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新年拝賀。
国の主要貴族などが呼ばれ、陛下のお言葉を賜る式典。
「る、ルト様、お支度は済みましたか?」
「うん。あとは向こうでマティアスさんとアレンに直してもらう」
リュート様と二人で身支度し、階下に降りる。
護衛であるベスさんとシュウさんと合流して、馬車に乗る。
新年のよき日、今日はリュート様の叙爵後二回目の社交だ。
◇
「クレア。あまりキョロキョロしないように」
父にそう言われて、ついむくれて返してしまう。
「お父様。私、こう見えて宰相府文官ですの。それくらい分かってます」
私はクレア・ジェビオラ。子爵令嬢だ。
昨年の春にデビュタントしたこともあり、今年は新年拝賀への参加のお許しを頂いている。
「……何だか近衛に落ち着きがないな」
「ああ、なんでも今年は珍しい方が参加されるそうですよ」
周囲の近衛兵の方々がピリピリしている。
その事に気付いた父が不思議そうに呟いたので、さっきのお返しに仕事中に聞いた話を披露する。
「ほら、一年ちょっと前に叙爵されて男爵になった方がいるでしょ?あの方が参加されるんですって」
「……は?」
何故か父が驚きではなく動揺を示した瞬間、「いらしたぞ」という固い声と共に会場の近衛に緊張が走った。
こんなに空気が変わるなんて、いったいどんな方なんだろう?
そうこうしていると、アレン様と一緒に近衛に誘導された男女が見えた。
「……え」
一瞬、母が男装しているのかと思った。
世の中には、よく似た人が三人いると聞いたことがあるが、アレがそうだろうか。
それくらい母に似ているが、あの長身と髪と瞳は……父のそれだ。
一緒にいるのは、銀髪の女性。
私でも知っている、以前は鉄屑と呼ばれていた方だ。
と言っても、聖女様の実妹であり上位貴族に認められたあの方をそう呼ぶ人は、大分減ったけれど。
ストックリー夫人は何度か社交の場でお見かけしたことがある。じゃあ、やっぱりあの男性が……。
「リュート・ストックリー男爵……」
ポツリと呟いただけで、絶対聞こえないはずの距離と騒がしさなのに、赤茶色の瞳がこちらを向く。
あまりにも父そっくりの瞳と視線がかち合って、思わずビクリとしてしまう。
向こうも少しだけ驚いたような顔をして……そのまま何事もなかったかのように歩いていってしまった。
私の婚約者であるアレン様が、こちらに小さく手を振る。
普段はそういうことをされない方だ。おそらく、いまの男爵の反応を誤魔化すためにわざとやったのだろう。
ざわめきを見送って、気が付いたら止めていた息をゆっくり吐いた。
なんだったんだろうあの人、というか……。
ゆっくりと父の方を見ると、気まずそうに目をそらされた。
「お父様。念のため聞きますけど、不貞してませんよね?」
「……他所で作った子が、あんなに母さんに似てるわけないだろう」
溜息と共に、衝撃的な言葉が父から飛び出してきた。
――ぐったりとした様子の父には悪いが、これは聞くことが沢山あるらしい。




