第五話
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女神のパンツの有効活用方法とは。
色々すごいことが出来そうだと思い、かぶってみる。
機嫌よさげに歩いているクルルの背中に手を伸ばして念を送ってみた。
「んんんんん!」
「ん? なに?」
ふり返ったウサミミ少女に変化はなし。
残念ながら、特別な力はないらしい。
「いや、女神の力でお前をどうにかできないかな、と」
「……どん引きなんですけど。そんなに女に飢えているなら城下町を出る前に娼館にでも寄りましょうか?」
「いや待て、誤解するな。せいぜい語尾にぴょんとつけさせるくらいだ」
「次は侮辱と見なすよ」
女が笑顔で怒りを表現すると、地味に恐怖度が高いのでやめて欲しい。
「いいからついてきて」
「今日はイベント盛りだくさん過ぎたから、そろそろ飯でも食べて休みたいんだが」
素直に願いを口にした。正直、旅立ったその日にいきなり弱音かよ、くらいの反応を予想したんだが。
「……まあ、言われてみればそうかも」
思いのほか柔らかい反応だった。
「いいわ。冒険者が集まる宿でご飯がおいしいと評判の店があるの。一度行ってみたかったから、そこにいこ」
「おお」
思わず前のめりになる俺を見て、クルルは半目になった。
「ところで……パンツかぶるのやめた方がいいよ」
「……おお」
だよね。俺もそう思い始めていたところなんだ。
◆
その宿は大いに賑わっていた。
木製のロッジハウスもかくやという店の一階部分はまるまる食堂になっていて、ほぼほぼ満席状態。
宿の中にいる連中はみな、獣の耳や尻尾が生えた人間ばかりだ。
俗に言うところの獣人、なのだろうか。
だが、クルルに連れられた俺が入るなりみな一斉に黙り込んだ。
「……大歓迎だな」
「いいから。隅っこに席があるから、そこいこ」
構わず歩き出すクルルだったが。
「……おい、あれ見ろよ、正気か」「おい姉ちゃん! 下着姿の男を連れて何をおっぱじめる気だ?」
粗野なツッコミが入るや否や、その手を天井へと掲げてみせた。
素肌に複雑怪奇な紋様が浮かび上がり、青白く発光する。
「彼はこれが正装なの。次につまらないことを言うヤツがいたら、遠慮なく全力でぶちのめすわよ」
「……ちっ」「魔法使いかよ」
クルルの恫喝は効果覿面だった。
なに、あの腕の紋様だけで黙っちゃうわけ。
そんなにすごいのか? 俺にはよくわからないのだが。
来たときほどではないにせよ、賑わいが戻る店内である。
「すまんね、気の荒い連中が多くて。こいつは詫びだ、言い換えれば下手なことはせんでくれってお願いでもある」
全体的に平面みたいに潰れた顔の、だけど妙に愛嬌のあるオッサンがジョッキを二つ置いた。
泡が出た琥珀色の液体。ご丁寧にアルコールの匂いがする。
「いいわ、マスター。オススメ料理を出してくれれば帳消し」
オッサンに極上の笑みを向けて、クルルはジョッキを手にした。
それから俺に掲げてみせる。
「ほら、タカユキ。ノリが悪いなあ、乾杯を知らないの?」
「意外や意外。思ったよりタフなんだな、お前」
「お前っていうのやめて。クルルでいい。それよりほら、乾杯!」
「乾杯」
ジョッキを合わせるなり、未成年にしか見えないクルルがそりゃあもう気持ちよさそうに液体を飲み干した。
あんまり美味そうなんで、一口飲んでみる。
口の中を苦みと炭酸が刺激する。飲み干してみればすべてが洗い流されるような快楽が――
「美味い」
「でっしょー! マスター、おかわり!」
「へいよ」
俺の感想に歓声をあげて、クルルがすかさずおかわりを頼んだ。
妙に胸を強調するデザインの制服姿のウェイトレスさんが運んできた料理は丸焼き肉とサラダをはさんだどでかいパンだった。
かぶりつけば滴る肉汁が手どころかテーブルまで濡らす。
「うまい! おかわり!」
夢中で食べる横で、クルルがどんどんジョッキをあけていく。
それだけで済んだのなら平穏無事な食事光景だったのだが。
「あによ、そのていどしかのめないの? げこ? げこなの?」
クルルが密着して妙に絡んでくる。
