表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/159

28-4

夜会の後、報告書をまとめるため、セリナさんと二人揃って技術部棟に戻る。

軽く打ち合わせをしてから解散した。


家に帰る前に、どうしてもリュート様を一目見たくて顧問室に行ったが、灯りが消えていた。

時刻はもう深夜。今夜は早めに休んでいるか、仮眠室側で作業をされているようだ。


扉にコツンと額をつけて、少しだけもたれ掛かる。

「……明日は少し早めに来ようかな」

夜会の翌日は、護衛のベスさんが休むためにも朝鍛錬は休みになる。その分早く来て、追いついてない分の仕事をしよう。


そう思って、そっと扉から離れた時だった。

目の前からカチャン、と施錠が外れる音がする。


信じられない気持ちで見ていると、扉が開く。

「カレン?どうしたのこんな時間に」

リュート様の髪が濡れている……どうやら奥で湯浴みをしていたらしい。


――貴女の夫は、貴女のために万難を排して決闘を申し込みにくる男ですか?――

あの言葉が頭の中に響き、胸が熱くなる。


きっと、本当に私が拐かされたら……リュート様は、来てくださらないだろう。

でも、それでもいい。それでも、今この瞬間扉を開けてくださった。それだけで、もう。


ふ、と笑みを浮かべてリュート様を見つめる。


「……起きていらっしゃるなら、ご挨拶をしてから帰ろうと思いまして。お騒がせして申し訳ございません」

そう言って一礼して下がろうとした瞬間、リュート様に手首を掴まれた。


「……もう無理」

「え?リュート様、今なにか……?」


「カレンも、帰って寝るだけ?」

リュート様が何かを呟いた気がしたのでお伺いしたが、質問が返ってくる。


「は、はい。そうですが」

「じゃあ……一回帰って着替えたら、泊まり支度して戻ってきて」

「えっ?」


少しだけ手を引かれ、リュート様が私の掌に頬を寄せる。

本当に湯浴みしてすぐだったらしい。手袋越しでも温かさと湿り気が伝わってくる。


「カレンが戻ってくるまで、寝ないで待ってるから」



家に帰って、湯浴みしてドレスを片付け、大慌てで顧問室に戻ってきた。相変わらず部屋の灯りは落ちており、周囲の廊下も暗い。

施錠もされているため他の技術部員は、リュート様はもう休んでいると思うだろう。


ほ、本当に入っていいのかな。

でも、リュート様が寝ないで待ってるって仰ってたし……。


震える手で鍵を開ける。

顧問補佐官である私は、勿論だが合鍵を持っている。

業務でもないのに鍵を開けて顧問室にわざわざ入るのは初めてで、ひどく緊張した。


「あれ、ちゃんと軍服着て来たの?ふふ、真面目だなあ」

顧問室に入ると、リュート様が仮眠室から出てきて迎え入れてくださる。

「だ、だって、私服で来たりしたら、他の方に見られた時なんて説明すればいいか……」

「夫に会いに来たでいいじゃない。あ、ごめん。急かしちゃったね」

リュート様が生乾きの私の髪に触れた途端、周囲が温かくなり髪がさらりと乾く。


「……はやく私服に着替えな」

私の髪に口付けを落とすリュート様に、心臓が痛いくらい高鳴った。



「えらい。ちゃんと寝れる服持ってきたんだね」

そんな事を言いながらリュート様は夜着に着替えた私をベッドに座らせ、髪に指を絡めたり頭を撫でたりしてくる。

普段こんなにスキンシップを受ける事がないので、動揺してしまう。


「ひゃっ、あ、あの……!?」

とうとう頬に唇が触れたので、慌てて声をかける。


「リュート様、えぇと、どうされたんですか?」

「え、妻を愛でてる」

「……本当にどうされたんですか……?」

最近のリュート様は、なんだか様子がおかしい。

優しすぎて遠く感じるかと思えば、こんな風に接してきたり……。


「んー……上手く言えないんだけど、最近カレンとちゃんと接せて無いなって思って」

私を抱きしめ、額を押し付ける様に擦り寄ってくるリュート様は、実は眼鏡すら外している。

「ふふ、カレンの顔、真っ赤」

「ううううぅ……」


良いんだろうか、こんなご褒美みたいな時間。

中途半端で何も出来ていないのに、仕事も社交もやるべき事が山積みなのに。


「すみません、いつも甘やしていただいてばかりで……」

「え?……あぁ、そうだ。カレンのこと3班長が心配してたよ」

「はい?」

「『忙しいのに業務抱えて、しかも手を抜かないから心配』だって」

「え、そんな、全然仕事出来てないのに」

「そう?基礎研究班はもう『カレンじゃなくてお前が倒れろ』なんて笑って言いながらなんでも僕に直接持ってくるし、週次報告書も、カレンに甘えてないで各班で書くってさ」

「そんなっ」


氷を飲み込んだように、体が一気に冷える。

むしろ私が社交に出たことで、皆さんに業務負担をかけてしまっているのに、業務を肩代わりさせてしまうなんて。

そんな申し訳ないこと……!


「僕だけじゃなくて、皆カレンのこともっと甘やかしたいみたい」

「でも、でも……わ、私、皆さんに研究業務に集中していただきたくて、それで……」

「ふふ、大丈夫だって。班に戻した業務は全部、優秀過ぎる僕の補佐官に皆が甘えてた部分だけだよ」

「ううぅ、でもぉ……」


――コンコンコン。


戸の向こうで顧問室の扉がノックされる音がして、ビクリと肩を揺らす。

こんなところ、誰かに見られたら!

頭に冷や水をかけられた気がして、慌ててベッドから降りようとしたが、リュート様の手がそれを阻む。


「《ゼフト、何の用?》」

リュート様が通信魔術でそのまま会話を始める。こんな真夜中に誰かと思ったが、ゼフト部長だったらしい。

それにしても、魔力波長で誰なのかすぐに把握したうえ、補助魔導具無しで強制的に通信魔術を、それもたった数秒で繋いでしまうなんて……。


最初の一言以外はそのまま念話で会話しているらしい。

リュート様が真剣な表情のまま私を抱き寄せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