召喚士されし者 36・蒼の一族
大量の皿が重ねられたテーブルの前で1人女性が両の手を合わせた。
「ご馳走さまでした。」
その言葉には山より高く海より深い感謝の念が込められていた。
そんな女性の姿に、在るものは食のありがたみを、在るものは感謝の大切さを、在るものはこうなる前に何とか出来ただろ、と思ったと言う。
「しかし・・・・・よく食うな、アンタ。」
「いえ、そんな。朝飯前ですよ。」
ロイドの軽い皮肉に、女性は笑って謙遜する。
褒めてない上に、飯食った後に朝飯前って可笑しいだろ。
昼前、俺が拾ってきた行き倒れは、10日間何も食わず旅をしていたらしい。
あまりに可哀想なので昼飯をご馳走する事になったのだが、これがまたとんだ大食漢だった。
食うわ食うわ。
3日分4人の食料をたった1食で食べきりやがった。
「おちび、お前はどうして変な奴を引き寄せてくるんだ。」
「さぁな。胸に手を当てて考えてみろ、変な奴。」
女性は口に付いたソースを拭き取ると、椅子から立ち上がって俺達に向き直った。
「私は、魔生物研究会代表ルゥ・ミーシャ・アクセルです。この度は、危ない所を救って頂きありがとうございました。」
そう言うと被っていたフードをとり、深々と頭を下げた。
その姿にヴァニラが口を挟んできた。
「珍しい髪の色ね。染めてるの?」
ヴァニラの言う通り、ルゥと名乗った女性はこの世界でも珍しい綺麗な青髪をしていた。
「はい、よく言われます。私、一応これでも蒼の一族でして、生まれつきなんですよ。」
「蒼の?召喚士の?」
蒼の一族?どこかで聞いたフレーズだな。
「はい。」
「はぁー実物は初めて見るわ、私。」
俺は話し合っているルゥと変態を無視してロイドに呼び掛ける。
「なぁ、蒼の一族って何?」
「お前召喚士だよな?」
「教えて。」
「・・・・はぁ、いいか?蒼の一族ってのはな、アスラ国で一番有名な召喚士の名門一族だよ。一時は国の英雄とまで言われていたんだ。」
「へぇ。」
「外見的な特長は青い目と青い髪。一族は例外なく召喚術に適した才を持って産まれてくるらしい。」
「魔生物研究会って?」
「それは知らん。魔物を調べてんじゃねーか?」
俺とロイドがヒソヒソ話していると、「コホン」と小さな咳が俺達を止める。
「もしや、魔生物研究会にご興味がおありで?」
目を輝かせたルゥが俺達を見ていた。
俺はすかさずロイドを押し出す。
「ロイドがね。」
「おい、おちび!」
「そうですか、そうですか!でしたら是非ともご説明させて頂きますますとも、救って頂いたお礼です。ちょっとした研究内容もお教えしますよ。救って頂いたお礼ですもの。」
鼻息荒いルゥはロイドにヅカヅカと迫っていく。
肩掛け鞄を開き、中から大量の資料を取り出した。
「いいですか顎髭様。」
「誰が顎髭だ。」
「我が魔生物研究会は、魔物や魔獣を中心とした研究に勤しんでおりまして。主に生態、生息域、及びその対象の危険性を研究調査している訳です、はい。」
「近い近い。」
「まず見てください。私が専門に研究してますのは主に新種または変異種です。ここ最近この近辺で魔物の活性化の噂を聞きつけまして、これこの通り、通常のラットルに比べナダ周辺のラットルは1,25倍大きいのです。他にもありますよ。これは異形ダグクロウ、非常に凶暴でした。これは内包魔力が倍だったアローキマイラで実に興味深い物でしたし━━━。」
止まらないな。この女。
俺が相手しなくて良かった。
しかし、召喚士ってのはこんな奴らしかいないのか?
