第二十九話
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暗殺者を全員叩きのめした頃にはもう、疲労困憊。
変幻自在の円月輪の軌道や、立て続けに休みなく繰り出されるカタールの攻撃はさばくだけで手一杯で、なのに背中にはクラリスがいるから防戦一方ではいかず。
相手をよく見て、攻撃の癖を見切って攻撃――なんて芸当が自分に出来るとは思わなかった。腐っても勇者か。腐るとかいうな。
「ふぅっ……ふぅ……これで、おわりか?」
最後の一人をぶっとばして、たまらず大剣に縋り付く。
勇者の服はところどころが切れて、俺の血を吸って変色していた。
皮を裂かれるくらいで済んだんだけども、正直痛いし痒い。
「勇者様! おけがが」
涙目になって駆け寄ってくるクラリスを片手で制して、なんとか身体を起こす。
大剣を振るって血を振り払い、周囲を見渡すが……無音。
急に遠距離から攻撃されたりしないだろうな。
はらはらしていた時だった。
がちゃがちゃと金属の擦れる音を立てて、館から松明を手にした騎士が数名走ってきた。
あわてて構える俺に「大丈夫、あれは味方です」とクラリスが告げる。
「クラリス様! ご無事ですか!?」
「ええ、こちらは勇者様のおかげで無事です……賊は?」
「こちらは奇襲を受けてしまいましたが、なんとか押し返しました」
「賊を捕縛し、負傷者の手当てを」
「はっ!」
敬礼をした騎士に目配せしてから、クラリスは俺の手をそっと握ってきた。
「おけがの手当てをいたしましょう。どうぞ、こちらへ」
「いいのか? これだけの騒動があったのに」
「構いません。領主と配下に任せます……それよりも、毒があったら危険ですから」
なるほど、たしかに。
大剣を消して、素直についていく。
領主の館に入るなり顔を合わせた領主さんたちに指示を飛ばすと、クラリスは自身が泊まっていた客室へ俺を導いた。
扉を閉めると、彼女は熱っぽい目で俺を見つめる。
「勇者様……さきほどはありがとうございました」
「いや、なりゆきで……クラリス、さまが危ないと思ったらもう、放っておけなかったから」
「クラリスとお呼び下さい……勇者様」
……うん?
ちょっと、あれ?
部屋を照らすランタンの明かりを浴びたクラリス、ちょっとその……顔が。
顔が色っぽいというか、なんというか。
「脱いで下さい……わたくしが薬で癒しますので」
「お、おう」
あれあれ。すごいシリアスの後なのに、あれ?
ご褒美シーン来た? 来ちゃった?
いや待て、まだ早い。慌てる段階じゃないぞ。
しれっと魔法で治してさあ帰れ、かもしれないじゃないか。
そうとも。だから落ち着け勇者の懐刀。
「えっと……こ、これでいいのか?」
「ベッドに……横になってください」
言われるままベッドに寝転がる。ああ! この体勢だと懐刀の主張が止まらない!
「すごい……」
え、なにが!? なにがですか!?
「いきますね、目を……閉じて」
言われるまま目を閉じたら、しゅるしゅると衣擦れの音がして。
次いで、冷たい液体が肌に落ちた。
それは粘質性の高いもので。
次いで柔らかな素肌が重なってくる。
「んぅっ……」
クラリスの声だった。
ぬるぬるが彼女の身体を押しつける形で広げられていく。
傷口に触れるとしゅわしゅわと音を立てて、痛みも痒みも薄らいでいくのだが。
こここここ、これは!? これはいわゆるローションでプレイな――うっ、頭が痛い!
「この液体は王家につたわる……世界で、たった一人にしか、してはならない……癒やしの、術の触媒なのです」
「そ、そそそそ、そうなんだ」
「この術で……肌を許すのは、王族にとって生涯でただ一人だけ……この意味、おわかりになりますか?」
クラリスの腰が!
腰が俺の懐刀に!
ああ!
「せ、責任の話かな?」
「……おわかりなら、いいのです」
クラリスの切なげな「あぁ……」「はぁ……」「んぅ……」という吐息だけじゃない。
冷たかった液体は体温に近づいて、俺たちの身体は溶け合うようで。
「わたくしを救って、護って下さった勇者様に……勇者様になら」
俺の手を自分の腰に……そしてもう一方をお尻にのせてくる。
「目を、あけて……」
誘われるままに目を開けると、窓から差す月光を浴びて陶酔に満ちたクラリスの顔が。
「して、くださいますか……?」
彼女の腰は、というか……大事なところが、俺の懐刀に執拗に擦り付けられる。
先端から感じたのは、蕩けた熱。
ちゅぷ、という感触ですべてが吹き飛ぶ。ああ、中に! 中に!
「はじめて、もらってくださいますか……?」
断る選択肢がどんどん奪われていく。
脳裏に過ぎる声がないわけじゃない。むしろ涙目で拳をぶんぶん振っているのが目に浮かぶ。
それだけじゃない。
彼女が言う責任とはつまり、王家に関することだ。
皇女さまといたしたら、大変なことになるのもまあ目に見えているんだけども。
マジで、すみません。
ちょっとでも入っちゃったらもう我慢できません。
できないけども。
「他に、抱いた子が」
「かつて、勇者が王になったら……後宮を築くのが通例でした。それに、この世界では何人と結ばれても構わないのです」
「つ、つまり?」
「……貴方は何人としても、いいのですよ」
頬に手を当てられての、甘い囁き。
もう、ね。
「いただきます」
一択でした。
では、と呟いたクラリスはそばの小机の水差しを手にして飲み干した。
水差しを置くと、俺に恐る恐る口づけてくる。
そっと開かれた口の中から落ちてきたのは水じゃなく、甘ったるい蜜を濃縮したような液体だった。
「王家の媚薬……です。確実に……出来てしまう、薬」
ええい、毒を食らわば皿までだ!
飲み干した俺はたまらず彼女を求め、彼女も最初は痛みを訴えながらも最後の方には熟練の娼婦すら裸足で逃げ出す乱れっぷりを見せたのだった。
すごい。すごいぞ王家の媚薬。
だから、まあ……朝起きて。
「すう……すう……」
裸のクラリスを見て、賢者に戻るどころか野生に戻る俺は駄目な男なのだろう。
どうすっかなー。とりあえずパンツをもらえないか交渉するか。
そんなことを考えながら、寝ている彼女を起こして……甘えてくる彼女と、何度でも抱き合ったのだった。
つづく。




