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第五十七話

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「着火する」


 松明の火を俺の足下に伸ばそうとする赤毛の狐娘にあわてて叫ぶ。

 無理。死んじゃう。


「わー待って待って待って! お願い待って! 落ち着け! 話をしよう!」

「いやだ。お前とは絶対にいやだ」

「わーいあかげきつねむすめ! 理由を教えてくれよ!」

「精霊がささやいている、お前の子を身ごもった女があの中に二人もいた。女を性の対象に見ている匂いがするからいやだ」

「ぐっ」


 クルルとクラリスが妊娠していてしかもその上でコハナともやってる俺に有効な返事は――!


「燃やす」

「待って待って待って」

「爆発させた方がいい? できるよ? 爆発」

「確かに見方によってはリア充街道まっしぐらな側面があるとも……いや修羅場続きで誰がリア充やねん!」

「なんかめんどくさくなってきた」

「こらこらこら! 火を下ろすな! 燃やすんじゃない! 冷静に考えろ? 俺のこと嫌いなんだろ?」

「初対面の人相手に嫌うとかはないけど、今のところ生理的に無理」

「そこまで言うなよ……傷つくだろ……」

「着火」

「わー! わー! クルル-! クルル-! 起きて早く助けて!」


 じたばたもがく俺を虫けらを見るような目で見つめる狐娘さん。


「挙げ句、女に助けを求めるとか。ないわー。ない」

「きみ案外俺をいじりにくるよね!? なんなの! どうしたいの! 目的を言いなさいよ!」

「きもい……」

「よぉーしあったまきたぞ! 言葉で傷つけるのも暴行にあたるんだぞ! こらー! この人でなし―!」

「はあ……こんなのが、本当に?」


 俺を半目で見つめながらも松明を持つ手はそのままの彼女に、


「ナコ、そのへんになさい」


 じいさんの声が呼びかけた。すぐさま、


「長老……」


 狐娘が跪く。


 そのすぐ後だ。歩いてくる人がいた。

 足音は複数。それが俺の背後からゆっくりと近づいてきて、そのまま俺の前へと回る。

 顔がもはや毛だらけの背骨の曲がったじいさんをはじめ、みんな狐耳と尻尾の赤毛の連中だった。

 にしても……もしかしてずっと黙って俺と狐娘のやりとりを見てたのか?

 だとしたら発言には気をつけなければ。


「燃やしてしまいなさい」

「ふざけんなこのじじい」


 あ、やばい。

 みなさんの顔が。一斉に信じられないものを見るような顔に。


「あ、ちが、今のは違うねん。売り言葉に買い言葉というか」

「……ううむう」

「え。考えるとこあった? 今のはむしろたたみかけるように燃やせっていうところじゃないの?」

「この状況で自然に言い返すその剛胆さ……もしや」


 いやいやいやいや。なに人をきらきらした目で見るの。


「ナコ……巫女のそなたに尋ねよう。精霊はなんといっておる」

「……女の敵」


 ちょ。


「だけど、まあ……この世界にあらざる来訪者です。証拠は耳の形状、それから尻尾がないこと」

「そうか……この者が勇者か」


 訳知り顔で言っているところ申し訳ないんだけども。


「燃やしてしまおう」

「ちょ、え? いまそれがくるの!? 流れおかしくない!? 勇者か、そうか助けよう、ついでに村の問題を解決してもらおう的な流れじゃない!?」

「村にはナコという精霊に選ばれし巫女がすでにおる。精霊の御技で魔王の手から霧に包まれたこの村に、そなたは必要ない」

「ええええ」

「ナコ、燃やしてしまいなさい」


 いやー、やめてー、この人でなし-! と叫ぶ俺を半目で見て、それからじいさんたちを見た狐娘――……ナコは深く息を吐き出した。

 ぼんやりと彼女の周囲が光り輝く。一つ角の生えた白馬の像を造り出すと、彼女はその首に手を触れた。


「どう思う? ねえ、ニコリス」

『人の血、それも勇者の血がここで流れたとあれば、私は君たちを守護する力を失う。火刑もオススメはしないよ』


 イケメンの声があの白馬から聞こえる。


「長よ、あなたの命で確かに捕らえましたが……精霊は彼らの血を求めておりません」

「……むう。肉が」


 お前もそれか。俺の肉が目当てか。なんかいやだな。


「しかし精霊が言うのなら仕方ない。我らは小屋で眠りにつくぞ、よいな? 皆の者」


 じいさんがそう言うと集まっている連中がぼんやりとした顔で頷いて、のたのたと歩いてそこかしこの小屋に散らばって入っていった。


「ニコリス、拘束を解いてあげて」

『待っていた。力を介しているとはいえ、処女でない存在に触れるのは嫌いだ』


 あれ……この馬、最低なのでは?

 とはいえ突っ込んでいいか悩んでいたら、身体を拘束していたツルがしゅるしゅると解かれて十字架と共に地面に沈んでいった。

 降りたってすぐ、同じように拘束を解かれたクルルたちに駆け寄る。みんなして「ぐー」「すう……」と寝息をたてて気持ちよさそうに地面に横になっている。


「おい……?」

「霧と同じ。ニコリスの力で眠らせているだけだ。じきに起きるだろうよ。村の北にお前達の馬車を置いておいたから、さっさと出て行け……さもなきゃ今夜、村と共に死ぬぞ」


 興味を失った顔でそれだけ言うと、ナコと――巫女と呼ばれた少女は森の中へ歩いて行ってしまう。


「う、んん……もうたべられないよう。い、いひゃ、いひゃひゃ」


 ベタな夢を見ているクルルのほっぺたをつまんでなんとか起こして、他の四人も起こしてから俺はみんなに告げた。


「なんか嫌な予感がするので、俺たちの無事を考えて村を出ようと思います……ん?」


 並んで立つクルルとクラリスの間に光のモヤが。そこから女神が笑顔で俺を見つめている?


「勇者の行いとして正しくないので久々の女神レーザー」


 目がかっと光って、俺を光線が貫いた。

 頭の中で何かが消えて、かわりにふつふつと気持ちが燃えたぎってくる。


「あの子と村を助けるぞ! みんなに無事な人生を届けるのも勇者のつとめだ!」


 拳を突き上げる俺を見たクルルとクラリスが唸る。「ううん」


「……なんか、ね」

「勇者の行いとしては助ける一択だと思うのですが」

「いっそ私たちの求めるタカユキにびかっと一発してもらえないかなあ」

「それはちょっと楽をしすぎなのでは」

「……まあ。このくらいが限界かあ」

「ですねえ……限界ですねえ」


 微妙な顔をして呟いているのが少し印象的でした。




 つづく。

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