あのカッコつけイケメンも大概な感じだったし、まともなのは俺だけだな。
そんな事を考えていると、食器を片付けるシェイリアと目があった。何か言いたげな目をしている。
なんだろ?わからんな。
「兎にも角にも、この周辺地域が異常な異変が起こりつつあると言う事なのですよ!数奇で怪奇なこの事態、国の守り手たる我が蒼の一族が立ち上がらねば誰がやろうと言うのです。故に我が蒼の一族は国の憂いを払うべく、御依頼を承る前に事前調査を行っている訳なのです。」
ルゥは声高々に語った。
ロイドを見つめるその目は、一点の曇りの無い綺麗な物だった。
「1ついいかアクセル。」
「はい、顎髭様。何でしょうか?」
「蒼の一族で魔生物研究会代表のアンタが、なんで行き倒れてたんだよ。」
ロイドの言う事はもっともだ。
どちらの肩書きも金に困りそうな物ではない。
ルゥはもじもじしながら恥ずかしそうに言った。
「あ、いえ、その。なんと言うのでしょうか。今の蒼の一族は昔程の権威もお金もありません。先々代の者が召喚術の事故を起こしまして。その際与えられていた役職と私財を没収されました。」
俺は変態を見る。
「何ユーキちゃん?あぁ、彼女の言った事?本当の事よ。40年くらい前だけど、王都の一角を召喚術で吹き飛ばしたらしいわ。長年の功績もあって死罪は免れたらしいけどね。」
「よくそれで名乗れたな。」
「まぁ、奇跡的に死者が出なかったらしいし、王都ならともかく地方ではまだ蒼の一族は[それなり]なのよ。」
なるほどなぁ。
しかし、
「魔生物研究会代表ではあるんだろ。」
大層な肩書きだ。
俺の不意の問いかけに、ルゥの表情が固まる。
「・・・・・魔生物研究会は私が立ち上げた物でして。会員も私だけの民間組織なんです。」
「・・・・・・・・それは組織なのか?」
気まづそうに視線をそらすルゥ。
「い、一応、魔導師ギルドには登録してます。」
「そうか。」
「ユーキちゃん確認とる?」
「いいよ。なんか疲れた。」
何だか思っていた以上に駄目な奴の匂いがする。
召喚士と聞いた時は有益な話が聞けると思ったが、なんか駄目そうだな。
「実を言うと、現状お返し出来るものがありません。」
「さっきロイドが貰ったろ。貴重な研究成果を聞いたんだ、それでチャラでいいよ。」
「いえ、そんな。あれは私が言いたかっただけでして。」
言いたかっただけって言い切ったなこの女。
「それに、ユーキさんの家族になる約束もありますし。」
「そんな覚えはない。」
「いえ!大丈夫ですユーキさん。安心して下さい。私今は文無しの無職みたいなもんですが、この研究が認められれば国から多額の報奨金もでるはずですから、ひもじい思いはさせませんよ!」
ロイドが俺の肩を叩く。
「苦労しそうだけど頑張れよ。」
「ふざけろ。つか、ルゥ、アンタも気づけよ。さっきのはアンタにご飯を食わせてやる体だっつの。」
「・・・・・?」
コイツまじか。
「じゃぁ、あれだ。シェイリアがおいたした御詫びだ。飯の恩は忘れてくれ。」
「いえ。あれは私が悪かったのです。お友達がみすぼらしい得体のしれない女に抱き締められていたら、殴ってしまうのは人情と言う物。それは仕方ないのです。」
頑なに食いついてくるな。
なんだ?恩返してしないと死ぬのか?
「だからユーキさん。私の事はお姉ちゃんだと思って甘えてきて下さい!」
ルゥは両の手を広げる。
・・・・いや、飛び込まないからな。
俺はそっと魔法陣を造り出し、アルディオを喚び出す。
「ワァオ。それがユーキちゃんの騎士の召喚獣ね?」
「おお。なんと見事な召喚式。ユーキさんは召喚士だったのですね。」
ヴァニラとルゥが俺のアルディオに黄色い声をあげる。
それを横目に俺はアルディオに命を下す。
「アルディオ、その青い奴、捨ててこい。」
そっと優しく摘ままれたルゥは、裏口からそっと捨てられた。
今後は助ける人も考えなければいけないな。
俺は食後のお茶を口にする。
「ロイドよ。」
「何だおちびよ。」
「世の中には色んな奴がいるんだな。」
「そうだな。」
俺は窓を開き遠い空を見上げた。
あのチョロい蒼の一族を思って。




