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天使な悪魔の絶対運命  作者: みきもり拾二
◆【第三章】新生活は突然に
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(四)天才躍動:侵入

 次々と白い靄が湧いてきて、悲鳴を上げている女子生徒もいる!


「まさか……?」


 思わずベンチから立ち上がって辺りを見回すと、一帯が徐々に白い靄に覆われつつあった。


「これは、ミスト……!」


 驚いているうち、周りにいる生徒たちの人影が靄に消え、驚きのざわめきも警戒音も徐々に遠ざかっていく。


「ナツトくん!」


 驚いた表情のユリルが靄に飲み込まれ、掻き消えていく。しかし、次の瞬間にはフワッと姿を現し、俺の胸に飛び込んできた。


「きゃっ!」

「うわっ!」


 慌てて、ユリルの身体を受け止める。二人倒れそうになって脚を踏ん張ると同時に、ギュッとユリルを抱きしめてしまった。


 なんて柔らかくて温かい身体をしてるんだろう! ふわっと柔らかなシャンプーの香りがかすかに鼻孔をくすぐる。

 成り行きとはいえ、ユリルをこの胸に抱きしめている!!

 心臓がドキドキと高鳴って、顔が真っ赤に紅潮していく。


「えっと……」


 ユリルも頬を染めている。俺を見上げる潤んだ鳶色の瞳に、俺の視線が吸い寄せられる。とても綺麗で、美しい。半開きの桃色の唇が、小さく震えているのが見て取れる。

 こ、このままずっと抱きしめていたい……!


 だがしかし! こ、こんなことをしている場合じゃない!!


 俺の理性はまだこの危機の中で冷静に働いていた。


「お、俺たちだけ、ミストの中に巻き込まれてるのかな?」

「そのようですね……」


 辺りを見渡すと、白い靄にかすんで人の気配がまったく無い。


「……逃げよう。どこかに隠れないと」

「はい」


 頷くユリルを解放する。温もりが離れていく感覚に、切なさが込み上げてくる。でも今はそれに構ってもいられない。

 急いで屋上の戸口へと向かう。


「どこか良い隠れ場所はあるかな?」

「中庭の植え込みまで行きましょう。あそこが一番良いと思います」

「オッケー」


 ユリルの言葉に間違いは無いだろう。


 屋上の戸口から階段を駆け下りる。いつもなら生徒たちの喧騒に包まれているはずの校舎は、人の気配一つ無く静まり返っていて、俺たちの足音だけが響き渡っていた。




 階段を降り切って1階にたどり着く。そこから中庭に出ようという時だった。

 廊下の少し先、靄っている霧が急に光り始めた。


「なんだ……? 魔物か!?」


 もう見つかってしまったのか!? 思わず絶対運命の枷に手をやり身構える。


 ボヤッとした光は、すぐにはっきりとした光球となった。そして人一人通れそうなほどに大きくなったかと思うと、その光球からズイっと人の手が伸びてくる。その手には、見覚えのあるネックレスが……。


 ゆっくりと、光の中から姿を現したのは────双破(ふたば)タケルだった。


 その右肩あたりで、精霊プリズムが黒い光を放っている。


「ふふっ、潜入成功だ。思った通り、簡単にできたじゃないか!」


 双破タケルが光球をくぐり抜けたと同時、その光球はフイッと掻き消えた。


「……おや? そこにいるのは……ユリルちゃんじゃないか!」


 ……コイツ、明らかに俺を無視したな……。


「もしかしてミストに巻き込まれてしまったのかい? だとしたら、僕はとても運が良い! 結果的に僕の大事なキミを助けに来れたのだから!」

「双破先輩、ミストの中は危険ですよ」

「ハハハッ、心配ご無用さ。この僕が来たからにはもう安心だよ! 素晴らしい偶然だ!」


 双破は歯をキランと輝かせながらサラッと前髪を掻き上げた。


「僕の実力で魔物を撃退してみせる! ゼノリスなんて、もう時代遅れだってことを証明してやるのさ」

「双破、魔物に出会ったことはあるのか?」

「いや、無いよ。上手く出会えれば、今回が初めてだね! 記念すべき第1回!」

「待ってくれ……危険過ぎる」

「魔物がかい? 大丈夫さ、考えてある。二人は僕の後ろについて来るといいよ。それが一番安全だから」


 この自信はどこから来るのだろう? 思わずユリルと顔を見合わせる。ユリルはちょっと困ったような顔をしていた。


「双破、入って来れたのなら出る方法も知ってたりしない?」

「え?」


 俺の問いかけは、予期せぬ事だったようだ。


「すぐにここから出るのが一番安全だ。魔物なんて相手にするもんじゃない」

「どうかな……その方法は調べてなかったよ。魔物を倒すことしか頭に無かったんだ」


 双破の答えに、全身が脱力する。コイツ、目標に対して盲目的になっちゃうんだな……。盾冬(たてふゆ)教授と同じタイプの人間だ。


「今の、光の扉みたいなのは? それをやれば元の場所に戻れたりしないかな?」

「うーん、無理かな。あちらからはこの空間を認識できるけど、ミストの中からはあちらの空間を認識できない仕組みになっているそうだからね。ここは元の場所を模倣した空間だけど、その位置は別の時空に存在する仮想空間なのさ。このことは基礎精霊魔術を記した『ムーニンの書』最終項第一節に……」

「原理はこの際置いといて、つまり、今の精霊魔術は向こう側からの一方通行ってことでいいか?」

「ああ。簡単に言うと、そういうことだね」


 ……ダメか……。


「これで分かったかい? まあ心配ないよ。魔物を倒せば元の場所に戻れるんだから」


 それは普通、ゼノリスに任せるべきだろう……。それを今、双破タケルに言っても仕方なさそうだ。

 もう一度、ユリルの顔色を伺う。ユリルは俺の考えを待っている様子だった。


「(……双破タケルは精霊魔術の天才だ。彼の言う通りにして上手く魔物を撃退してもらえれば言うことなし……そうまでいかなくとも、ゼノリスが来るまでの時間稼ぎにでもなってくれれば……あの二人も、この学校にいるわけだし)」


 いざとなれば絶対運命の枷でサポートをするしかない。ユリルに悪魔術を使わせるような事態さえ避けられればそれで良いはずだ。


 俺は少し考えて、「とりあえず任せてみよう」と囁いた。




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