37 ミラン領の直轄都市カイト
イリナに持ち上げてもらって、馬車の中から町並みをみる。
木造の三階建ての建物が通りに面して並んでいる様は、まさに大都市と言った感じだ。
石畳の道もしっかり整備されていて、揺れがほとんどない。
行き交う人も多く、活気に満ち溢れた大通りには店が並んでいる。
石畳の道の脇には大きな水路があり浅めの水路に沿うように柱が並んでいる。
柱同士はアーチ状の橋で繋がっていて、そこからさらに街の中へと伸びている。
街は城に向けて緩い上り坂になっていて、豊富な水は城の方から流れて来ているようだ。
(あの橋の形状って、もしかして水道橋?)
「すいどうばし? なの?」
「よくお分かりですね。カイトの町は南東にある霊峰ファナから水を引き入れているのです」
ヴァルタさんが橋の説明をしてくれた。
豊富な水は豊かさの証なのだとか、街を綺麗にするのにも一役かっていようで、市民の顔にも落ち着きがある。
そんな話しを聞いていると、町並みによりも食い気なのか、イリナが鼻を鳴らしてお肉の匂いを感じっていた。
「お肉の匂いなの!」
「あそこの串焼きの匂いかな? ⋯⋯美味しそう、あとで行こうよ」
「小娘達は食欲ばっかりねぇー」
ノエルもすでに食べることを想像して、目をキラキラさせている。
その姿に呆れるように、エステルが突っ込みを入れていた。
イリナやノエルによって馬車の中が賑やかになる。
そんなガヤガヤしている間も馬車は進み続け、噴水が見えてきた。
噴水の奥に中心部へ続く門があり、くぐるとまた景色が変わる。
建物は木造から石造りに変わり、高さも五階建てを越える様な建物になる。
そして、更に進み続けると逆に今度は階層が減っていき、街並みと言うより格式高い屋敷街へと変わる。
高めの生け垣の隙間から見える、個人の所有と思われる館には広い庭もある。
(おお、街の中心には自然があるのかー。領主の直轄都市はやっぱり違うなー、っと言っても他を知らないけどね)
「木があると落ちつくのー」
「森とはちょっと違うけどね。あっ、もうすぐお城に着くみたいだね」
ノエルの声に反応して、馬車から顔を出して前を見る。
街路樹の隙間から城らしい特徴的な尖った屋根が見えた。
「イリナ様、ティト殿、そろそろ中に入ってください。あまり目立ちたくはありませんので」
(おー。すまんすまん)
馬車に入ってカーテンを閉める。
しばらくすると馬車が止まり、またヴァルタさんが出ていった。
そして、戻ってきたヴァルタさんが、扉を開けて俺達を招く。
俺達が入るのは、招待用の城の側にある別館だ。
「では参りましょう。イリナ様方には客室で待っていて貰います」
(また豪華だな~)
通された客間は全体的にシックで、木製の祈り用の祭壇もテーブルもよく磨き上げられていて高級感のある光沢を放っている。
ソファーの刺繍もカーテンの作りもとにかく細かくて丁寧な作りだ。
(こらこらイリナ。ソファーの上で跳ねちゃダメだよ)
イリナが座ったソファーの弾力で、跳ね始めたので止める。
ヴァルタさんは領主に事の経緯を告げるのと、俺達の面会の申請をしに部屋から出ていっている。
「やっぱりこの果物よりティトの方が美味しいね」
(俺の出した果物ね。⋯⋯俺自体が美味しいのも否定できないけど)
「もうティト無しじゃだめなのー」
(⋯⋯言い方よ)
イリナもノエルもすっかり口が肥えてしまっている。
お肉はこのさきも生産出来るようにはならないだろうから、それだけは救いか。
いや、スパイスあるから駄目だったわ。
(普通に胃袋を支配できるのは強すぎるよなー。美味しいものはどんな時でも正義だし)
そこでいきなり扉が蹴破られた。
「おう! 自然スライムだってな。挨拶しにきたぜ!」
「旦那様。声が大きい過ぎます。事の重大さが理解できていないようなら執務室にお戻りください」
「おっ、おう。悪かった」
ヴァルタさんに後ろから注意をされてシュンとなった人物をあらためて見る。
タテガミを思わせる硬そうな茶色の髪。
シャツが弾けんばかりの胸板と捲くり上げた袖から伸びるムキムキの手。
そして、頭にはライオンのような丸い耳が付いている。
そう、領主は獣人だった。
「俺がミラン領領主のガーガルだ。辺境伯なんてやってるが敬語はいらねぇぞ」
「イリナなのー。ティトなのー」
「ボクはノエルだよ」
「おう。よろしくな! セイガも村に戻らせてやれなくて悪かったな。案内ご苦労」
「勿体ないお言葉です」
「まあ、座ろうぜ」
いきなり扉を蹴り開けられたので、皆が警戒の為に立ち上がっていた。
イリナだけは俺を抱えたまま座ったままだった。
「その嬢ちゃんは、肝が座ってるな」
「イリナはキモじゃないの! ティトもキモじゃないの!」
「おっ、おう。んで自然スライム様か」
顎に手を当て、片目を瞑って覗き込んでくる。
その目には完全にただの興味しか浮かんでいない。
「お前さん。食いもん出せんだろ? 王都の査察官がビックリするようなもん出してくれよな。じゃあ、俺は戻るぜ!」
ニカッと人好きする笑顔を浮かべてから立ち上がったガーガルは続けて言う。
「街に行きたいなら好きにしていいぜ、出すもんは出してもらうけどな! ヴァルタ、身分の証明できるものと金を用意してやれ」
ガハハハと笑ってガーガルは部屋を出ていった。
なんとも豪快な人だ。
「食堂に案内いたしますので、そこでお願いします」
(イリナお願いするよ)
あまりスライムが跳ね回るのもと思って、イリナに俺を運んでもらう。
着いた厨房には、すでに晩餐の為の食材が所狭しと置かれていた。
「あっ、うちの村のリンゴンだよ」
(おっ、じゃああそこに出そうか)
ノエルが指さした先には村のリンゴンが入ったバスケットが置かれていた。
俺はその横に出すことにする。
(さて、何を出したものか)
頭を捻る。
味は良くしすぎると後が怖そうだから、インパクトで勝負する方向に決める。
真っ先に思いついたのはジャックオーランタンだ。
(たしか見た目がカボチャのやつあったよな。あれを大きくした奴にしよう。テーブルに乗せた時のインパクトはなかなかのはずだし)
名前はナスダだ。
見た目がカボチャで名前がナスダだが、味はトマトに近いので転生者としては頭がバグりそうな食材だが、そのまま丸焼きにしただけで驚くほどに美味い。
真ん中のゼリー状の部分はそのままトマトジュレのソースの様になり、種の食感は面白くて、外側の果肉はトロッとして口触りがいい。
ただスプーンで掬って乗せただけなのに、一品の完成された料理のようなのだ。
(よーーーいしょ)
俺の中から、明らかに俺より大きな見た目カボチャが出るのはシュールだ。
どすーーんっと派手な音がしたが、ヴァルタさんが人払いをしてくれているので大丈夫だ。
いちよう、ヴァルタさんに食べ方を説明した。
まあ、館の専属料理人ならいくらでもアレンジ出来るだろう。
(じゃあ、出すもの出したし、街に繰り出しますか)
「「おー、なの!」」
ヴァルタさんにお金を用意してもらって、セイガさんの護衛のもと俺達は街に繰り出した。
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ー変更点ー
30話でのヴァルタさんの会話に「どうしても我が領主様には合って頂きますが」の部分を追加しました。
領主と合う方向に会話がいくことに違和感を感じてしまった方は、申し訳ありません。




