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第21話 警告

 王城の庭園を歩き回る一つの影に、近付く者がいた。


「王城内で、お前が感じたという魔力の異変は見付かったのか?」


「兄上……」


 先日のレティシアが倒れた茶会の後、徹底して王城内に異変がないか調べられたが、なにも見付かっていない状況であった。

 アルフレッドが感じた、いつもは感じられなかった僅かな魔力も、何処からも見付ける事が出来ないでいた。

 アルフレッドは、ジルベルトの表情を見て兄の心情を察する。

 一見すると、笑顔で何時もの周囲から好ましいと言われるような表情に見えるが、強い怒りを纏いながら自分の事を見据えているとわかった。

 そして、その理由もアルフレッドには、わかりきっていた。


「本当に、あの騒ぎの原因は何だったのか早く解明しなければならないな……」


「……………」


「今日、学園を休んだようだが、レティに会う為に、学園を休んだのかい?」


 ビリビリと感じるジルベルトの圧に、アルフレッドは気圧されそうになるのをