61 まさかの人物
「ちょっと面倒くさいのー。かなしいのー」
イリナが珍しく頬を膨らませて拗ねていた。
その原因は認識阻害の魔道具だ。
イリナの胸にあるひまわりの様な魔道具は、見た人間の意識を操作するほどの効果がある。
そして、その魔道具の強力すぎる機能が問題になっている。
魔道具を付けて屋台やギルドに行くと、イリナが別人と認識されてしまうのだ。
仲良くなった屋台のおっちゃんに初対面のような対応を取られた事で、イリナは傷ついて魔道具に憤慨したのだ。
最初から付けていれば問題なかったのだが、それはそれで興味をいだかないようにする機能が仲良くなるのを邪魔する結果になる。
「やり直しなの! リコールなの!」
(イリナ、なんでそんな言葉知ってるの!)
どうやら、ナール商会のメイド店員と仲良くなっていろいろ吹き込まれたらしい。
そういえば、司会の時のシュナも前世であったファッションのワードを使っていた気がする。
(まぁ、こっちの世界にその言葉が元からあった可能性もあるけどね⋯⋯あるのかなー?)
「ティトも一緒にのりこむの!」
考え事の途中で、イリナに頬を挟まれ持ち上げられて我にかえる。
(うーん。マケッタさんなら嬉々としてやってくれそうではあるけど、凄い高い魔道具なんだし悪いよ。それにトゥティーンが捕まったから、認識阻害の魔道具いらないんじゃないかな? あとは使いようだと思うよ)
「むー。仕方ないのー」
イリナがブローチを外すと魔道具の効果が徐々に薄れていく。
この効果の発動と消失に時間がかかるのも使い勝手の悪さになっている。
ノエルの付けている精霊の腕輪がいかに優秀かが分かる。
一、二分待って効果が無くなってから、屋台にイリナとノエルが向かった。
おっちゃんが笑顔でイリナを迎えると、イリナも笑顔で返していた。
ノエルも安心したようにイリナを見ている。
(街の人達と仲良くなったけど、この先イリナの故郷を探すなら、この街を離れる事になるんだよなー。イリナは大丈夫かな?)
「死に別れるんじゃないんだし、そこら辺は大丈夫なんじゃないの? そもそもエルフなんて人間と寿命が違うんだから、別れには強い種族だと思うわよ?」
(寿命かー)
屋台のイリナの笑顔を見ながら考える。
俺のスライムの寿命はどうだろうか。
いざとなれば、自然スライムの【木】にでもなればその寿命まで生きられるが、それは旅の終わりを意味するし、俺の意識がどこまで残るかも分からない。
「別れを意識して一緒にいるのは悲しいわよダーリン」
(⋯⋯そうだね)
「まぁ、私がダーリンの最後の最後まで一緒にいるから安心でしょ!」
(そうだな!)
その後、イリナに街を出る可能性の話をしたが、イリナの反応はエステルが言う通りに蛋白なものだった。
新しいご飯に出会えるかもと、むしろ乗り気になっている。
依頼を受けるでもなく街をブラブラしたあとは館に戻る。
よくよく考えてみれば、ずっと領主の館にご厄介になっているのも申し訳ないなと思った。
次の日、朝のうちにヴァルタに呼ばれて部屋に向かうと、そこにはダレンさん達と、それとは別の人物が待っていた。
その人物には見覚えがある。
「《《お初に》》お目にかかります。マルス共和国よりイリナ様の護衛を承り馳せ参じました。ビースナスと申します。よろしくお願いいたします」
癖っ毛のボブカットの髪の上にはホワイトブリムが乗っている。
無表情に真っ直ぐ立つその体を包んでいるのは、紛れもない前代風のメイド服。
ナール商会に居たメイド服の店員、その人が目の前に立っていた。




