↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使な悪魔の絶対運命  作者: みきもり拾二
◆【第三章】新生活は突然に
43/155

(ニ)悪魔の館:雨降って地固まる

 席に戻ると、ユリルが困ったような表情で迎えてくれた。


「ごめんなさい。こんな騒ぎになるとは思ってなくて……」

「いや、仕方ないよ」


 むしろ教授は、騒ぎが起こることを見越してわざとそうしたとしか……。


「怪我は大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。この絶対運命の枷がさ、いつも回復させてくれるんだ」

「そうなんですか」


 ユリルは俺の左腕と左手にそっと手を添えると、まじまじと絶対運命の枷を見つめた。急に触れられて、思わずドキッとする。

 なんというか、優しい手つきというか……。ユリルの手がこんなに白くて、指先が細くてしなやかだってことに気づく。その細い指先の感触が、心にまで触れてくるようでゾクゾクする。


「ナツトくんに、ひとつ言っておきたいことがある」


 振り返ると、ニヤニヤした教授と目が合った。


「この館の三箇条、住人の『掟』とも言えるものだ」


 人差し指を立てて、教授は噛みしめるようにゆっくりと言葉を紡ぎ出す。


「一つ、地下室以外では悪魔術を使わない。町中で使うなどもっての外だ。

 二つ、人目を引くような真似はしない。むしろ人目を偲んで生きていこうではないか。

 三つ、住人同士、喧嘩はしても殺し合うな。悩み相談は教授まで」


 最後の言葉に思わず苦笑する。教授もイタズラっぽく、ウインクしてみせた。


「今のような騒動は、この館の外では絶対に控えてくれたまえ。警察沙汰などもっての外、変に目立たぬのが一番だ。わかるね?」

「はい」

「この12年、我々は本当に上手く天使の目を誤魔化してこれた。それもこれも、皆がこの三箇条を守ってきたからこそだろう」


 俺としても、目立とうなんて気はさらさらない。


「ちなみに、もう気づいているかもしれないが、私と堀内、ユリルくんとイヅルくんの4人以外は、みな『鬼人』だ。おでこにそれぞれ角があるから、見てみるといい」


 鬼人……。

 それが何を意味するのか、まだよくわかっていない。ただ、今まで感じていた違和感の正体だけは分かった気がする。ユリルの両親である対面の二人も、鬼人だということだ。

 どういう経緯かはわからないが、この屋敷の住人は、悪魔のユリルを中心とした鬼人の集まりになっているようだ。

 世を偲び、天使の目につかないよう、この楽園のような隠れ場で肩を寄せあって生きている……そんな風に感じられた。


 それに、ふと気づく。その4人以外は皆、精霊プリズムを持っていない。


 『一億総精霊魔術師計画』においては、6歳以上20歳未満は精霊プリズムを所持することが義務付けられている。20歳以上の成人に対しては、特例として精霊プリズムの不所持を認められているが。

 ただし、あくまで特例だ。申請も必要だし、その際に支払う経費もバカにならないらしい。さらに、『精霊プリズム不所持許可証』を常に携帯する義務もある。許可証不携帯の場合は、高額の罰金刑ならびに禁錮刑に処されるという話だ。


 要は、持たないよりも持つ方が面倒が少ない。だからほとんどの人は特に理由がない限り所持しているのだが……。


「(鬼人の人たちには、どういう理由があるのかな……?)」


 そんなことをボンヤリ考えていると、後ろから声を掛けられた。


「ナツトくんだったかしら?」

「あ、はい」


 藤本さんと川上さんが、グラスと椅子を手にして席を移動しているところだった。


「カッコ良かったわよ。これからよろしくね」

「お料理、お口に合いませんか?」

「え? あ、いえ!」


 そういえば何もまだ口にしていなかった。


「新しい方がおいでになるということで、私たち二人、腕によりをかけて作らせていただきましたので、是非ともご賞味いただければ」

「ウフフ。今日の召喚食材、すっごい気合入ってたわよね、永嶋ちゃん。最高級品ばかりだったじゃない」

「教授からそのように言われまして、記憶の限りを絞り出しました」


 ユリルの後ろに立っている永嶋さんが、か細い声でそっと囁く。前髪に隠れたその瞳が、何かを訴えかけるような光で満たされていた。


「いただきます、いただきます!」


 慌てて、目の前に置かれたステーキにフォークを突き刺す。


「……ん! 美味い!」


 お世辞じゃなくて、ホントに美味しい! ジュワッとした肉汁が口いっぱいに広がって、程よい塩加減と胡椒の香りに、眠っていた食欲が一気に湧き出してくる。


「こちらの川上くんと藤本くんだがね、この屋敷の料理を担当してもらっているんだ。お腹が空いた時などいつでも相談するがいいよ」

「ウフフ、ナツトくんのためならいつでも腕を振るうわ。あ、でも午前中は勘弁して欲しいかしら?」

「朝は私が担当しますので、お声かけください」


 艶かしい感じの人が藤本さん、ピリッとしているのが川上さんだ。「よろしくお願いします」と言って頭を下げると、二人とも腰を少し落として西洋式の優雅な挨拶を返してくれた。

 二人はそのまま、教授を挟むようにしてその両脇に椅子を置いて腰掛けた。


「ねえ教授。ウィーンのお話の続きを聞かせてくださいませんこと?」

「はて、何だったかな?」


 教授のワイングラスにワインを継ぎ足しながら、藤本さんがその肩にしなだれかかる。歳は30代に見えるが、教授はまんざらでも無さそうだ。綺麗な茶色に染め上げたカールのかかった長い髪が印象的だ。

