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第十八話

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 なんでかな。

 過去の俺が何をしていたかなんてまるで覚えがないのに、クルルの片耳を覗いて「ああこっちは割と綺麗だ」と呟いてふと、これって耳掃除あるあるなのでは? なんて感じるのは。

 なんでかな。

 案の定、


「ええ?」


 本気で不満げな声を出されてしまう。

 まあ気持ちはわからなくもない。

 失禁しちゃうくらい気持ちよくて、好感度とかそういう諸々を吹っ飛ばしてでもしてもらいたい耳掃除が「垢がないから無理」で終わっちゃうなんて。


 そんなんありかよ、と思うよな。


「やって。ここへきて意地悪するなんてあんまり」


 頬を膨らませて主張する女子の願いを断るのも、確かにクルルの言うとおりあんまりだ。


「ちょっと失礼」


 ベッド脇のランタンを手にとって、ウサミミの穴に近づける。

 見る角度を変えて粘り強く探してみると、耳の凹凸の裏に隠れていたでかいの発見。


「やりがいがありそうだ」

「やった」


 音符でもついていそうな口調で喜ばれる。

 ……まあ、素直な方がいいな。ひねているよりストレートに可愛い。

 こいつの場合、ひねている時は何かしら文句を――


「タカユキ?」


 ばしばしベッドを蹴り始めたので、わかったと呟いて耳かきを伸ばす。


「どれどれ……」


 付け根の毛に耳かきが擦れるだけで「あ、ふ」両目をぎゅっと閉じられた。

 探るように耳の背に当てた手を取って握ってくる。

 むう……ちょっときゅんときた。

 いかんいかん。

 ちょっとした出来心足すところの、クルルとの関係を深める目的なのに。

 俺が落とされてどうする。やれやれ。


「ヒダ裏に結構垢がたまっているな。耳掃除はしないのか?」

「タオルで拭えるところしかやらないの。び、敏感、だから」


 もじもじしながら言うな。落ちちゃうだろ、俺が。お前に。


「そっと……そっと」


 わざと呟くのは自制のためだ。

 指先で毛をよけて、そうっと耳かきをヒダに当てる。


「んっ」


 ぎゅっと握られる手の力は、初めていたした時と同じ強さだった。


「……むう」

「た、たかゆき?」


 泣きそうな声で名前を呼ぶな。

 ああもう。ああもう。

 物凄くムラムラする!


「深呼吸しろ」

「え? う、うん……すうう」


 吐き出そうとした瞬間を見計らって、すっと垢をこそげ取った。


「くんんーーっ」


 身体中に力が入るクルルの爪が、俺の手の甲に突き刺さった。

 あるよなあ……背中の爪傷は男の勲章的なのや、それを見越した女子の演技とか。

 でもこれは演技じゃないし、それなら勲章と考えてもいいのかもしれない。

 そうじゃないだろ。落ち着け。

 あんまり自分の垢は見たくないだろうから、クルルの目が向かないうちにそっと膝上に落とす。


「きもちい……きもちいいよう……」


 うっとりとした目で俺を見て、はあはあと荒い呼吸を繰り返す。

 ……ああもう。本当にもう。なんなのこいつ。


「まだあるからな」

「ん……」


 んく、と喉を鳴らす。

 それでも足りないヨダレがつう、と唇の端から垂れ落ちていく。

 おくちがゆるゆるだ。ちらっと見たらベッドは今だぐっしょり。

 ……おくちがゆるゆるだ。


「タカユキ?」

「いくぞ」


 耳掃除だ。耳掃除に専念しろ。


「ふぁ……んっ」


 無理だ。俺史上最高のとろとろ声で言われて我慢出来るなら、勇者じゃなくて僧侶とかになった方がいい。


「なあ……クルル」

「なぁにぃ……」

「……この後、お前とめちゃめちゃしたいんですが」

「…………んん」


 なんだよ、その間は。


「……いいよ」


 思わず両手を掲げてガッツポーズをしたくなった。


「でも今日はだめえ……今日はこれにひたるのぉ……」


 はようせい、とウサミミを揺らされた。

 くっ。男心を弄びやがって! 俺は今すぐにでもしたいというのに、今日はだめとか!

 はあ……まあ、少しは改善されたと思っておこう。

 たんなる仲間から、えっちありの仲間に。

 ……エロRPGかな? うっ(ry


「にしても……まあ思った以上に取れるもんだな。痛くないか?」

「らいじょぶ……やさしいから、いい」


 何が!? ねえ何が!?


「かりかりして……おく、こんこんして……」


 なに!? もうなに!!!


「はぁン……」


 持て余すんですけど!!!!

 精神攻撃を受けながら垢を取るまで耐え抜く時間はまさに拷問だった。

 二つの大きな耳のおかげもあって地味に重たい頭をのせて、膝も限界に近づく中で。


「タカユキ……なんでここまでしてくれるの?」


 という趣旨の呟きをクルルがした。

 正確に表現するならば、


「らかゆひぃ……ぁんれここまでしてくれりゅのぅ」


 だったんだけど、シリアスな台詞ととろとろ声の反比例度合いがあんまりだったので変換してお届けしたい所存。


「あの雑な女神に連れてこられて、右も左もわからない俺を助けてくれたのはお前だからな。なりゆきとは言え初めてももらったし」


 ヒダを丁寧になぞって垢を取りながら呟くのは、今更すぎた本音。


「ケンカするくらいなら、俺は仲良くやりたいだけだ。お前とのケンカ……っていうよりもじゃれ合いだな。あれは楽しいけど、もっとちゃんと……絆を作りたい」

「なんで?」

「……そりゃあ、お前」

「抱いて情がうつった?」


 蕩けた声に負けず潤んだ瞳でじっと俺を見つめてくる。

 それは耳掃除の快楽のただ中にあっても、俺自身を試すような意志が宿った強い瞳だった。


「まったくないと言ったら嘘になるけどな」


 最後の垢をそっと取り出して、ウサミミの中を確かめる。

 綺麗になったそこにタオルを当てて拭うと、一仕事終わりだ。


「それだけだったら、こんなことしてねえですよ。つまり、そういうことだ」


 タオルで拭う間に呟く遠回しな本音。


「ほら、終わりだ」


 照れつつもちらっと見たら、クルルは蕩け顔で気絶していた。

 ああ、もう……なんだよ。

 タオルで下を綺麗に拭ってやってから、抱え上げてクルルのベッドに運んでいた時だった。


「……ばか」


 何についてなのかわからないが、俺の腕を抱き締めて離さなかったので……当初の約束通り二人で寝ることになった。

 やむなくだ。本当に……やむなく。

 だから寝ているクルルに手を出すのはフェアじゃないのでやめたし、それでも耳掃除中に見た艶姿は扇情的に過ぎたので、寝つけるまでに大層時間がかかった。

 すごく熱くなっているクルルの体温に気が緩んでしまうと早く。

 ふと気づいて目を開けるともう朝だった。


「ん……すう」


 肩口に頭を預けて眠るクルルの顔は、正直驚くくらい愛らしかった。

 昨夜の耳掃除中もそうなんだが、ルカルーは今もぐっすり寝たまま。

 なので、いっそ衝動に任せてキスしてやろうかと思ったんだ。


「んん……んぅ?」


 あと一歩のところで目覚めたクルルは俺の顔をしばし見つめた後に、


「……そういうのは、まだだめ」


 それだけ言ってより一層強く俺の腕を抱いて、頭を押しつけて……また眠ってしまった。

 く、悔しくなんてないんだからね!




 つづく。

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