第四十三話
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事情を説明した俺の腹にクルルの足がめりこんだ。
「くらえ浮気者! これは私の分!」
ふわっと浮かび上がる俺のアゴを蹴り上げる。
「これはクラリス様の分! そしてぇ!」
くるっと反転、そのままの勢いで振り上げた踵が俺の横っ腹を蹴り飛ばす!
「これが私の分だぁ!」
「ぐふっ」
壁にばすん! とぶつかる俺をにこにこ笑顔で見守るコハナ。
求む、助けとツッコミ。
「……ふんっ。で? 呪いを解くにはあなたと何をすればいいの?」
鼻息も荒く腕を組み合わせたクルルに歩み寄っていく。
その眼前で足を止めると、手のひらをクルルの下腹部にぺたりとつけた。
「な、なにかな?」
「失礼しまあす」
笑顔で何かを囁いた途端、クルルのおへその下にある紋様が身体中に広がっていく。
濃いピンクの光は右腕に刻まれた青い紋様に繋がり、塗り替えていってしまう。
「あ、あああ、あああああ!」
痛みを堪えるような顔……ではなかった。
恍惚とした顔でコハナを見つめる。クルルの陶酔をコハナは唇で塞いだ。
むちゅううううって。
マジでか。
「ふむぅ、ふむーっ」
「ん……」
生々しい水音を立てて……クルルの抵抗が途絶え、コハナの腕におさまる。
コハナの手がスカートの内側に――
む、むう!
「お、おほん! ちょ、ちょっと散歩にいってくるかなあ!」
見たい。
超見たい。
けど見たらクルルになにを言われるかわかったもんじゃない。
なのでそそくさと部屋から退散する俺、マジチキン。
◆
地元のガキとのフラグを順調にかつ無自覚にたてているペロリを連れて教会へ。
懺悔室のルールみたいなものはわかっているらしく、部屋に入るなりペロリは言った。
「なんじのつみをこくはくせよ」
「あの……俺、浮気をしました」
「それはいけないです」
「ですよね」
「いけないですねえ」
……あれ? 待って?
懺悔ってこういう感じなの?
幼女にしみじみ駄目だと言われるの、けっこう堪えるんだけど。
「ほかにはどんなつみをおかしましたか?」
「悪魔と契約しちゃいました。仲間を助けるためだったんですが、これは?」
「よくないですねえ」
「……そうですか」
「よくないです」
魔王に唆されて街を一つ崩壊に導きかけた幼女に駄目だしされてる。
なにこれ、凹む。
「あとはどんなつみをおかしましたか?」
「……二股三股ってぶっちゃけ、どう思われます?」
「もてもてですか」
「ううん! ううん……割と打算から入られてるんで、なんともいえない。そうとしか表現できない」
「でも、もてもてですか」
「ま、まあ? そう捉えることもできるかもしれない」
「もてもてでやがりますか」
「……まずい?」
「みんなをしあわせにできればいいんじゃねーかとおもいます」
「聖女さま!」
思わず縋る俺に、網壁越しに手を組み合わせて祈るペロリ。
「くいあらためるちかいのことばをいいなさい」
「俺……みんなを幸せにします」
すげえ。何この狂気度溢れる誓いの言葉。
いや待て。勇者が言う分には問題ないのでは?
「ほかにはねーですか?」
「悪魔ともうまくやってみせます」
「そうしなさい」
「浮気もしないよう気をつけます」
「それがいいです。でも……なんだかあなた、くりかえしそーですね」
うっ。
「だれかのためにもならねーうわきはしねーようにしなせー」
てきとー。この平仮名発音による幼女の言葉よ。
誰かのためになる浮気ってなに。倫理とは。
「つまり、もうするな、ということですか?」
「よきにはからえー」
おい。おいこら。適当に言ってないか。
「では、あらゆるいきものへの、ゆるしのためにおわす、めがみのみなにおいて、なんじのつみをゆるしましょう」
「タカユキのこと、許しちゃうゾ★」
ペロリの背後がふわっと光って、女神が舌をぺろりと出して言ってきた。
……なぜだろう。
本来ならありがたさ満点のはずなのに、なんで俺は悲しい気持ちになっているのだろう。
「いじょーだ。ペロリはあそびにもどる。またな!」
ばいばい、と手を振ってぺたぺた足音を立ててペロリは立ち去った。
……うん。
どっと疲れが。
これが因業を祓うための疲れなのだとしたら。
「もう罪を重ねないようにしよう」
俺は心の底から誓うのだった。
何度目やねん。
◆
すぐに戻るのもなんなので、教会の屋根の上でくつろぐルカルーを呼んで街の食べ歩きを敢行。魚介はもちろんなんだが、果物の種類が豊富なんだよな。絞って作った飲み物を簡単な魔法で冷やした状態で出してくれる出店があって、三杯も飲んでしまった。
なんていうか、ジュース美味い。
隣の屋台が出してる串焼きとセットで腹がぱんぱんになるくらい飲み食いした。
小さくて細長い魚の櫛がすげえの。骨まで柔らかいし、独特の苦みはあれどえぐみのない内臓もセットで何本もいける。たらふく食べていたら、屋台のおっちゃんが貝の壺焼きをだしてくれた。それに垂らす琥珀色の液体がなあ!
