第三十五話
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夜中に到着した港町は活気に満ちあふれていた。
あちこちにある街灯の下で、屈強な海の男達が酒を片手に笑い合っている。
「ハルブは魔王たちのいる島国と海を隔てて位置しているんだけど」
肉や魚をガツガツ食べるルカルーとペロリを横目に、クルルが俺の隣で酒のジョッキを両手で大事そうに持ちながら口を開いた。
「王国の北部海洋交易の要で、それがみんなの誇りだから。そこいらの魔物は簡単にやっつけちゃうの」
おかげでお酒も美味しいのがたくさんあるんだよ、とジョッキを傾ける。
くいーっと。一気に。煽ってすぐに掲げる「おかわり!」。
ちなみにただいま十杯目。
放っておいたら出会った初日のような勢いで酔いつぶれるに違いない。
酒に寛容なこの世界だからこそ許されているのだろうが。
十四才でのんべえ。先行きが不安だ。俺がついていないと感を勝手に抱きつつ、俺もジョッキでおかわり。
ウェイトレスさんがまたいいんだ。
エプロンドレスなんだけど、胸を覆う布地だけ柔らかそうな白い布なんだよな。
ちっちゃい人もおっきな人も、その胸の形が露わになるようなデザイン。
だから気の荒そうな男連中ばかりの居酒屋でも、ケンカする男達の目はおっぱいに向く。
おっぱいが通り過ぎるたびに「このやろ……おう」「んだと……おう」という具合におさまる。
すごいなおっぱい。
特に俺と同じ黒髪の子が特別かわいい。目が合うとにっこり笑ってくれるのがポイント高し。
感慨深く頷いていたら、女子三人の冷めた視線を感じて咳払い。おほんおほん。
「ルカルーは呑まないのか?」
「泡酒は好みじゃない。果実酒が好きだが……高い酒は、勝利の時しか呑まないことにしてる。魔王を倒すまでお預けだ」
「禁欲的だな」
「勘違いするな。我慢して我慢して、仕事を成し遂げた後の一杯が最高だと思っているだけだ」
「……前のんでなかったっけ?」
「泡酒は勘定に入れないんだ」
だったら呑めばいいだろーと何度も誘ってみたけど、つんと澄ましてのってこない。
「じゃあペロリがのむぞ! ぼくがルカお姉ちゃんのぶんまでがぶ飲みするぞ!」
「「「さすがにお前はだめだろう」」」
「……なんだよー」
一致団結する俺たちにペロリがしょぼくれながら魚にフォークを突き刺す。
ぶすぶす。ぶすぶすぶす。
「食べもので遊ぶんじゃないよ」
「ちがう。ほぐさないとくえない」
「魚の食べ方へたな子供か」
「こどもだぞ」
ああもう、しょうがねえな。
「待ってろよ? ……こう、中心から上下に身を分けて、だな」
「おお」
「骨をこう、頭と尾をもちつつ外すんだよ。したら身が食えるだろ?」
「おおお!」
聞いているようで聞いちゃいねえ。
身をスプーンとフォークで乱暴に挟んで口に運んでいる。
食べ方が汚いんだからなあ、もう。
ルカルーは食べる手を止めて手ぬぐいでペロリの口元や手を拭う。
いかにもお世話係のお姉さんだ。
「ほほえましいからもういっぱーい!」
そこいくとクルルはのんべえだな。ただののんべえだ。
まあ、でもこれが俺たちの食事風景なんだろう。
クラリスはどうしているだろうか。
騎士の駐屯所にでも行って伝令を頼めば、知らせが届くのだろうが……
きっとまたすげえ嫌味を騎士から言われるに違いない。
「なあクルル。お前、遠く離れた場所にいる誰かと連絡をとる魔法とか使えないの?」
「んー? 使えるよ」
けぷ、と酒臭い息を吐いてから、俺の肩に寄りかかってくる。
「……クラリス様でしょ?」
「まあ……仲間だからな」
「意地悪でいうんじゃなくてさ……距離が遠ければ遠いほど呪いの反動きついから。いざっていう時以外は困るかな」
「そっか……」
「何か伝えたいことがあるなら教えて。報告を駐屯所にする時に、一緒に届けてもらうから」
酔っているとは思えないしっかりした口調でそう言うと、自然な笑顔を俺に向けてくる。
……正直、かなりくらっとくるレベル。
「なあに? どしたの、熱っぽい目で見て」
「……いや、ほんとにお前はいい女だなあ、と」
「都合の良い、とかつかない?」
「つきません。俺にはもったいないくらい、いい女って意味だ」
「そっか……えへへ。そっか」
体重を預けてくるクルルは膝の上にジョッキを置いて、深呼吸して……眠ってしまった。
「なんか……なんだー?」
「あれが大人の空気。人前でいちゃつくカップルだ。子供はまだ見ちゃいけないレベル」
「っておい! 待ってくれ!」
ルカルー、それは語弊がある!
