13 聖女になろう
13 聖女になろう
わたしのなかでプレッピーをギャフンと言わせる名案と、わたしの夢を叶える妙案が同時にひらめいた。
「パパはこの丘に、聖堂を建てるおつもりだったんですのよね?」
「ああ。屋敷から少し離れたところに建てるつもりだった。丘の上の距離なら、ハクメイが移動しても負担にならないと思ったのだ」
「ならその計画は、わたしが引き継いでもよろしくて?」
「もちろん構わないが、資金のほうは……」
「それなら心配ご無用ですわ。交易で稼いだお金がまだありますもの」
決めた、聖堂を建てよう。
聖女になるのは幼い頃の夢だったし、それに16歳になったら結婚する運命なんだ。
パパの決めた政略結婚だけど、どうせなら最高の結婚式にしたい。
それに実際に聖堂を建てることができたら、プレッピーも見返すことができる。
それに、それに……。
実をいうと前世のわたしにも夢があって、ある教会で結婚式を挙げるのが夢だったんだ。
その教会というのは、ロサンゼルスのとある丘の上にある『ガラスの教会』と呼ばれる小さなチャペル。
ある有名な建築家が設計したもので、一流芸能人が結婚式を挙げたことで有名になったんだ。
前世でアメリカ旅行をしたときに観光ついでに立ち寄ったんだけど、そこは息を飲むほどに美しい空間だった。
結婚式を挙げるならぜったいココで! と思ったものだけど、前世のわたしは喪女だった。
前世はムリだったけど、今世でならその夢を叶えられる……!
憧れの教会を、わたしの手で再現するんだ……!
丘の所有者であるパパの許可も得られたから、さっそく業者を呼んで……。
と意気込んでいたら、パパがなにかを言いたそうにしていた。
「パパ、どうしたんですの?」
「メイ。私のほうからもひとつ、頼みごとがあるのだが……」
「なんですの? わたしにできることならなんでもいたしすますわよ?」
「……また私も……ここに住んでもいいだろうか?」
そう言うパパは、なんだかもじもじしていた。
その仕草は暗黒卿と怖れられている人物とは思えないほどにかわいい。
相手は父親だというのになんだか愛おしくなって、わたしはテーブルごしにパパの手を握りしめた。
「もちろんですわ! また、一緒に暮らしましょう!」
「本当か……? なら、さっそく越してくるとしよう」
お茶のおかわりを持ってきたリッパは、手を取り合うわたしたちを見て引いていた。
「こ……こんなにウキウキしてるドゥンケルハイド様……初めて見たっす……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
というわけで、次の日からパパの引っ越しと、聖堂の建築計画が同時に始まった。
まずわたしが憧れの教会を思いだしてイラストに起こし、それを建築士さんに見てもらって設計図にしてもらう。
できあがったところで、大工さんを呼んでの建築が始まった。
普通の聖堂は礼拝堂に相当するスペースの他に、聖女たちが暮らす居住スペースが必要だったりする。
でもこれから建てる聖堂は、所属する聖女がわたししかいないのと、すぐ近くに家があるので、居住スペースは必要ない。
礼拝堂にあたる場所だけでいいので、建築期間はかなり短くすんだ。
さらに聖堂だけでなく、聖堂のある丘の周囲も整地してレンガの小道を作り、周囲には花を植えた。
丘の中腹からそのレンガの道は始まり、花婿と花嫁が歩いていくと、一面に広がる色とりどりの花畑が祝福してくれる。
丘を登り着くと背後には鐘つき堂があって、そこからはパノラマで王都が一望できる。
まるで王都にいるすべての人々から祝福されているかのような眺め。絶景を楽しんだあとは、さらに道沿いに進むと木々のアーチがあって、今度は小鳥たちのさえずりによる祝福。
そのハーモニーの下をくぐると、ちいさなチャペルが現われる。
チャペルの中は水晶による採光で七色の光が降り注ぎ、近くの森で洗われた清廉なる空気が流れていく。この世のものとは思えない、みずみずしい美しさにあふれている。
街の聖堂のような騒音は無い。あるのは、さわやかな風と木々が奏でるメロディ、そしてかわいい小鳥たちの歌。
てんとう虫がしゃしゃり出てくるスキもない、完璧なチャペルだった。
完成後はお披露目として真っ先にパパとキッドを呼んだ。
ふたりともこの聖堂の美しさに感心してくれるかと思ったんだけど……。
わたしはそのとき聖女の純白のローブを着ていたんだけど、ふたりはなぜかわたしを見て、ポケーッと呆けていた。
「う……美しい……」「き……きれいだ……」
ふたりはなにを言ってるんだろう? きれいなのはわたしじゃなくて聖堂なのに。
わたしはとにかく聖堂をもっとよく見てもらいたくて、ふたりをガクガクと揺さぶった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ハクメイが設計した聖堂は『光の聖堂』と名付けられる。
ハクメイ自身の夢を叶えるための施設だったので特に宣伝などはしなかったのだが、ウワサは瞬く間に王都じゅうに広まってしまう。
おばけテーマパークの再来かと思うほどの人々が訪れ、その美しさに見とれた。
「き、きれい……! こんなにきれいな聖堂、はじめて!」
「本当! まるでおとぎ話の世界に迷いこんだみたい!」
「私、ここで結婚したい! ここで結婚できたら、一生の思い出になるよ!」
「うん! 王都の聖堂での結婚式なんか目じゃないね!」
光の聖堂は大自然の中にあり、賑やかな王都とは違った風光明媚な空間。
その別天地っぷりが都会の女性たちに大いに受け、式場としての申し込みが殺到。
当初はハクメイ専用の結婚式場だったのだが、貴族や王族からの申し出があり、ハクメイは一般開放を決意する。
予約は10年先まで一瞬にして埋まってしまった。
思わぬ女性人気を得られ、ハクメイは大いに喜んでいたのだが、彼女は気づいていない。
「見ろよ、あの聖女様……!」
「ああ、きれいだなぁ……!」
「翼のない天使みたいだ……!」
光の聖堂に訪れた男たちは、みな純白のローブ姿のハクメイに見とれていた。
幽霊と呼ばれていた彼女にもはやそのイメージは無い。
彼女は幽霊から普通の少女、そして誰もが目を奪われる美しい少女へと変貌を遂げていたのだ。
かたやある少女は、真逆の様相を辿りつつあった。
いつも余裕たっぷりだった表情は余裕を失い、高貴な服飾とは真逆のみすぼらしい顔となっている。
彼女は今日も自分が新聞に取り上げられていないことに腹を立て、ビリビリに引き裂いていた。
「きいいいっ! なにが光の聖堂ですか! なにが王都の女性に大人気ですか! なにが王都の男性のあこがれナンバーワンの聖女ですか!」
プレッピーは引き裂いた新聞に写っているハクメイを地団駄とともに踏み潰す。
「このプレッピーだって! 聖女に! なりたかったのに! 最高にゴージャスな聖堂を建てて! 王国での人気を不動にするつもりだったのに! でも資格試験が難しくて! いちども合格できなかったのにっ!」
聖女になるためには資格試験をパスしなくてはならない。
いつものプレッピーなら財力と権力を駆使してどんな権利ももぎ取ってきたのだが、聖女の認定を行なっている聖女組合は隣国にあるのでその力が及ばず、実力でパスする必要があった。
「許さない……! 絶対に許しませんよ、ハクメイ……! このプレッピーからコソ泥のように、次々と……! きぃぃぃぃぃーーーーーーーーーっ!!」
自分の実力不足を棚に上げ、荒れ狂うプレッピー。
その姿は、翼のない悪魔のようであった。




