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26-6

「今日はよく頑張ったな、疲れたろ」


帰りの馬車で、ゼフト部長が肩の力を抜いて笑う。

最後のダンスまで無事踊り終え、帰路についているところだ。

社交デビューをなんとか終えることができ、ほっと胸を撫で下ろす。


「部長、パートナー本当にありがとうございました。大変心強かったです」

「ははは、なら良かった。悪いがダンスカードを見せてもらえるか?」


カードを渡すと、部長が苦笑いをする。

「画に描いたような外交窓口っぷりだな。国外勢とのダンス中の会話、記録するから後で教えてくれな。……俺が把握する前に踊ったのは、子爵だけか」

「はい……ジェビオラ子爵閣下だけ、です」


ジェビオラ子爵ご夫妻……リュート様の、実のご両親。

シン、と馬車に静寂が訪れる。


「…………子爵夫妻には、手紙を送らなくていい。向こうも承知している」

「はい、わかっています」


お二人は、リュート様を養子に出したことで書類上は縁が切れている。私と懇意にすることで、この状況に巻き込みたくはなかった。



「本当にお前までこっちでいいのか?」

「はい、リュート様と約束していますので」


ゼフト部長と私、二人とも家ではなく技術部棟に戻ってくる。

部長は今日の報告書作成、私はリュート様に顔を見せにいくためだ。馬車を降りる私をエスコートしながら、部長が声をかけてくる。


「ストックリー」

「はい」

「……リュートにダンスカード、見せてやれ。大丈夫だから」


馬車のステップを降りきったタイミングで、部長が誰かに私の手を譲る。


「おかえりカレン。やっぱり似合うね、このドレス」

「リュート様っ?」

「心配で馬車寄せまで来ちゃった。大丈夫だった?」


私の手を握っていたのは、リュート様だった。


包み込むような優しい、優しい赤茶色の瞳と微笑み。

泣きたいわけじゃないのに、勝手に目が潤む。

「……っ」

「カレン?」

「気ぃ張ってて疲れたんだろ。早く連れてってやれ」


ゼフト部長の言葉に、少しだけ何か考える素振りを見せたリュート様は……何を思ったか、私を抱き上げた。

「きゃっ!?」

「あ、すごい。やっぱりドレスって結構重いんだね」

「何やってんのお前……」


「え?疲れてるならこの方が早いかなって……違った?」

部長の呆れた声に、リュート様が不思議そうに答えた。



「重いのにすみません……」

「ふふ、いいよ。お疲れ様」

リュート様は、結局顧問室――さらにその奥の仮眠室まで私を抱えたまま戻ってきた。

私も頭では降りなくてはと思っていたのに、安心する温もりから抜け出したくなくて、そのまま甘えてしまった。思ったより疲れていたらしい。


「舞踏会、大丈夫だった?ごめんね一緒に行けなくて」

「いえ!部長がほとんど面倒を見てくださって、私はダンス以外は本当について回っているだけで……」


ベッドに二人並んで腰掛け、話をする。

舞踏会明けの今はもう、深夜というより未明に近くなっている。本当ならリュート様にも睡眠をとっていただかないといけないのに、口が勝手に動く。


「ダンスカードも、驚きました。私、全然埋まらないと思っていたのに」

「そんなに申し込み来たの?妬けるなぁ」

「ええっ?あ、あの……えっと、ご覧に、なります?」


震える手でカードを渡す。緊張で鼓動が早くなる。

「ああ、ゼフトとルーク君と……この辺は他の国の人?名前の感じが違うね」

「は、はい。国外の方が多くて」

「ふーん……」


――ふと、リュート様の動きが止まった。


じっと見つめているのはもちろん、ジェビオラ子爵……実のお父様のお名前が書かれている欄だ。

声をかけていいのか分からず、おろおろしてしまう。


「……あ、あの、リュート様……」

「っふふ、あははっ。……あぁー……そうくるか」


リュート様は笑いながら眼鏡を外し、目元を手で覆ってしまうと、そのまま大きく深呼吸した。


しばらくの沈黙の後、目元を覆ったままのリュート様が口を開く。


「トゥルペ侯爵家に養子に出されてから、一度も会ってないし手紙の遣り取りも無いんだ。父さ……子爵夫妻はお元気そうだった?」

「は、はい!奥様はとても賑やかな方でとてもお優しくて、旦那様は物静かな方でしたが、笑うと……リュート様そっくりで……」

どうしよう。お二人がどれだけ素敵な方々だったか、きちんとお伝えしたいのに。どんどん涙が溢れてくる。


「……ひっく、うぅ……」

「……ありがとう、教えてくれて」

リュート様は目元を覆った手を外し、泣きじゃくる私の頭をゆっくりと撫でてくださる。


――その目元が少しだけ赤くなっていることに、気付かないふりをした。

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