 川上さんの方は、キリッとして旅館の厳しい女将といった印象を受ける。藤本さんが長い髪の間からチラチラとおでこの角が見え隠れしているのに対し、川上さんは綺麗に結い上げた髪で上手く隠している。性格は正反対の二人のようだ。


「オーストリアの王室舞踏会に呼ばれた時のお話ですよ」

「おお、そういえば、ワタシも気になっておりましたよ教授」

「王室の方の首飾りがなくなる事件が起きたのですわよね?」

「ふむ、その話かね。無論、構わんよ」


 どうやら教授の思い出話らしい。藤本さんと川上さんに加えて、ユリルの両親も興味津々で教授の言葉に耳を傾けている。いつの間にか中島さんの奥さんも、椅子を持って藤本さんの横に陣取っていた。


「あたしゃ、そろそろお(いとま)するよ」


 盛り上がる一団を尻目に、そう言って実原さんが立ち上がる。


「用がある時だけ呼んどくれ。ふじもっちゃん、かわちゃん、ごちそうさま」

「おやすみなさい、さっちゃん」


 ユリルの言葉に杖を軽く上げると、実原さんは杖をつきながらさっさと出て行ってしまった。


 下座を見ると、浅沼さんと中島さんが顔を突き合わすようにして酒を酌み交わしながら、何やら話し込んでいる。二人の後ろで堀内執事が屈みこむようにして「うんうん」と頷いていた。

 ぽつりぽつりと聞こえてくるのは、株がどうとか先物がどうとか、そういう話だ。


 今はもう、皆それぞれにリラックスして、楽しそうだ。


「もう皆さん、食事の方はいいみたいですね」

「さようでございますね」

「永嶋さんも、休憩にしたらどうですか?」

「はい、そのようにさせていただきます」

「姉ちゃん、俺、そっち行っていい?」

「うん、いいよ」

「ではイヅル様、どうぞこちらへ」


 食べかけの皿を持って、イヅルがやってくる。ユリルと永嶋さんの間の席にどっかり腰掛けると、掻きこむように食事を続ける。……よく食べるな。


「いつも食事はこんな感じ?」

「いいえ」


 ユリルが可笑しそうに笑いながら首を横に振る。


「全員が集まるのは年に3回ほどです」

「クリスマス、正月、盆」

「みなさま、お食事の時間がバラバラですので」

「場所もバラバラなんです。わたしはいつも、さっちゃんの部屋で一緒に食べてますし、教授はお部屋の方でお食事を。ここは、わたしの両親とイヅル、中島さん夫婦、それと浅沼さんが利用してますね」

「ナツト様もお好きな時間とお食事場所をご指定いただけましたら、そのようにご対応させていただきます」

「あ、はい」


 なんだか至れり尽くせりのようでちょっと照れる。

 ペロリとステーキを平らげると、ユリルが給仕してくれた唐揚げとサラダ、ご飯やスープを次々に口に掻きこんでいく。味はどれも本当に美味い。これから毎日この味で食べられると思うと、すごく幸せな気分になってきた。


「ユリルはもういいの? あまり食べてないようだけど」

「はい、もう十分です」

「ダイエット中」

「こーら」

「だってホントだろ」

「適量で済ませるようにしているだけです」

「どーせ学校で好きな男でもできたんだろー」


 イヅルがニヤニヤしながらユリルの顔を見上げる。ユリルは苦笑いしながら「バカなこと言わないの」とか言い返しているが、ほんのり頬が赤くなっていた。

 ……実はホントにそうだったりするんだろうか? ちょっと気になる……。


 でもまあ、あんなに太るよりは絶対にいいよな。今だって、つくべきところにはしっかりついてるし。

 ユリルの両親の方をチラリと見る。教授の話に二人揃って大笑いしている。いい人そうなのに、なんでこんなにバカ食いを……。二人が鬼人であることに何か関係があるんだろか?


 ボンヤリとそんなことを考えながら、デザートを頬張る。


 ユリルは永嶋さんとイヅルの三人で、文化祭の準備がどうとかいう話をし始めている。


 教授の一団からは笑いが絶えない。宝石泥棒が間抜けで、逃げ込んだ先が衛兵詰所だったみたいな話をしている。


 浅沼さんたちの方からも、時折すごい笑い声が聞こえてくる。どこそこの国のカジノのスロットがどうとかそんな話だ。


 確かに少し変わった人たちばかりだ。

 それでも雨降って地固まるというか、感じていた違和感が少しずつ薄れ、俺自身もこの場に馴染んでいる感じがした。


「(……これなら、なんとかやっていけそうだな)」


 少しだけ安心して椅子に寄り掛かる。


 こうして新生活初日の夜は、穏やかに更けていった────。




<第三章(二)悪魔の館 終>



来て早々、初日からトラブっちゃうナツトくん、さすがだぜ!

次回から新節「第三章(三)埜之平高校」突入です! 新たに通うことになった高校はどんなところ? 早速ライバル出現?! 学校でもやっぱりトラブル続出?!!

ここから学園モノっぽくしていきたいな、と思ってます。天使も悪魔も魔術犯罪者もぐっちゃぐちゃになって集って青春する!って感じで!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。