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12 パパはイケメン

12 パパはイケメン


 白日の元、リアルで目にしたドゥンケルハイドは目が合うだけで、ときめき死しそうなくらいのイケメンだった。

 形容するなら、うら若きドラキュラ伯爵みたいな感じ。

 ストレートロングの髪はさらさらで、顔は青白くて線が細い。中性的かなと思いきや、りりしい顔つき。

 身長はキッド以上に高くて、190センチはありそう。

 スマートな身体にエレガントなデザインのサーコートがとてもよく似合っている。


 というか15歳の娘がいるとは思えないほどに若々しく見える。

 設定だとたしか40歳くらいのはずなんだけど、20代後半だと言われても信じてしまうかもしれない。


 思わず「はえー」と見とれてしまう。パパはまだ、わたしの機嫌を伺っているように見えた。


「メイ、ひとつ尋ねてもよいかな? 私のことを許してくれているのなら、なぜあんな拒絶するような出迎えだったのだ?」


「ああ、それは、怖くて……。パパのまわりがまっくらでしたから……」


 するとパパは「まっくら?」とオウム返ししたあと、「あ」とやらかしを思いだしたような声をあげた。


「すまない。どうやら無意識のうちに闇の力が漏れ出していたようだ。普段は抑えているのだが、緊張すると制御が効かなくなるのだよ」


 あれだけあたりを真っ暗にしておきながら、気づいてなかったなんて……。

 もしかして、パパって天然だったりするんだろうか。


「でも、なにを緊張していたんですの?」


「娘に10年ぶりに会うのだから、緊張もするだろう。昔以上にメイに嫌われていたらと考えると、怖くてたまらなかったのだよ」


 娘に会うのに緊張するなんて……それで、闇の力が漏れ出すなんて……。

 ゲームのなかのドゥンケルハイドは人の心が無いんじゃないかと思われるほどの人物だった。

 でもわたしの目の前にいるパパは、なんだかかわいい性格だった。


「怖くてたまらないって……。こっちは生きた心地がしませんでしたわ!」


 わたしが思わず吹き出すと、パパも笑った。ホッとするような、穏やかな笑みだった。

 そして隣にいたリッパは、それだけで壁に張り付いてしまうくらいに驚いていた。


「わ……笑った……!? あの、ドゥンケルハイド様が……!? 喜怒哀楽がすべて無いと言われているほどのお方が……!」


 リッパの歯に衣着せぬ物言いに、わたしはおかしくなって声をあげて笑った。

 パパもいっしょになって笑ってくれた。

 それから立ち話もなんだということになったので、わたしたちは外のウッドデッキでお茶をすることになった。


「もう、外に出ても大丈夫なのかね?」


「ええ、小さい頃とは違いますもの。学園にも毎日通っておりますわ。お友達もたくさん……とは言いがたいですけれど、楽しくやっておりますわ」


 お互いの現状報告をしあったあとで、わたしはどうしても気になっていたことを尋ねた。


「パパ……なぜ、あんなムチャな投資をなさったのですの?」


 パパは冷静沈着な性格をしている。

 すべてを投げ打ってまで商船に投資なんて博打みたいなこと、絶対にするようなタイプじゃない。

 すると、意外な答えが返ってきた。


「メイの願いを叶えるためだ」


「えっ? わたしの願い? わたしの願いなんて……」


「メイは小さい頃、聖女になりたがっていただろう?」


 そういえば、そんな夢を抱いていた時期もあった。

 小さい頃にいっしょに遊んでいた、枯葉の(きみ)が木の上から落ちてケガをしたとき、わたしは聖女になりたいと願った。

 聖女になれば、癒しの力で彼のケガを治せると思ったからだ。


「でもわたしが聖女になりたいのと、パパが投資をするのとなんの関係がありますの?」


「聖女になるには、聖堂が必要だろう」


 聖堂とは、他の宗教でいうところの教会みたいなものだ。

 教会にいるのがシスターなら、聖堂は聖女のいる場所である。

 聖堂は王都にもあるけど、新たに建てるとなったらかなりの資金が必要なはずだ。

 建物自体の建築費もさることながら、建築許可を得るためには聖女協会に莫大な寄付をしなくてはならない。


「ま……まさか、わたしの子供の頃の夢を叶えるために、聖堂を建てようとしていたんですの!?」


「聖女になるには聖堂に入らないといけない。でも王都の聖堂はまわりの空気が悪いし、不潔な人間もたくさん集まってくるだろう? そんなところにメイをやるわけにはいかない。16歳の誕生日に間に合うように、この丘に聖堂を建てるつもりだったのだ」


 まるで娘の誕生日に人形を用意するような口調で言うパパ。


「それに……その聖堂で、結婚式を挙げてもらいたかったのだ」


 あ、ここのところずっと忙しくて、すっかり忘れてた。

 そういえばわたしはこの国の第十二王子であるトゥエルス様と婚約してて、16歳の誕生日に結婚するんだった。

 パパは遠い目をして続ける。


「メイが幼い頃、医者が言っていたよ。……メイは長くは生きられない。16歳まで生きられれば奇跡だ、と。だから、最高の思い出となる結婚式を挙げさせてやりたかったのだ」


 し……知らなかった……!

 パパが博打をしたのは、わたしのためだったなんて……!

 そして、さらにとんでもない事実がパパの口から飛びだした。


「半年ほど前、私のところにプレッピーさんがやって来たんだ。彼女はメイの親友なんだろう?」


「へ?」


「プレッピーさんが言っていたよ。メイは聖堂で結婚式を挙げたがっていると。でも父親である私が貧乏だから、その願いは叶えられそうにない、って」


「ひょっとして……プレッピーさんはそのあと、パパに投資の話を……!?」


「ああ。たったの一回で、聖堂が一軒建てられるほどの交易の話があると持ちかけられたのだ。交易は成功すれば大きな儲けとなるが、失敗したら大損害となる。だから普段はこの手の話は断るようにしているのだが……」


 パパはひと呼吸置いて、すがるような瞳でわたしを見た。


「『聖堂ひとつ建てられない父親なんていらない』ってメイが言っていたとプレッピーさんから聞いて、賭けることにしたんだ」


 ……や……やっとわかった……!

 パパは、とんでもない親バカだっ……!


 いや、娘が長生きできないなら、せめて結婚式だけでも盛大に祝ってやりたいって気持ちはわかるよ!?

 でもそれで、聖堂まで建てようとするなんて……!


 ドゥンケルハイドは外見だけでなく中身まで、わたしが抱いていたのとは真逆の印象だった。

 ゲームのドゥンケルハイドは老けてて、悪魔の化身のような性格だったのに……。


 いったいなにがどうなったら、このイケメン親バカがデビルマンになっちゃうの!?


 ……そうえいば『GTHグランド・セフト・ハート』では、ドゥンケルハイドが登場した時点でハクメイは死んでいた。

 もしかして、パパはわたしの死がショックで闇堕ちしたとか……?


 いずれにしても、パパが真の暗黒卿になるのだけは防げたみたい。

 わたしはホッとすると同時に、親バカを利用してパパをそそのかしたプレッピーへの怒りが沸いてくる。


 あの時、もっと胡椒をぶつけてやればよかった!

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