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勇者タカユキと魔王の戦い~異世界パンツ英雄譚~  作者: 月見七春
第二章 トランクス、旅立ち
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第七話

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 無事、トランクスを装着した俺はクルルと服屋へ行った。

 クルルが身に付けた下着なら履ける、というのなら服も同じじゃないかと思ったのだ。

 だが、だめ。

 新たに履いたトランクスから例の、でろでろでろでろでーでれん。という音が鳴って、身に付けられない。

 なんなの。

 俺の身体は服を身につけられないくらい呪われてるの。


「もういいから行こ」


 あきれ顔のクルルと夕日を浴びつつ街道を歩く。

 じゃらじゃらとした荷物を抱えるクルルは、十歩進んではふり返ってため息を吐く。


「はあ」

「なんだよ」

「……リュックも背負えないとかどうなの」


 旅の荷物を文字通り背負えない俺に対するストレートな苦情だった。


「そう言われましても。手で持てる分、大荷物持ってやってるんだからいいだろ」


 言い返す俺は、車輪つきのカバンを転がしながら歩いていた。

 一つじゃない。二つもだ。

 内訳は旅の必需品……だけじゃない。

 クルルの洋服や魔法に関する書籍が大部分というのが泣けてくる。


「ふんだ」


 鼻息も荒く言われると、可愛くて似合っているとはいえ腹が立つ。

 けど文句も言えない。

 トランクスいっちょの俺が荷物をクルルに押しつけること。

 それは死に繋がる。

 なぜならば、パンツを燃やした下手人(よく死ななかったな、俺)は、いつでも俺を全裸に剥くことが可能なのだ。

 事実、


『お前の荷物が山ほど入ったこっちのカートはお前が持てよ!』

『ふうん、そんな口きくんだ。パンツ燃やすわよ。そして二度と男物のパンツ履かないわよ』


 と脅してきやがった。

 開き直ってどんなもんでも持ってこい、といったらスケスケの下着を見せつけられたので黙った俺です。

 立ち向かう勇気が欲しい。切実に。

 しかし今は無いので、諦めて話の流れを変えることにする。


「ところで、すぐにも日が暮れそうだが……どこへ向かっているんだ?」

「一番近くにある祠は目的の村の途中にあるの。どっちも今日中にはつかないから、一番近い村まで行くわ」

「乗り合い馬車とかないのか?」

「贅沢は敵……というのは嘘で」


 歩調を緩めて隣に並んだクルルは周囲をきょろきょろ見渡すと、遠くを指差した。


「あれ、見える?」

「ん?」


 示されたのは、遠くの木の根元だ。

 よく見ると鳥の群れが見える。


「鳥がどうし――」


 た、と言う前に、鳥たちが一斉に羽ばたいた。

 木陰から狼の群れが現われて襲いかかったせいだ。

 それに狼たちもおかしい。四肢が異様に発達していて、角まで生えている。


「なんぞあれ」

「最近、魔獣の動きが活発になっているせいか、馬が怯えちゃって。そのせいでよほど気骨のある馬乗り以外、馬車は出てないのよ。おまけに、その中に私たちの向かう方角に行く人はいない」

「……ふうん」


 魔王に襲われている国、と判定するにはまだ早いが、物騒なことだけは間違いないようだ。


「あいつら、襲いに来たりしないよな」

「魔獣の勝手だけど、日が出ている間は大丈夫じゃない?」


 そういうものなのか?

 あと問題があるぞ。


「……もう少しで日が暮れそうなんだが」

「だから急いで歩くこと」

「戦ったりはしないのか?」

「魔獣程度に魔法使うのかったるい」

「お前は出来る子なの? それとも本当は虚勢張ってる出来ない子なの?」

「ふふふふふふ」


 赤い瞳を半分に細めて、にんまりと笑う。

 夕日を浴びた女子の笑顔がちょっと洒落にならないくらい、おっかない。


「異世界から召喚されたタカユキに魔法理論を説いても赤子に社交術を教えるくらい無駄だろうから、一つだけ教えておいてあげる」

「……なに」

「魔法使いは魔法の証をその身に宿す」

「お前の腕が青く発光するあれか?」

「そう。証は通常、一人に一つ。だけど私は九十九の証を宿している」

「……ほう」


 九十九倍すごい、と言いたいのだろうか。


「王国一の魔法使いなわけ。わかる?」


 ちっとも。

 言わない代わりに考えが顔に出たのか、クルルの腕が青白く発光した。


「一回だけ見せてあげる」


 言うなり紋様が腕から浮かび上がり、腕を軸に回転し始める。

 クルルの手の先に紋章が幾つも浮かび上がる。

 彼女の手が向かう先は、この俺だった。

 具体的には、俺の股間だった。


「リュミエイレ・イクスプロージオ!」


 ごんぶとの光の束が俺の股間を貫いた。


「あっーーーー!!!!」


 死ぬ、と思ったのだが、熱は感じなかった。

 その事実がより一層やばいのか、なんなのか考えるより早く光は消えた。

 そして俺のパンツも消えた。


「不浄なる衣を焼いてやったわ」


 ふん、と鼻息を出すクルル。もしや……


「お前、実は自分が脱いだパンツを俺がはいているの嫌だったんか」

「いやじゃないわけないでしょ!」

「……ナニにはナニも起きてないな。ナニも」

「ナニナニ言うな! それくらいの調整、詠唱せずとも出来るわ! 見くびらないで!」


 なるほど。つまり、酒場で燃やした時に俺が無事だったのもこのせいか。


「理解した。お前はすごいやつだ」

「んんっ……ふう。そうよ」


 ん? ん?

 なんか妙に色っぽい声を出したぞ。どうした。


「……ふうっ。は、はやく村にいきましょう」


 もじもじと身体をくねらせたクルルが俺の背後に回って、背中を押してくる。


「わかった。わかったけど……どうかしたのか?」

「なにがよ……んっ」


 妙に艶めかしい声だな。

 ふり返ろうとするとより強引に背中を押される。


「んっんー! なにが?」


 挙げ句咳払いに質問を繰り返しまでするとは。

 怪しい。


「どうしたんだよ」

「いいから! 早くしろ! 夜になったら大変なことになるから!」

「大変なこと?」

「ま、ままま、魔獣に襲われるとかよ!」

「とかって……」

「いいから歩け!」


 腑に落ちない俺は背中を押されるまま、急いで歩く。

 完全に日が暮れる前のぎりぎりのところで村に到着した。

 全裸の俺がどういう歓迎を受けたのかは……あまり考えたくもない。

 強いて言えば、


「彼は勇者。王国筆頭魔法使いのクルルが彼の身元を保証します……あと勇者は専用の装備しか身に付けられず、今はもっていないため全裸よ。大目に見てあげて」


 と説明されたことが解せない。

 おかげで生暖かい目で見守られてしまった。

 確かにもうナニも怖くないと言ったが、そういう意味じゃねえし。やれやれだぜ。

 先導するクルルが取ってくれた宿は、周囲が畑に囲まれているような田舎だからか一部屋しかなく。

 食事を済ませて部屋につくなり布団をかぶったクルルに掛ける言葉も見当たらずに俺は寝た。

 それは真夜中のことだ。


「んっ……んぅ……」


 水音混じりに悩ましいクルルの声がして目覚めた。

 躊躇いながらも薄めを開けて、クルルのベッドを見るとそこには――




 つづく。

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