29 崖を道とは言わない
「いけいけーなのー」
(わぁー。ちょっと待って。本当にこの道であってるのノエル)
「この道が一番早くて安全だよ!」
凄い速さで通り過ぎていく木々を必死で躱してる俺に、そんなあっけらかんと言わないで欲しい。
ノエルには安全と言う文字を一度辞書で調べてもらいたい。
道とも言えない崖の下り坂を駆けぬけるスピードは、明らかに村へ向かってた時より早い。
半ば落ちている様な状態で、さらに時々ショートカットを交えながら走るノエルを、俺はイリナを抱えながらなんとか追いかける。
抱えるとは言っても、今はイリナを完全に包み込んで人の形になって走っている状態だ。
イメージとしてはパワードスーツと言った感じだが、実際はそんなSFチック見た目では無い。
傍から見たら、巨大なツルンとした緑の着ぐるみから、顔だけを出したエルフが猛スピードで森の中を駆け抜けている感じだろう。
「絶対にシュールかつ恐怖映像よね」
頭の疑似枝からエステルが語りかけてきたが、その通りだと苦笑いする。
前世が人だったおかげか、スライムの体で人の形を取ってみると、思ったよりも動かす事に違和感が無かった。
(この状態ならイリナを暴漢から守る事は出来そうだが、見ため的には街中で堂々となるわけにはいかないよなー。⋯⋯絶対騒ぎになるし)
見た目はシュールかつ恐怖映像ではあるが『ショートカットするね』と崖を駆け下りていくノエルについていける反応速度と運動神経があるわけではない。
種明かしをすると、それは魔力探知だ。
視覚として見る以外にも、感覚として理解出来るため、先の先をあらかじめ把握しながら降りているのだ。
(それもあって、ノエルの選んだ道を先に見て絶望してから、突入してる状態なんだけどね)
何度目かの心の悲鳴が終わるころ、崖沿いの道にたどり着いた。
道の左側は崖で右側は谷になっている狭い道で、俺が遠視で見たままに崖が崩れて塞がっていた。
「お父さーんいるー? 迎えに来たよー」
ノエルが崖の向こう側に向かって声をかけるとすぐに反応が帰ってくる。
「その声はノエルか! わざわざ迎えに来てくれたのか? 珍しいな」
「あんまりにも遅いんだもん。お父さんに街まで案内してほしい人達がいるんだよー」
「なにー。父さんも村にお客を連れてかなきゃならないんだよ。しかし、見ての通り土砂で道が塞がってしまってなー。別の道は険しいからわざわざ土砂をどかしていたんだ」
「わかってるよー。だからボク達は手伝いに来たんだよー」
「いくら何でも危険だぞー。大人しく村に帰って待ってなさいー」
「えー! せっかく来たのにー」
「駄目だー!」
ノエルが手伝うことを主張するが、危険だと突っ撥ねられてしまった。
試しに少しだけ土砂を押し退けてみたが、上の部分から崩れてきてすぐに元の状態に戻ってしまった。
確かに闇雲に素人がやるのは危険かもしれない。
(とりあえず向こう側に行って合流しようか。お父さんの指示を受けながらなら、手伝っても良いって言うかもしれないし。ノエルも包み込むけど大丈夫?)
「いいよ! やった、ボクも包まれて見たかったんだー!」
許可も貰ったので、俺はイリナとノエルを包みこんでジャンプする。
厳密に言うとジャンプではなく、後ろ側に触手を伸ばして自分を持ち上げる人力の『高い高~い』だ。
(力は本当に強いみたいだな。ノエルも一緒だっていうのにまだまだ余裕があるよ)
軽々と土砂を越えると空中から向こう側が見える。
ノエルのお父さんらしき獣人とフードを被った人物が二人、目を見開いていた。
そして、驚愕に開かれていた瞳が、徐々に敵意を帯びていくのがわかった。
(あっ、ヤバイこれ。絶対勘違いされてるやつだ。ノエルに急いで説明して貰わないと)
そんな俺の予想通り着地と同時にノエルのお父さんが吠えるように叫んでこちらに突進してきた。
「おのれ! 極悪スライムめ! 娘達を離せーー!」
(やっぱりかー!)
二メートル近い巨漢が無駄のない動きで一瞬にして眼の前に迫る。
そして、手に持ったナタを振り下ろしてきた。
奇しくもノエルと初めてあった時と同じ状況になり、やっぱりノエルのお父さんだなーなどと現実逃避しかける。
(今回はさすがにくらったら死んじゃうよね!)
ノエルより早い攻撃だが、今回は来るとわかっていた。
俺は慌てずに後ろに下がりながら、買っておいた中華鍋でナタを受け流す。
ガイーーーン!
もの凄い音を立てながら何とか逸らすと、全身に波が立っていた。
(あ、わ、わ、わ、わ、)
「び、い、い、い、ん、な、の」
中にいるイリナも振動に巻き込まれたようだ。
しかし、その一瞬の静止を利用してノエルがお父さんの前に出てくれた。
ノエルも痺れてそうなのに、これが種族のさなのかな?
「わぁー! お父さんストップストップ! ティトは悪いスライムじゃないよ。自然スライム様なんだよ」
「何ー? 自然ス⋯⋯ライ⋯⋯ム様⋯⋯?!」
前回のことを思い出してイリナの方に視線を向けるが、今回もイリナは固まってしまっていた。
(ごめんイリナ。大丈夫?)
「大丈夫なの。⋯⋯でも、もう少しこのままなの」
どうやら、振動で腰が抜けてしまったらしい。
イリナの頭を撫でて落ち着かせながら、俺はノエルの方を見た。
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