魚と塩を使って発酵させて作った調味液でさ。濃厚なんですよ。貝の出汁と混ざって得も言われぬ味わい。唾液がマジで止まらないのな。
クルルに持たされてる小遣いで支払って、ついでに宿の二人へのお土産も買って帰る。ルカルーは海を見るのがお気に入りなようで、もう少し外にいるというので別れた。
宿の部屋を開けると――……女子の香りがむんむんでした。
ベッドの上でびくんびくんと痙攣しているクルルの横で、コハナがつやつや笑顔で座っていた。
テクニシャンとの対決の行方はまあ……見たとおりだな。
「おかえりなさいです」
「どうなったか一応聞くぞ」
「呪いをコハナの魔力で上書きして、その上で印と繋いだから……むしろパワーアップ?」
「ふむ……クルル、どうだ?」
ベッドに近づいて、けど腰掛けるのはやめることにした。
ぐしょぐしょです。相当攻められたに違いない。
枕をなんとか引き寄せて、荒い呼吸を繰り返すクルルが横目で恨めしそうに睨んできた。
「その子の、言うとおり……かな」
声がかれ気味だった。
ジュースを渡してやると一気飲みしやがった。コハナは少し飲んで小机に置く程度なのに、この差。
「ぷは……でも、身体の特徴は変わった感じしないかも」
「むしろ強まったはずですよ。魔力と印を手放さない限り、失った人間性は取り戻せないけど」
「な!」
きいてない、と身体を起こそうとしてベッドにべしゃっと倒れる。
マジで力入らないくらい攻められたのか……ごくり。
「それじゃあ、あんまり意味がないじゃない! 魔法が使いにくいままのは困るよ!」
「ですよね、なんで……勝手に契約して作り替えてみました」
「えっ」
「好きな人の匂いとか、触れられたりしたら……すぐに昂ぶっちゃう身体になってますよう?」
「え、ちょ、え」
「というわけだから、えいっ」
コハナが俺の手をクルルの頭にのせる。
するとどうしたことか。
クルルの目に不思議な光が浮かび上がってきた。
それは紋様を描いている。
自制の外れただらしのない顔を見せるクルル。
「ら、め――……」
ぷしゃ、という水音がどこからどうして聞こえたのかは気づかないでおこう。
「たかゆきぃ」
だらしない顔を晒して俺の手を握ってくる。
マジで、その。何度も身体を重ねて知っているからわかる。
発情しておる! 完璧なまでに、発情!
「じゃあそういうことで。気絶するまでしてあげれば癒やされるんで、頑張ってください」
「ちょ、おま、クルルは放置かよ!」
「あなたが夜の技を磨いてくれたらコハナとするとき気持ちよくなっていいかなーって。いわば……特訓? 愛してあげれば彼女も喜びますし。じ・つ・は! ちょっと細工をしておきました」
激しく嫌な予感がする。
「すればするほど、発情度合いに応じて彼女の魔力の向上に繋がるようにしておいたのです。愛されれば愛されるほど強くなる最強の魔法使いの誕生です!」
待て。待て待て。
「ううん、なんて素敵な仕組みを作っちゃったんでしょう! さすがコハナ、いけてる悪魔デス! もう痺れちゃいますよねえ!」
「自分で言うな! おに! 悪魔!」
こんなにやらしい子にしちゃって! どうすんの!
「ごめんなさぁい! コハナはあくまであなたの夜のお供ですからぁ! ……じゃ」
にこーっと笑顔で手を振ると「お店辞める手配してくるから、失礼しまぁす。がんばってくださいねえ」と部屋から出て行ってしまった。
後に残されたのは辛抱たまらん状態の発情クルルと俺。
いい加減、出るものも出ないのでは? と思いつつ、ため息を吐いた。
ここ最近こんなんばっかだけど……思い返してみれば、俺の旅はこんなんばっかだった。
一区切りついたらクルルのパンツで大剣出して試してみるか。
女神がいつだったか雑に言ってた「すればするだけパンツの力も増すんじゃね」発言の真偽を確かめておきたいんだ。
もし本当なら、明日の海戦で役立てることが出来るかもしれない。
あとは……どうせ契約したんだから、コハナも仲間になるわけで。
面通しと、あとはあいつのパンツをもらおう。
クラリスのパンツがないのは痛いからな。戦力をあげるに超したことはない。
「おねがぁい……おかしく、なっちゃうの……おく、せつないよう。ひっく……」
泣きべそをかき始めたので、俺は息を吐いた。
精力剤とか、早いとこ見つけた方がいいかもしれない。
つづく。




