第四十四話
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手を握りしめて離さないくせに顔を合わせないのがクルルだった。
「……怒ってるのか?」
「当然でしょ……」
けど、手は離さない。
だからもう片手で自分の首筋に触れる。
噛まれたり吸われた痕がやまほど。
それは独占欲と怒りの表れだった。
実際「わたしの」とうわごとのように何度も言うんだから間違いない。
「でも好き……」
なんでだろ、と呟いて身体をすり寄せてくる。
ずっと熱いままだ。まあ……その。生々しい話をすると、濡れっぱなしでもある。
コハナの力は本物だ、ということだ。
「身体つらくないか?」
「……タカユキが好きで好きでたまらないのがつらい」
拗ねた口ぶりです。
「たとえばね」
膝の上に頭をのせてきて、上目遣いに俺を見上げてくる。
「ご飯の時には決まってみんなの飲み物用意するの。ペロリのはジュース、私にはお酒。ルカルーはその日の気分で変わるから、なにげなく移動中に何が飲みたいか言って反応を見て決めてる」
これまで特に語る必要の無かった、ほんとうにささやかなエピソードをクルルは語る。
「ペロリはむしゃむしゃ食べるから、料理はあんまり熱くしないようにお願いしてる」
初めて聞くし、クルルが言わなかったら埋もれるエピソードでしかない。
俺気を遣ってるんです、なんてアピールするだけばかばかしい。
敢えて言うべきことじゃないだろ?
「他にもあるの」
俺の手を自分の頬にのせる。
ふっくらしてつやつや。形の良い張りのある頬。
やっぱり熱い。
「いつだって私たちを助けてくれた。めんどくさがるのは口だけで、絶対に投げ出さない」
けど……さすがにくすぐったすぎるぞ。どうした。急に。
「恥ずかしいんだけど」
「そういう攻め方の方が、タカユキ困るかなって思って」
正解。
「一番そばで見てる……のかな」
「クルル?」
「私は……あなたの一番そばにいる?」
心を揺さぶる問い掛けだった。
物理的な距離だけの話じゃない。
だから軽率には答えられないし、だからこそ手を握る。
「ああ」
「……私じゃなきゃだめな理由は、あるのかな」
そりゃあ……不安にもさせるよな。
罪悪感が痛いくらいに刺激される。
「お前じゃなきゃここまでこれなかったし……お前じゃなきゃ、こうなってはいなかった」
「……私のためなら浮気もするの?」
ここ最近ずっとこういう話ですね。
まあ因果応報なんですけども。
ごまかしたら致命的に関係が壊れるのも目に見えてるし。
「悪魔との契約だってする」
「……タカユキがいなくなったら、私きっと死んじゃうよ」
しがみついてくる。
剥き出しにされた心が近づいてくるんだ。
「おいで」
身体を起こさせて、腰の上に跨がらせて……抱き締める。
「誰よりクルルを大事にするよ」
「……ほんと?」
「おう。そうそうやられないし、クルルがやられたら絶対に助ける」
「……うん」
「寿命が尽きるまで一緒にいよう」
「本気に……していいの?」
不安に曇る目に頷く。
「……意味、わかってる?」
「結婚の申し込み」
「……私まだ、14歳」
今更それいうのかよ、と思わず笑った。
「そ、それに、浮気の後だよ? そりゃあ流されたいし、すごく嬉しいけど、でも複雑で――」
しどろもどろにあれこれ言う口を塞いだ。
最初は抵抗したけど……すぐに大人しくなって、次に俺を求めてくる熱。
お互いにたっぷり味わってから……離れる。
「答えは魔王を倒したら聞かせてくれ」
「……それまでに浮気したら、今度こそ見放しちゃうよ?」
「そのための約束な」
なんて。我ながら都合が良いけど……でも、これが精一杯の提案だった。
「コハナはどうするの?」
「なんとかする」
「クラリス様は?」
「そっちもなんとかする」
「……なんともならなかったら?」
「お前を一番大事にするし、誰より幸せにする」
「みんなにいいそう」
「ばれたか」
「もう……あのね? 私、きみが浮気したら不幸になるんですよ?」
わかってんの? と……呆れるように笑いながら見つめるクルルは可愛くてしょうがない。
「だからがんばるよ」
「……じゃあ、期待しないでまってる」
「おう」
頷くと、首筋に顔を埋めてきた。
「最近ずっとケンカばっかりだね」
「明日は大一番だし、うまくいけばその後は魔王の島国に行く。ここからは大変になるばかりだ……ちょうどいいだろ」
「じゃあ……ちょうどいいついでに、元気になったら私を愛して」
耳元で囁くクルルに唇を寄せる。
間違いなく身体を重ねた回数も、素直に語り合った時間も、何よりそばにいる時間もクルルが一番長い。
お互いのいろんなところを知り合っているのも……クルルだ。
それは単純な積み重ねじゃない。
お互いがお互いにとって特別だから到達出来た場所。その証だ。
俺がどんなヤツかは……いい加減わかった頃だと思う。
だからこそ、俺に付き合って……俺を選び続けてくれたクルルに俺は報いたい。
まあ……夢を見たらクラリスと会うんだろうし。
隙を見てコハナは俺を誘惑しにくるんだろうけど。
それはそれ、なんとかしよう。
コハナは別としても……ルカルーもペロリも、クラリスも。
俺に関わってくれるヤツを幸せにしたい気持ちはある。
むしろ……その気持ちばかり膨らんでいく。
敢えて言いふらしはしないけど、出来ることをやろう。
ペロリが言うようにさ。
「みんなをしあわせにできればいいんじゃねーかとおもいます」
その結果を得られるなら、なんでもするさ。
つづく。




