26-5
見ると、私たちの親世代くらいのご夫妻がいらっしゃった。
流石に人前でそのまま私を罵倒するのは憚られたのか、二人は黙りこくる。
「あら?ごめんなさい、お話の邪魔をしてしまった?いやぁね、歳をとると声が大きくなっちゃって……」
ご夫人が恥ずかしそうに微笑むので、一礼で返す。
するとご夫人が目を輝かせて近づいてきた。
「まあまあ、その髪、貴女もしかしてストックリーさん?私達のような田舎者にもお噂は届いていますけれど……鉄だなんてとんでもない、まるで雪の妖精ね!」
「き、恐縮です。奥様、あの」
「あらあら、ごめんなさいね急に話しかけちゃって。ねえ貴女達、ストックリーさんをお借りするわね!せっかくの機会ですもの、お話しさせてくださいな」
気が付けば二人とは引き離され、ご夫妻と軽食スペースで過ごすことになっていた。
助けていただいたお礼を言ったら、不思議そうな顔で「なんのこと?」と言われてしまう。
亜麻色の髪と瞳の優し気なご夫人は、「私は口から生まれたの!」と言いながら、そのまま沢山のお話をしてくださった。
そのお顔に見覚えがあるのに、何故か思い出せない。すっかり肩の力が抜けた私は、不躾な質問をすることに決めた。
「あの……以前どこかで……?」
「えぇ?どうかしら。こんなに綺麗な子、会ったら絶対に忘れないと思うけれど……。あ!そうだカレンさん、次の曲、よかったらウチの人と踊ってくださらない?」
ふと旦那様を見ると、赤茶色の髪と瞳の、精悍な顔立ちの方だった。
「ほら、もう次の曲が始まっちゃうわ!急いでカード出して!」
「は、はいっ!」
慌ててカードをやりとりすると、名前を確認する間もなくダンススペースに連れられ、ダンスが始まる。
「あ、あの、奥様がお一人でっ……」
「気にする必要はない。彼女はああだから、すぐにどこかの女性陣に混ぜてもらえるだろう」
旦那様は気にする様子もなくダンスを続ける。
「信頼していらっしゃるのですね」
「そういう言い方をされると気恥ずかしいな」
そのまま穏やかにダンスが続く。もうすぐ曲が終わるというタイミングで、旦那様が再度口を開いた。
「妻の我儘に付き合ってくれてありがとう。もうすぐ娘がデビュタントだから、妻は今年が最後の大舞踏会なんだ。君のような子に会えてよかったよ」
「まあ!私こそ、助けていただいて優しくしていただけて、とても嬉しかったです。ありがとうございました」
――その時、精悍な顔立ちの旦那様が、ふっと微笑んだ。
赤茶色の髪と、瞳と、その笑い方が、愛しい人と重なる。
「……え?」
心臓が早鐘を打ち始める。確証が持てないまま、促されるまま脇に捌けると部長が待っていた。
部長も必死で表情を取り繕おうとしているが、驚きを隠せないでいる。
ゼフト部長が口を開こうとすると、旦那様がゆっくりと首を振る。
その瞬間、どこにいたのか奥様が旦那様の腕に抱きつき、私を見てにっこりと微笑む。
「ありがとう、カレンさん。隠居前にいい思い出が出来たわ」
「あ、あの……っ!」
話しかけようとした私に、奥様は「しーっ」と人差し指を立て、悪戯が成功した子供のように笑む。
そのまま去っていくご夫妻の姿を、涙を堪えて必死に目に焼き付けた。
どうして気付かなかったんだろう、奥様は表情も豊かで、女性で、年齢も全然違う。
でも、それでも。
あんなにそっくりのお顔立ちをされていたのに。
「……リュート様って、お母様似なんですね……」




