(五)心の真偽:やきもき
ゼノリス第二十六地区本部────。
『マウリニオの鏡』による調査を終えた俺は、簡単な身体検査を終えて一人、待機室のソファに座っていた。今はユリルが、俺と入れ替わりでマウリニオルームに入っている。
正直、気が気ではない。
「(悪魔ってことがバレたりしないよな……)」
祈るような気持ちだ。
双破タケルはというと、もう一つのマウリニオルームに入っている。俺とほぼ同じタイミングで入ったが、かなり時間がかかっているようだ。
俺は昨日、同じ調査を受けたので、早かっただけかもしれない。相変わらず、モンスレの映像が映し出されただけだった。特に今日は、蜘蛛の糸を焼き切るのに悪魔術を使った程度だから、それこそ取り留めのない映像ばかりだった。
俺自身が悪魔術を使ったことがバレたりしないか、なんてことよりも、とにかくユリルの事が気がかりで仕方ない。
いても立ってもいられなくて、腰を上げて部屋をグルリと回っては腰を下ろすを繰り返している。
もう何度目か、部屋をグルリと一周している時だった。
ガチャリとドアが開いて、埜之平コトネ副会長とユリルが入ってきた。
「二人とも災難だったわね、おつかれさま」
「双破先輩がいてくれて、ホントに助かりました」
「フフッ、そうみたいね。ちょっと飲み物持ってくるから、ここでしばらく待ってもらえる?」
「はい、わかりました」
副会長は小さく手を振ると、ドアを締めて去っていった。
すぐにでも尋ねたい気持ちでいっぱいだったが、この部屋にも監視カメラがある。あからさまな行動をすれば、怪しまれかねない。ドキドキする胸を抑えながら、ゆっくりとソファに腰を下ろした。
すると、ユリルが近寄ってきて、すぐ横に腰を下ろした。太ももがかすかに触れる距離だ。
「……どうだった?」
床を見つめながら、小声で尋ねる。
「短期記憶が映し出されてました。『ノイズが多いよ〜』って星渡さんが言ってましたけど」
「そっか……俺が悪魔術を使ったってことは?」
「精霊魔術を使ってました、と言っておきましたよ」
ユリルの口調が明るい。チラリとユリルの方を伺うと、ニコッと微笑み返してくれた。それだけのことだが、胸いっぱいに温かいものが広がる。
思わず頭を掻きながら、自然と頬が緩んでいた。
「他に、何か怪しまれるようなものは映ったりしなかった?」
「うーんとですね……」
ユリルは人差し指を顎にあてて、思い出すような感じで天井を見つめる。
「お父さんやお母さんが出てきましたね。あと、永嶋さんとさっちゃんも」
「それって……なんだろう?」
「……わかりません。なんでしょうね? 時々、フワッと出てくるだけで……星渡さんから『この人は誰ですか〜?』って質問されちゃいましたけど」
「うーん、なるほど……」
「きっと大丈夫です。問題無いと思いますよ」
「そっか。じゃあさ、身体検査の方は?」
朝、以前のミストで受けた傷のことを気にしていたはずだ。
「大丈夫でした。グァルディオール反応も標準プラスということで」
思わずホッと、溜め息をつかずにはいられない。
「ナツトくんの映像化は、どうでしたか?」
「俺は相変わらずさ。モンスレの映像ばっかり」
「そうですか。……あとで教授にもお話しましょう。わたしが『マウリニオの鏡』の調査を受けたって聞いたら、どんな顔するか、ウフフ」
ユリルは胸の前でそっと手を合わせながら、可笑しそうに微笑んだ。俺なんかよりも、よっぽど度胸が座ってるな……。
「わたし、あんなに綺麗に映像が映ると思ってなくて。わあ、面白いなって思いながら質問に答えてました」
アトラクションに喜ぶ子供のような表情だ。
「姫がご満悦のご様子で、爺は満足にございます」
「あら?」
俺のおどけた言葉に、ユリルが目を丸くする。
「双破に、『姫』って呼ばれてたでしょ」
「あれは……実はちょっと恥ずかしいんですよ。双破先輩にもそう言ったんですけど」
「え、そうなの? まんざらでもなさそうに見えたけどな〜」
「わたし、独り立ちした立派な女性を目指してますから」
そう言うと、ユリルは背筋をピンと伸ばし、澄まし顔をして見せた。
まるで「子供扱いしないで!」って言う幼い子の用に見えて、思わず「ふふふ」と笑う。ユリルも顎に手を添えてクスクス笑う。
二人でいると、それだけで楽しいな……。




