(一)ミストの魔物:大ピンチ!!?
「ゲーム代のためとはいえ……くっそ〜、重すぎるだろこの荷物……」
容赦なく肩にグイグイと食い込んでくるスポーツバッグの取っ手が憎々しい。さっき担ぎ上げる肩を変えたばかりなのに、もう痺れるような痛みを感じ始めている。
汗が首筋にまとわりつくように吹き出して、シャツの中までぐっしょりだ。
「……コイツを売り払えば……コイツさえ売り払えば……!」
『相当な金額になるのは間違いないぞ────』
そう言って、父さんから手渡されたのがこのスポーツバッグだ。倉庫の奥に眠っていたものを引っ張り出してきたらしい。
中身はガラクタ……いや、年季を感じさせる謎めいた物品が、いろいろ詰め込まれている。
妙な形の土器や石器の欠片、麻紐に通された怪しげな首飾り、気味の悪いお面、オドロオドロしい紋様が描かれた御札、ビニール紐で縛られたボロボロの本が十数冊ほど。それと、砂や土が入った袋が幾つか……。
「(……ホントに、売れるんだよな?)」
父さんの知り合いが古物商だか質屋だかを営んでいるらしく、その人なら引き取ってくれるという話で……。胡散臭いと思いつつも、この町までやってきたわけだが……。
「それにしても……ふう……荷物が重すぎる上に、坂道がこんなに続くってのは……ハアハア……大誤算すぎる……」
山の裾野に広がる住宅街を貫いて、山肌へと緩やかに上る道。目的地が山の中腹にあるというのは分かっていたことだが……。
だからといって、タクシーに乗るなんてことができるはずもない。そもそもこの町までの電車賃ですら、サツキ姉さんに土下座して(させられて)まで借り受けたものだし。
もとより、小遣い用の電子マネーの残高はゼロ、完全なるゼロだ。
肩に担いだこの『お宝』を、是が非でも換金しなければ帰りの電車賃すら無いわけで……。こんなことなら、意地を張らずに父さんの車に乗っけて貰った方が……。
「いやいや、ダメだダメだダメだ! 『運転手として売上の5割を要求する!』とかそんな条件飲めるかよ!!!」
サツキ姉さんにも『電車賃を貸す代わりに売上の1割いただくわよ』とか言われてるしな……。
この道を行くしか無い、自分の足で────。
「と言っても、身体がもたないぜ……はあ〜〜〜っ」
思わず足を止め、ガックリと膝に手をつく。
そんな俺の視界を、ひゅる〜りと『精霊プリズム』が横切った。
「……あ〜、飛びたい。精霊魔術で、重い荷物も軽々ふわ〜〜っと……」
ふと、『モンスタースレイヤーGロワイヤル』のアンナ様の姿が思い浮かぶ。『グラヴィティストーン』を魔法で巧みに操って防御も近接攻撃もこなす万能キャラのアンナ様。
「アンナ様なら、こんな荷物もお手のものだろうな……」
あんな風に精霊魔術を操れたら、どんなに良いだろう。
「……やめよう、そんな事考えてたって仕方ない」
今はどう転んでも俺に精霊魔術師としての才能は無いわけだし、妄想しててもこのピンチは凌げない。
視線を上げると、坂道を少し進んだ先、バス停脇に並ぶようにして立つジュースの自動販売機が目についた。
「(……ずいぶん汗も掻いたし、気分転換にジュースでも飲むか)」
それぐらいの金は残っていたはず。ズボンのポケットの小銭をまさぐりながら、自販機に向かって足を踏み出した。
◆
肩で息をしながら、自販機前にスポーツバッグを投げ下ろす。電車賃の残り、なけなしの硬貨を投入して、「ピッ」とばかりにスポーツドリンクのボタンを押したその時だった。
ウワアアアアアアアアアアアアアアアァァァン────。
「……へっ?」
聞きなれないサイレンが辺り一体に響き渡る。
『ただいま、ミスト発生警報が発令されました。ただいま、ミスト発生警報が……』
アナウンスの声と同時、俺の精霊プリズムが激しく赤色に点滅しながら、頭の周りをグルグルと周回し始めた。
それが意味するのは、唯一つ────この近辺に『魔物』が現れたということに他ならない!