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天使な悪魔の絶対運命  作者: みきもり拾二
◆【第一章】悪魔を狙う天使の使徒
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(一)ミストの魔物:逃げきれるか!?


「やばい、見つかったかも!」


 少女は構わず、深い霧の中をどんどん進んでいく。背後からは、低い唸り声と駆け足で地面を踏みしめる足音が……!


「こ、こっちに向かって来てる!」


 恐怖で思わず声が震えた。救援が来るまで、俺は本当に逃げ切れるだろうか? こんなにあっさり見つかってるようじゃ……!


「うわっ!」


 ネガティブな気持ちに駆られていると、いきなり、少女が横の細い路地へと駆け込んだ。突然の方向転換についていけず、思わず繋いでいた手を離してしまう。振り向いた前方から、フシュルフシュルという呼吸音が急激に迫ってくる!


 俺は大きく崩した体勢を慌てて立て直すと、少女が駆け込んだ狭い路地へと強引に身体をねじ込んだ。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォゥゥ!!」


 まさに間一髪……!

 俺の背後をものすごい唸り声が駆け抜けた。白い靄が俺を追い越すように吹き抜けていく。

 振り返って確認する猶予など有りはしない。細い路地を横ばいに進む少女を見失わないよう、慌てふためきながら追いかける。


「完全に気づかれてる!」

「そのようですね。でも……少しでも時間を稼ぎましょう。助けはきっと来ますから!」


 息を切らせながら狭い路地を出る。道路を横切り、定食屋らしき建物の横の道へと少女は入っていった。



「ここで……少し隠れていられるかも」


 積み上げられたビールかごの横に、二人して身を潜める。呼吸が乱れ、肩で息をする状態だ。次から次へと噴き出してくる汗が、全身を伝い落ちる。

 そんな俺たち二人とは対照的に、精霊プリズムが首筋あたりで寄り添うように揺れていた。「ちゃんとついてくるんだ」と、こんな時に感心してしまう。

 そんな精霊プリズムの向こう、ふと、少女の視線に目が合った。鳶色の綺麗な瞳だ。


「……あ、俺、『日向(ひゅうが)ナツト』って言います。高校2年の……」


 思い出したように自己紹介を仕掛けた時、不意に少女が、口元に人さし指を当てた。


「しぃ……」


 はっとして口を閉じ、耳を澄ます。すると、通りの方から「フンフンッ」という鼻息のような音が近づいて来ていた。

 心臓が飛び出すかと思うほど鼓動がドキリと高鳴って、生唾を飲み込む。ビールかごの端からそ〜っと道路の方を覗き見ると、立ち込める白い靄の中、軒下に届こうかというほど大きな黒い影が右往左往を繰り返していた。


「あの……」


 少女が声を潜めて囁きかけてくる。


「わたしが合図を出しますから、そこの勝手口から中庭を駆け抜けて下さい。裏口から杉林を抜けると児童公園があります。公園の回りには低木の茂みがありますから、そこに隠れるんです」

「……ここにジッとしてる方が良くない? アイツはまだ気づいてないみたいだし……」

「わたしたちのグァルディオール反応を嗅覚で辿ってきてるようですから、ここにいても見つかるのは時間の問題です。公園の低木に潜んで臭いを紛らわせる方が、より安全だと思うんです」


 公園の低木に隠れたところで、やっぱり気づかれるのでは……?

 と思ったが、ここで議論していても仕方ない。今は、土地勘と魔物の知識がある様子の彼女に従う方が賢明と思えた。俺は無言のままで頷いた。


「その前に……」


 少女が通りの方を伺い見る。動きまわる影を確認すると、人指し指を立てて小さくクルリと回した。少女の精霊プリズムが白い光を放ち始める。

 ────光属性の、精霊魔術だ。


「少しの間、幻影を……あら?」


 唐突に、俺の精霊プリズムが少女の精霊プリズムに近づいて、同じ白い光を放ち始めた。


「……精霊共鳴、コイツの得意技なんだ……」

「うふふ、サポートありがとうございます。……じゃあ、二人の幻影を」


 少女はもう一度、人指し指をクルリと回すと、その指先に息を吹きかけた。すると、俺たち二人の体の周りにボヤッとした淡い光が現れる。横を見ると、少女の姿が二重になって見えていた。


「この幻影は3分もしない内に消えちゃいますけど、わたしたちより遅れて動くので、それに魔物が引っかかってくれれば……」


 転ばぬ先の杖というわけか。今は少しでも利用できるものがあれば、とにかくすがりたい気分だ。


 と、不意に、道路にいた黒い影が白い靄に掻き消える。それと同時に少女が「今です!」と駆け出した!


 勝手口から中庭らしきところを突っ切って、開きっぱなしの裏口門を駆け抜ける。

 背後でビール瓶が砕け散るガラス音が響き、「グワハウゥゥ!!」という唸り声とともに、ザザーッと地面を滑る音がした。が、すぐに怒気を孕んだ唸り声が上がる。

 一瞬だけだが、魔物が幻影に引っ掛かったのだろうか?


 「ドォン」とコンクリートの壁が弾け散る鈍い音を尻目に、立ち並ぶ杉林の間を全速力で駆け抜ける。少女のつば広の帽子が走る勢いでヒラリと脱げ落ちたが、それをかえり見る余裕などあるはずもない。

 メキメキと木々を引き倒す音が背後に迫り来たかと思った瞬間、唐突に足元の地面が急勾配に変わって、俺は足を踏み外すように体勢を崩した。


「うわっ!」

「きゃっ!」


 前を走る少女を巻き込んで勾配を転がり落ちる。その上を、「グワオオオオオオオゥゥゥ!」という唸り声と共に一陣の風が吹き抜けた。





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