(四)天使候補生:謎の手紙
「あ! コト姉さまですの!」
部室棟入り口付近まで来た時、入口横の階段下で佇む副会長の埜之平コトネの姿を見つけた。
「ん?」
ジッと立ち尽くしている副会長の様子がおかしい。なにやら神妙な顔つきで、片手に持った茶封筒を見つめていた。
そんな副会長の様子に構わず、ハノンがにこやかに副会長に駆け寄っていく。そして、ユリルに負けずとも劣らないその豊かな胸に、バサッと音を立てて顔を埋めた。
「コト姉さま!」
「きゃっ!……あああ、ハノンちゃん! びっくりした〜もう」
……男だったら許されない行為だ。
神妙な顔つきをしていた副会長だが、ハノンの顔を見ると、すぐにいつもの明るい表情に戻ったようだ。
「うふふ、出会えて良かったですの!」
「ハノンちゃん元気そうね。ナットくんにはすぐ会えたの?」
「はいですの! わたくしの敵探知レーダーは高性能ですの!」
「そうなんだ」
にこやかに笑ってる副会長だけど、ハノンのやつ、今はっきりと『敵』って言ったよな……。なんだかやけに頭が痛くなってきたな。
「副会長さん、おつかれさまです」
「ああ、真舟さん、チャオ」
ユリルが丁寧に頭を下げると、副会長はにこやかに小さく手を振って応えた。
「なんだか浮かない顔をしてましたけど、どうしたんですか?」
さすがユリルだ。細かいところをちゃんと見てる。
一方のハノンは、副会長の大きな胸に顔を埋めたまま、「ん?」っていう顔つきをしている。
「あっはは、見られちゃってた?」
「はい」
「ん〜〜〜〜……」
視線を非ぬ方向に彷徨わせながら、副会長が頭を掻く。どう答えたものか、といった表情だ。
「コト姉さま、何か事件ですの?」
「うん、まあねぇ……まあ、いっか。出来る限り、関係者の中で収めたかったんだけどね〜」
少し肩をすくめてみせると、副会長は手にしていた茶封筒を差し出した。
俺とユリル、そしてハノンの三人で一斉に覗き見る。
新聞の切り抜きだろうか。文字が繋ぎ合わせて貼り付けられていた。サスペンスやミステリー小説なんかでよくある手法だ。
「……『コノ ガッコウ は 呪ワレテ いる』」
俺が声に出して読み上げると、ユリルは驚いたように口に手を当てた。ハノンは頭にはてなマークを浮かべているようだが……。
「……脅迫文ですか?」
「うん、そんなとこかしら。数日前から『文化祭を中止しろ』って内容の手紙がね、生徒会宛に届くようになったのよ」
「切手が貼られてないってことは、直にここまで持ってきてるってことですよね?」
「そうでしょうね〜」
副会長は頷きながら無造作に茶封筒の封を切ると、中に収められていた紙を取り出した。そこには副会長が言った通り、「文化祭を即刻中止せよ。さもなければ、この学校に災いが降りかかるだろう」と書かれていた。その文面も、やはり新聞か雑誌の切り抜きを貼り合わせたものだった。
「ただのいたずらなんじゃ?」
「うーん、どうかしら。文化祭の主催責任者である生徒会としては、完全無視っていうわけにも行かなくて」
「なるほど」
「ナットくんや真舟さんは、何か変な噂だとか、同じような手紙だとか、見聞きしたりしてない?」
副会長の問いかけに、俺とユリルは顔を見合わせると、同時に首を横に振った。
「ふーん、そう。……やっぱり生徒会だけをピンポイントに送ってきてるのかな〜?」
副会長は頬を膨らませて、その頬を不満気にちょんちょんと人差し指で突っついた。
「ま、いいか。なるようになるわよね」
……切り替え早っ!!
そういったところはさすがだな、とちょっと感心する。
俺なら結構思い悩んで、いろんな人に相談しまくりそうだが……。
「ごめんね、変な事聞いちゃって」
「いえ、わたしは大丈夫です」
「そう? まあ、もしよかったらでいいんだけど、何か学校で変な噂やこういう手紙を見かけたら、すぐにあたしに知らせてね」
「はい」
「あ、あと、埜之平高校文化祭『樹平祭』への協力よろしくね。生徒みんなで盛り上げましょ」
「はい、もちろんです。わたしのクラスでも、みんなで準備してますから。もうお店の内容も演出も決まってますよ」
「おー、いいわね〜。1年生がやる気あるって助かるわ〜。で、ナットくんのクラスは?」
「……え? 俺のクラス?」
……文化祭の準備なんかしてたっけ?
思わず頭を掻いてしまう。
そんな俺の様子に、副会長が前かがみになって顔を突き出し、意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ハノンちゃんていうマジ天使までいるんだから、しっかり頼むわよ」
前かがみになると、制服の隙間から豊満な胸の谷間がどうしても目につくんだよな……。
思わず、視線を逸らして首を小さく振ってしまう。
「……ああ、はい。スミマセン、ちゃんと把握しておきます」
「よろしくねー。ホントは双破クンを頼りたいところだけど、たぶん彼、『埜之平精霊魔術王子コンテスト』で頭がいっぱいだから」
……『埜之平精霊魔術王子コンテスト』だって?
まあ、双破らしいっちゃ双破らしいな……。
「俺なりにちゃんと協力します」
「あはっ、よろしくねー。ちなみに、文化祭運営ボランティアは常時募集してるから、参加したくなったらいつでもあたしに声をかけてね。ゼノリスの任務そっちのけでも構わないんだから」
手紙と茶封筒をパタパタと振りながら、明るい調子でとんでもない暴言で言い放つ副会長。
いやいや、そんなわけにはいかないだろう……。そんなことしようものなら、滝宮隊長が胃痛と頭痛に悩まされる日々を迎えることになりそうだ。
「いっけない、そろそろ生徒会室に行かないと。ハノンちゃんも、ちょっとだけ生徒会に付き合ってね」
「はいですの!」
元気よく答えるハノンを連れて、副会長は上に続く階段へと颯爽と姿を消した。
「ナツトくん、わたしたちも帰りましょう」
ユリルが俺に向かってニッコリ微笑む。
「あ、そうだ」
と、いきなり何かを思い出した表情をする。
「ん? なに?」
「ゼノリス入隊、おめでとうございます」
そう言って、ユリルは深々と頭を下げた。
そして顔を上げると、ニッコリ微笑む。
……キミが、それを祝福するのはおかしいことなのに……。
その姿に、胸いっぱいに感情がこみ上げてくる。このままユリルを抱きしめたい気分だ。
「サンキュ。俺なりにいろいろがんばるよ」
「ナツトくんなら大丈夫です」
思わず照れて、頭を掻く。
ユリルといると、自然と心が湧き踊る。こういう瞬間はたまらなく楽しい。
もっと……ユリルと仲を深めていきたいな……。
天使の仕組んだ絶対運命なんて、無ければいいのに……。
それを思うと、急激に湧き上がってきた感情が、じんわりと切ない気分へと塗り替えられていった────。
<第四章(四)天使候補生 終>
怪しい手紙ってどうなりますかね~?
長かった「(四)天使候補生」も今回で終わり!
次回から「(五)鬼人」に入ります。次節は3話で終わる予定です。




