぎてしまったんだ。」
「あんがと。」
トーガは黄色くて丸い果物だ。リンゴみたいなシャリシャリ感とミカンみたいな酸味と甘味のある果物で、個人的には嫌いではない。
マルフス爺さんに貰ったトーガをかじりながら尾行を続ける。
大通りに出た所で大きな声が俺に掛けられた。
「ユーキだ!何してんだよ!」
「ユーキちゃんだ!遊ぼうー!」
「遊ぼう。」
声を掛けきたのは近所の子供達だ。
生意気なテル、お転婆なイニス、影の薄いゼルリアの3人組だ。
「黙れガキ共。俺は忙しいんだ、言ってやれロイド。」
「この上なく暇だろ。」
イニスが俺に近寄る。
「駄目なんだー。ユーキちゃん、女の子は俺って言っちゃ駄目なんだよ。」
「うるせぇ。」
「うるせえも駄目なんだよ。」
うるせぇ。
「しょうがねぇな、顎髭も仲間に入れてやるよ。」
「顎髭じゃねぇ。」
「顎髭だよ。ついてる。」
ロイドも絡まれだしたか。
仕方ない。
「ガキ共、俺は今極秘任務の最中なんだ。遊んでる時間はない。」
「「「極秘任務!!!」」」
俺はポケットから小銭を取り出す。
「今から任務に必要な物を言うから、それを買ってヴァニラの家に集合だ。いいな。」
「「「おおーー!!!」」」
こうして適当な任務を与えられた3人組は、大通りへと消えていった。
「手馴れてんなぁ。」
「伊達に一月も相手してねぇからな。」
「最近、何をしてるかと思えば。」
「好きで遊んでたんじゃない。」
大通りを歩くシェイリアの尾行を再開する。
すると、ある物が目についた。
「ロイド、ロイド。大変だ。」
「どうしたおちび。」
俺は神妙な面持ちで指をさす。
由々しき事態だ。
「アイス屋に新色のアイスが並んでる!」
「今日は全力でボケてんな、おちび。」
色から察するに果物系か?
くっ気になる。
「買ってきてもいいだろうか。」
「我慢しろよ。」
「ちょっと行ってくる。見張りよろしく。」
「おい。」
アイス屋に元気に呼び掛ける。
子供っぽく振る舞うと、ちょっとオマケしてくれるのだ。
「こんにちはーー!アイス下さい!」
「あら、ユーキさんこんにちは。」
店に居たのはいつものオッチャンではなく、蒼の一族ことルゥだった。
「げぇ。何してんだよお前。」
「お仕事ですよ。研究調査の為にもお金は必要ですからね。待って下さいねユーキさん。今に大金を稼いで迎えにいきますから。」
「あーーもう。いいよって言ったろ。それよりアイス2つくれ。新しい味の奴とコーア味な。」
「はい。大銅15枚です。」
むう。ちょっと値上がりしてる。
まぁ、戦争ムードのこの時期に、趣向品が値上がりするのは仕方ないか。
「新しい奴ってなんの味なんだ?」
「サラマンドラ味だそうです。」
「サラマンドラ・・・。」
あれ、どっかで聞いけど何だっけ。
食べ物の名前じゃない気がするけど。
むう?
取り合えずひと舐めしてみた。
うん?なんか肉々しい。果物じゃないな。
まぁ、嫌いではないかな?
先行させていたロイドと合流し、再び尾行を開始する。
「シェイリアの奴め、いったい何処まで行くんだ。ペロペロ。」
「マジで時間の無駄だな。もう聞けよ。ペロペロ。」
「嫌だ。ペロペロ。」
シェイリアはとある建物の前で足を止めた。
「むぅ。あれは?」
動きがありそうな予感に、俺は残りのアイスを口に捩じ込む。
キリシマ拳刀術と看板を掲げるその建物に、シェイリアは入っていった。
「ロイドいつまでアイス食ってんだ!さっさと食えウスノロ!行くぞ。」
「はいはい。」
建物の裏手に回り、覗けそうな窓を見つけた。
ただ少しばかり高い位置にある。
「ロイド、肩車。」
「あーーはいはい。」
ロイドが当然のように膝をつき、俺もまた当然の如く股がる。
これで俺の視線は常人より遥か高みに達した。
いざ窓に組み付き覗こうとしたその時だった。
「何をしておるか。」
背後から厳格そうな老人の声が掛けられた。
振り向くと臨戦態勢をとった筋骨隆々の老人がいた。
俺は任務の失敗を直ぐ様理解すると、迷う事無くあの言葉を発した。
「シェイリアお姉ちゃんを見に来たの!」
「!?」
久しぶりの、シェイリアの妹ユーキ降臨である。




