63 旅立ち
話し合った結果、他の村を転々としながら、ゆっくりとマルス共和国に向かうことにした。
今は旅に出発する前に必要なものを確認しているところだ。
「正直言って、ティト様がいれば何もいらないように思えますね」
ビースナスが半ば呆れ気味に感想を述べた。
旅をするにあたって、みんなの能力を確認しあった結果の感想だ。
ビースナスは加護が〝錬金術師〟であるために、基本は魔道具を駆使して戦うスタイルだと言う。
気配を消したり隠れたりする魔道具を使った奇襲や、流動金属の魔道具を設置した待ち伏せが基本だが、通常の戦闘もこなせるらしい。
流動金属の魔道具というのは、文字通り液体のような金属を魔法陣を利用して硬化させたり、形を変えたりする魔道具で、魔道具の中では初期のころからある冒険者にとっては最もポピュラーな魔道具らしい。
「皆さんも使いますか? 体の魔力は使いますし、金属なので量によっては重くなりますが、指輪くらいの大きさでもしっかり硬貨させれば、攻撃にも防御にも使えるので、とても便利ですよ?」
「いらないのー。ティトがいればいいのー」
「ボクもいらないかなー。魔力があんまりないんだよね」
「私にはそもそも大きすぎるかしら」
(俺は欲しいかも。前にイリナの鍋で攻撃をガードして怒られたし、ちゃんとした防具は欲しかったんだ)
みんなは要らないようだが、俺は手を挙げて欲しいアピールする。
すると、ビースナスが紙を渡してきて、どう変化させたいのかイメージを書いてくれと言ってきた。
俺は、攻撃に使うつもりはないので盾に変化するようにイラストを描く。
盾が飛び出すイメージだ。
「なるほど、それでは私の持っている金属に魔法陣を刻みますね」
そういうと試験管に入っている流動金属を取り出すと、魔法陣を刻み始める。
っと言っても、目の前に掲げて呪文を唱えるだけのようだが。
すぐに変化が表れて、試験管から出した金属がリボンのような形になる。
ビースナスがそれを俺の頭の疑似枝に通すように乗せた。
「ティトかわいいのー」
「やだ。ダーリンの魅力がさらに増してしまったわ」
「よくお似合いです。そのままリボンに魔力を流してみてください」
(なんでこの形なの。だいたい魔力を流せって言われても……おっ、できそうかも)
リボンについて物申したかったが、魔道具への興味が勝ってしまった。
魔法生物の俺は、手足を動かすのにも普段から魔力を使っている。
それもあってか、リボンを自分の体の一部だと思うことで、簡単に魔力を通すことができた。
すると、リボンが盾状に変化して「ボン」っと目の前に飛び出した。
イメージに描いた通りの効果だ。
そして、頭のリボンがあった場所には、リング状のパーツが疑似枝に残っている。
ゴニャン!
重力に従って出現した盾が床に落ちると、なんとも微妙な音を立てて下の部分が歪んだ。
「込める魔力量によって硬度が変化します。より魔力を多く流せば限界はありますがかなり固くなります。次は残っているパーツの部分をその盾に当てて、同じ量の魔力を込めなおしてください。元の形に戻ります」
(こうかな?)
言われた通りに疑似枝に残っていたリングを歪んだ盾に当てて魔力を流す。
すると、元のリボンの状態に戻ってリングにくっ付いた。
(これは便利だね。じゃあ、あとはこれを別の形に……)
「似合ってるの!」
「似合ってるわダーリン」
「ボクもそう思う!」
(あっ、ハイ)
なぜか全員からそのままでいいと言われてしまった。
流動金属は色も変えられるみたいで、真っ赤なリボンをしたスライムの出来上がりだ。
他に準備は必要ないかったので、別れの挨拶をして回ることにした。
行く先々で涙を流され、市場ではお土産もいっぱい貰った。
マケッタやシュナの反応は凄まじく、ノエルやエステルに縋って泣く姿が、逆にしんみりした空気を吹き飛ばしてくれた。
「忘れ物はありませんね? それでは出発します」
そして、馬車に荷物を積んでいよいよ出発する。
見送りには市場の人たちだけではなく、ダレンやヴァルタに領主様まで来た。
ビースナスが手綱を引いて掛け声を挙げると、馬車がゆっくりと動き出す。
それを見て、見送りのみんなが手を振って別れの言葉を続ける。
「イリナの嬢ちゃん、次に屋台に来てくれるのを楽しみに待ってるぞー」
「ああー、美しい魔道具が行ってしまうー。もっと見たかったのにー。また来てくださいよー」
「エステル様ー、新たな服を作っていつまでもお待ちしていますー」
「元気でなー。どこかでまた会った時は一緒に依頼をこなそうぜ」
「気が向いたら、また美味いもん出しに来てくれよな。歓迎するぞ」
どの声も好意的なもので、胸が暖かくなる。
少しずつ離れていく街を見ながらイリナ達も手を振っる。
「またくるのー!」
「楽しかったよー」
「また来てやってもいいわね」
(お元気でー)
本当にいろいろなこ事があった街だった。
その後も、俺たちは町が見えなくなるまで手を振り続けた。