◆
「と、ツッコミは入れたものの」
お姫様抱っこでクルルを宿に運び、二人ずつの部屋割りでルカルーとペロリにおやすみを告げ、クルルをベッドに寝かせている時点で今更否定もしきれないよなあ、と。
我思う。ゆえに我ぴんこだち。
ひどい。
「んん……うう」
苦しそうにしているから胸元を少し緩める。
それだけで深呼吸して、気持ちよさそうに枕に頬ずりをしやがって。
なんだかんだで、これが俺にとって見慣れた光景になってきていることに驚きだ。
起き上がるまでしばらくかかりそうだし、寝るにはまだ体力が有り余っている。
馬車を預けた騎士の駐屯所で聞いた話だと、魔王のいる島国には帆船で行くしかないらしい。
魔王が現われてからというもの、潮の流れが複雑になったせいで、よほど腕の良い船長の船でも十日はかかるそうだ。
クラリスの指示を確かめるのに三日。
魔王の島にいくともなると、船旅に出ている名うての人員などの手配に七日はかかる。
合わせて十日。
全部で合計二十日はかかる見込みだ。
焦ってもしょうがないので、明日はここハルブの最寄りの勇者の墓を訪ねることになった。
今まで手に入れたのは洋服、靴、甲冑の三つだ。
あとはもう兜かパンツ以外にない感じなんだが。
女神もあれから何も言ってこないし、あんまり重要視していない。
まあ手に入れられるなら入れとこうぜ、くらいのノリだ。そんなんでいいのか。
案外超強い力とか手に入ったりしないかな。
王城奪還戦では酷い目にあったから、次はなんとかしてもらいたい所存。
そこいくとクラリスのパンツで出せるあのブーメランは強力だ。
王族の血がそうさせるのか、人間に当てれば触れたものを奪える。
洋服だろうが、武器だろうが防具だろうが、おそらくパンツだろうがいける。
これほど俺の能力と相性がいいものもない。
もちろんルカルーのパンツで出せるフックショットもいい。
移動でこれほど使えるものもないからな。接地の時が問題と言えば問題だが。
もしかしたらルカルーの身体能力に起因しているのかもな。
あいつ、エルサレンを攻める時に井戸に飛び降りて無事だったわけだし。
ここまで持ち上げると霞みそうなのに、主力としての力は抜群なのがクルルの大剣だ。
軽いし頑丈。なのに威力は凄まじい。
なんだろう……スマッシュが決まる感じ? 手にすると音楽が流れちゃう的な?
うっ(ry
「……んぅ?」
ベッドの上から衣擦れの音がして顔を向けると、とろんとした目のクルルが俺を見つめてきた。
「……さむい」
両手を差し伸べてくる彼女に歩み寄って……考え事は中断。
おさらいするにはちょうどいい時間だったな。
「タカユキ……」
甘えた声を出して胸に顔を擦り付けてくるクルルを抱き締めて……
ここからは大人の時間。
というわけで!
つづく!




