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「……いくら何でもそっくり過ぎる」
「ははは。俺の言いたい事、伝わりました?」
新年拝賀を終え、二人とも家で軽く着替えてから技術部棟に向かう。
先に技術部棟に戻って部長に報告していたアレン様は、リュート様の言葉に笑って答えた。
と同時に3班長が顧問室に入ってくる。
「顧問ー!ようやく戻ってきた、カレンさん貸して……あ、来客?出直す?」
「いえ大丈夫です。じゃあ、俺はそろそろ行きますね。さーて、クレアになんて言い訳しようかな……」
貴族の多くは新年拝賀の後、一族で新年の食事会だ。
アレン様は、今年はジェビオラ家の食事会に呼ばれているらしい。さっき確実にバレたであろうクレア様に何て説明しようか、今から苦笑いを浮かべていた。
と、退室しようとしたアレン様をリュート様が引き留める。
「ちょっと待って。3班長、宰相補佐官のアレンだよ。アレン、その人、3班長やってるヴィクター」
リュート様に紹介されたので、アレン様は不思議そうに、3班長は苦笑して握手する。
どうされたんだろう?と思っていたら、リュート様が淡々と、いつも通りの顔で二人を見る。
「その人が次の部長だから、アレンは顔覚えておいて」
「は!?」
「えっ?」
「あはは、顧問。言うの早すぎ。カレンさんまで驚いてるし」
アレン様と私が驚愕している中、3班長が朗らかに笑う。全く動揺しないところからして、本当のことなのだろう。
アレン様がリュート様に詰め寄る。
「ゼフトさんは?!」
「ゼフトが定年まで部長やったら、二十年近く続いちゃうから組織の固着を招く。だから数年かけて引き継ぎして代替わり予定。……どうせアレンは偉くなるんでしょ。3班長と今から少しずつ仲良くなっとけば」
「顧問ありがと。俺、国勢庁は知り合い多いけど宰相府方面は少ないんで、補佐官さんとお知り合いになれるなら助かります」
「そ、そうですか。俺としても確かに次期部長と今から繋がり作れるのは助かりますけど。……はぁ、びっくりした」
そのまま言葉を交わす3班長とアレン様を、ぽかんと眺めてしまう。
「え、えっと、いつ決まって……?」
動揺のあまり疑問を口にすると、3班長が笑顔で答えてくれた。
「昨日」
◇
「3班長が次の部長……」
「カレンに言う前に、アレンに言っちゃった。ごめんね」
「い、いえ!それにしても……なんていうか、すごくしっくりきました」
「あはは、やっぱりそう思う?9班長か3班長しかないなって、ゼフトとウェンとよく話してたんだよ」
そんな話をしながら、二人とも執務机について業務の準備をする。
「ついでに定年間近の2班長の後任もようやく決まりそうだし、2班長自身も技術部に残ってくれそうだよ」
「え、本当ですか!?」
嬉しくて思わず顔を上げてしまう。
2班長は技術部最年長で、他の班長からも慕われているし、ゼフト部長もとても頼りにしている方だ。
リュート様が悪戯っぽく笑う。
「なんとね……2班長、次は顧問だって。僕と同じ技術顧問」
「えぇ!?」
「なんとか増員の許可が下りたってゼフトが言ってたよ。これでようやく術式評価書とか有志論文の査読みたいな上級研究員系の仕事、僕もゼフトもかなり減る」
「本当ですか!?」
感激のあまり思わず立ち上がってしまう。
リュート様は普段、朝に私が起こしてから眠るまで、食事の時間以外ずっとお仕事をされている。
一度だけ月の勤務時間を計ってみたら、ゆうに400時間を超えていたので、即座にゼフト部長に泣きついたのは記憶に新しい。
「カレンは、顧問が二人になるからかえって大変かも。そっちもどうにかしよう」
「いえ!大丈夫です!どんどんお仕事ください!」
「だーめ。だってさ……」
リュート様が私に歩み寄り、そっと囁く。
「子ども出来たら、流石に今と全く同じってわけにはいかないでしょ?」
「え」
予想外の言葉に思わずリュート様を見ると、優しい笑みを浮かべている。
「カレンとずっと一緒にいるためなら、僕だって何でもするから。頑張るから、待ってて」
「……!」
耳と頬が燃えるように熱く、胸がきゅうきゅうと痛い。
リュート様は、将来のことまでずっとずっと、考えてくださっているらしい。
そんなの、そんなのって……!
「……リュート様って」
「ん?」
先日、リュート様にとって自分が大切な存在だと理解したからだろうか。それとも婚姻術式まで刻んでもらえたからだろうか、つい調子に乗った発言が口から出る。
「リュート様って……わ、私のこと、その、け、結構……好き、だったりします?」
リュート様はきょとんとした後、すぐに破顔し声を上げて笑う。
「あははは!そうだよ、今更気付いた?」
完
こちらで本編完結です!リュートもカレンも少し成長できました。
よろしければ後日談もご覧ください。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!!