全然余裕だし、飲めるらしき身体を侮られるのもちょっと癪だ。
「いいだろう。その挑戦、受けてやる」
「おう、どんとこーい! 百杯もってこーい!」
おいおい金は大丈夫か、というマスターに金貨の入った袋を見せつけると、クルルはすっかり調子に乗った様子で運ばれる端からジョッキを空けていく。
負けていられないからジョッキを空けて、空けて、空けて。
その勢いに宿の人間たちの関心が集まる中、とうとうすべてのジョッキを空けきった。
「ぷふう……うっぷ……やるらないの」
「おまえもな……」
「ふへへへへ! うんんんん! 機嫌いいわあ! もーおまえらぜんいんのめー! ここはあたしがもつのらー!」
俺に抱きつくなりそう宣言したクルルに、いつしか俺たちを見直した顔で見ていた宿の連中が歓声をあげる。
飲んで騒いで、食べて飲んで。
酔いつぶれたクルルとほとんど抱き合いながら、宿の部屋をとって入って……
二人でベッドに入って――……
◆
強烈な頭痛を感じて目を開けた。
目の前には気持ちよさそうに寝ているクルルの顔。
その下に視線を移す。
形のいい綺麗な乳がこんにちは。
さらにその下を見る。
比喩的表現をするのであれば……剣が鞘におさまっている、というか。
朝だけに元気なあれが無毛地帯の奥地にインサート、というか。
抱き締めた身体の感触がやけに心地いい。吸い付くような肌にいつまでも甘えていたい。
「……やっちまった」
目を閉じて思い返すまでもない。忘れているわけでもない。
鮮明に覚えている。すべてをだ。
まず二人して抱き合ったままベッドに倒れ込んで、見つめ合っていたら……いい空気になって。
一度キスしたら止まらなかったし、一回戦どころじゃ済まなかった。
「淫乱ピンクの発情ウサギ……二人して酔った勢い」
そして女神を口説くくらい飢えた狼状態だった俺。
結果は火を見るよりも明らかだった。
ただ、訂正しよう。
淫乱ピンクと言いながらも……クルルは初めてだった。
一回目は凄く痛がったのに、なんだろう。
二回目移行からのいわゆる快楽落ちみたいな感じになった。
獣耳だけじゃなく、ウサギの尻尾も生えている。
俺や俺の元いた世界の人間と身体の作りが違うのかもしれない。
「ん、んん……」
俺の腕の中でクルルが身じろぎする。
柔らかいしあったかい。
起こさないようにそっと乳に触れてみる。
たゆんたゆんおっぱいぱい。
違う、そうじゃない。
落ち着け。
「……んぅ?」
てんぱる俺に構わず、クルルがぱちっと目を開けた。
「お、おはよう」
「んー……」
しょぼしょぼした目で俺を見て、それから胸を見下ろして。さらにその下を見てから、頭痛を堪えるような顔になり。
「……あー」
喉を鳴らしてから、どうでもよさそうに俺にしがみついて目を閉じた。
「待て待て、寝るな!」
「……あによう」
「ど、どう受け止める気だ。この状況を」
「んー……思ったよりよかった? 話によると、痛いだけとかいうけど……とちゅうからよかったし、結果おーらい……ん」
どうでもよさそうに言うな。
「そうじゃなくて。は、はじめてだっただろ、なのにあんな」
「本気でいやならしてないって……」
「え」
なにその殺し文句。
「それともなに。危ない日だったから、出来たら責任とれ、とかいわせたいの?」
「…………」
何も言えません。
「いいから、もうちょっと寝かして……あたまいたい」
「あんなに飲むからだ」
「タカユキだってたくさん飲んだくせにい」
お前のせいだろ、と言いたい気持ちをぐっと飲み込んで、深呼吸した。
手の中にはおっぱい。腕の中に可愛い女子(裸)。
とりあえず、一夜明けて今日。
前の世界での性体験がどうかはわからないので、敢えて言おう。
たぶん俺、脱童貞。そういうことにしておこう。
どう受け止めればいいかわからず、考えるのもめんどくさくなった俺は呟いた。
「……どうせなら寝起きの一発を」
「あまくてその気にさせるキス出来るんならいいよー……」
寝起きのけだるさ半分、妙な色気半分の言葉にその気になった俺は燃え上がり――
パンツが脱げていることの重大さに気づかないのであった。
つづく。




