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14 危機一髪ふたたび

14 危機一髪ふたたび


 ぜいぜいと、肩で息をするプレッピー。


「な……なにか……! なにか、手を考えないと……! あの幽霊女を破滅させるための、手を……!」


 プレッピーは自分に良くないことがあっても、その原因を自責にはしない。

 彼女の辞書に『反省』の二文字はないのだ。

 あるのは、気に入らぬ相手を貶めるための『策略』の二文字のみ。


 いままで幾多の邪智を捻り出してきたその頭上に、「はっ……!?」と黒い電球が灯る。


「つ……ついに見つけたわ……! 最高のネタを……! このネタがあれば、あの幽霊女はおしまいです……! あの幽霊女のすべてを虚構にできるわ……!」


 その数日後。

 光の聖堂では、とある王国大臣の息子の結婚式が行なわれていた。

 ハクメイはいずれこの国の第十二王子であるトゥエルスと結婚するため、結婚の暁には彼らと交流を持つことになる。

 そのためハクメイも進行を司る聖女として式に参加していた。


 しかしその最中、聖堂の扉は乱暴に蹴破られる。


「……オホホホホ! 今日は最高の一日になるわよっ!」


 それは、ツルハシを持った作業員たちを引きつれたプレッピーであった。

 いきなりの乱入者に、場内は騒然となる。


「あ……あなたは……サンケンシップ家のご令嬢、プレッピー殿!?」


「いまは大臣のご子息の結婚式の最中ですぞ! それを知って、このような無礼を!?」


 式には多くの王族関係者が参列している。

 そんな格式高い式を邪魔したとあればタダではすまないのだが、プレッピーは余裕の笑みであった。


「無礼者は、このプレッピーではありません! むしろプレッピーは無礼者を裁きに参ったのです!」


 プレッピーの背後から、ひとりの老婦人が現われる。

 それだけで、場内はさらにざわめいた。


「あ……あなたは、聖機卿様!?」


 聖機卿とは、聖女組合のナンバー2の人物である。

 聖機卿はその存在感だけでこの場を制圧していた。


「……こちらのプレッピーさんから通報を頂きました。この聖堂にニセ聖女がいると」


 言葉は荘厳で、場内は一瞬にして静まりかえる。


「聖女というのは女神に仕える神聖なる職務。それを詐称することは、どの国においても魔女行為に等しい重罪となります。プレッピーさん、どなたがその罪深き者なのですか?」


 プレッピーはドヤ顔で、聖堂の入口付近にいたハクメイを指していた。


「あそこです! あの女は聖女の資格を持っていないにもかかわらず聖女を名乗り、あまつさえ聖堂まで建てたのです!」


 その告発に、場内はふたたび大騒ぎとなる。


「な、なんだって!? 聖女の資格を持っていないだと!?」


「そんな聖堂で結婚式を挙げるなんて、とんでもない! 一生呪われてしまうぞ!」


「しかも大臣を騙すなんて! もし本当なら、一族まとめて処刑の重罪だぞ!」


 責めるような視線がハクメイに集中する。

 ドゥンケルハイドがすかさずかばおうとしていたが、ハクメイは手で遮っていた。


「ご安心ください。わたしはちゃんと聖女の資格を持っておりますわ」


 落ち着き払って弁明するハクメイ。しかしプレッピーはの元へとツカツカと歩いていき、噛みつくように言葉を浴びせた。


「ウソばっかり! あなたは少し前まで、体育の授業も受けられなかったほどに身体が弱かった! そんなあなたが隣国まで行って、聖女の試験など受けられるはずもないわ! そうよね!?」


「はい。以前のわたしの体力でしたら、馬車で学校に通うのが精一杯でしたわ。隣国で試験を受けるなんて夢物語ですわね」


 それは自白も同然だったので、場内はハチの巣を突いたような大騒ぎ。

 プレッピーはついにやったとばかりに高笑い。


「……オホホホホ! 逃げられないとわかって、ついに観念したわね!」


 プレッピーはハクメイの服の襟首を掴んで持ち上げると、背後に控えていた作業員たちに言った。


「あなたの虚構まみれの活躍もここまでよ! さぁみんな、この邪悪な聖堂をブッ壊すのよ! でも、高そうなのは売り払うから壊しちゃダメよ!」


 プレッピーはハクメイの泣きべそを想像して心の中でほくそ笑んでいた。

 しかしハクメイはアクビの涙ひとつこぼしていない。

 イラッときたプレッピーは近くにあった女神像を力任せに倒す。倒れた拍子に像の首が取れてハクメイの足元に転がった。

 ハクメイはムッとした上目をプレッピーに向ける。


「その像は、わたしが彫ったものなのに……あとで修理してもらいますわよ」


「修理どころか、もっといいのを買ってさしあげますわ! あなたがホンモノの聖女だったらね! でもムリでしょうね! あなたは試験も受けていないのですから! オホホホホ!」


「隣国まで行かなくても、聖女の試験は受けられますわよ」


「ははぁ、この期に及んで命が惜しくなったのね! 下手な時間稼ぎをしようったって、そうはいかないわよ!」


 しかし思わぬ人物から横槍が入った。


「それは、その通りですね。経済的や身体的、そして時間的な理由で聖女組合まで来られない場合は、通信教育による資格取得がありますから」


 ハクメイはローブの懐から、聖女の認定証を取り出す。

 そこにはまぎれもなく、通信教育による認定終了の認め印が押されていた。


「中学生の頃、寝たきりでヒマだったので資格を取りまくったのですわ」


 ハクメイはいまさらながらに思う。そういえば自分は、前世の頃から資格マニアだったと。


「つ……通信教育ぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 プレッピーは今度こそハクメイを失墜させるネタを見つけたと確信し、隣国から聖女組合の重鎮を呼びつけていた。

 しかしまさか通信教育なるものがあったとは……!


 認定証を目にした聖機卿は、「まぁ」と嬉しそうな声をあげていた。


「あなたがあのハクメイさん?」


「えっ? わたしのことをご存じなんですの?」


「ええ。あなたの提出した論文は、とても素晴らしかったわ。この子はきっと素晴らしい聖女になると、私が満点をあげたのよ。ああ……その天使のようなお顔を、もっとみせて頂戴」


「は……はい、聖機卿様!」


 聖機卿に寄り添うハクメイ。聖機卿はハクメイを最愛の孫のようにナデナデする。


 聖機卿は、関係者の間では厳しい人物として知れ渡っていた。

 王族関係者たちは聖機卿に取り入ろうとしていたが、みな返り討ちにあっている。

 こんなチャンスは滅多にない。その場にいた王族関係者は、ここぞとばかりに声をあげていた。


「そ……そうです! ハクメイ殿はこの国をしょって立つ聖女です!」


「そ、そうそう! 美しく、慈愛があって! 非の打ち所がありません!」


「見てください! この聖堂もハクメイ殿がデザインしたのです!」


「本当に素晴らしい聖堂ですね。せっかくですから、私も式に参列してもよろしいかしら?」


「も……もちろんです! 聖機卿様に祝福していただけるなんて!」


 わいわいと祝いの輪に加わる聖機卿とハクメイ。

 その蚊帳の外で、プレッピーは忘我の極地にいた。


「う……うそ……幽霊女を破滅させたうえに、聖機卿とのコネを作れる作戦だったのに……。なんで……なんで、こんなことに……」


 聖機卿はふと思いだしたように振り向くと、プレッピーに極寒の一瞥を投げた。


「よく確かめもせずに、他人をニセモノ呼ばわりする……。プレッピーさん、あなたの心は穢れきっていますね。しかも女神像まで傷つけるなんて……あなたのような邪悪な女は、きっと呪われることでしょう」


 聖機卿から呪われるとまで言われてしまったプレッピー。これは同時に、聖女への道が完全に途絶えてしまったことを意味する。

 あまりのショックにプレッピーは脱力。その場にへなへなと崩れ落ち、髪の毛をハラハラと散らしていた。

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