(二)ゼノリス:金髪の男
剣先の向こうから男が俺を見下ろしていた。男の左肩あたり、宙を漂う精霊プリズムの姿もある。
「テメー、ここで何をしてやがった? あン?」
男の金色に染め上げた髪が風にヒュウと煽られ、耳のピアスがキラリと陽光を反射した。羽織るように着崩したYシャツの間からは、隆々とした筋肉が顔をのぞかせている。
口元はニヤついているが、目は笑っていない。冷たい色を帯びて、一分の隙もなく、俺を見据えている。
歳は俺と同じ高校生ぐらいに見えるが……とにかく見るからにヤバそうな雰囲気の男だ。
俺が戸惑っていると、男がさも気に入らないとばかりに眉根を釣り上げた。
「答えろよ、ボロ雑巾。さもねーと……」
不意に、男の精霊プリズムが黄色い光を帯び始める。俺に向かってかざしている細剣が、ピリピリと音を立てて電撃のようなものを纏い始める。
精霊魔術だ。雷属性の精霊魔術で……俺に攻撃を加えようっていうのか?
ふと、精霊魔術の育成プログラムで言われたことを思い出す。『一億総精霊魔術師計画』の裏で、増加し続ける『魔術犯罪者』のことを。
「(もしかしてコイツは……?)」
見るからに悪そうな外見と言い、無作法な物言いと言い……!
「精霊プリズムはどうした、あ? 術符なんざ頭にくっつけて何してやがった、あ? おまけにひっでー混沌創……怪しさ満点、不審人物の三倍役満たぁテメーのことだ!」
……何を言ってるんだ? 男の言葉の意味が、すぐに飲み込めない。
「せ、精霊プリズムならここに……」
言いかけてハッとする。いつも精霊プリズムがいる右後ろ斜めを指差すが、そこに精霊プリズムの姿は無かった。
驚いて辺りを見渡すが、どこにも精霊プリズムの姿がない。
「ふざけんじゃねーっ、つってんだろがボロ雑巾!!!!!」
やにわに、男が剣を逆手に持ち替えて振りかざす! 電撃がほとばしり、次の瞬間、俺めがけて剣を振り下ろしてきた!
「ひぃっ!!!!」
咄嗟に腕をクロスさせて防ごうとする俺の足元で、「ドォン!!」と衝撃音が響いた。土埃と小石が勢い良くはじけ飛び、俺の身体にぶち当たる。
恐る恐る目を開けると、股の間の地面が大きくえぐれて、男の細剣が深々と突き刺さっていた。
「『鬼人』あるところ悪魔あり! テメー、ミストの中で何してやがったって聞いてんだよ、ああ?!」
キジン……? 悪魔……? ミスト……?
「あ……」
ミストと聞いてハッとした。
「(そうだ……自販機のところでミストが発生したんだ!)」
その時の光景が脳裏に鮮明に蘇る。響き渡るサイレンとアナウンスの声、白い靄に霞みゆく軒先、スマホの接続無しの表示……。
「(……そうだ、俺は確かにミストに巻き込まれたんだ……)」
だがその後、自分の身に何が起きたのか……? それを思い出そうとするとあの鐘の音がまた響いてくる。ズキリとした頭痛と共に目眩がして、再び額を手で覆う。
一体俺は……何がどうなってるんだか全くわからない!!!




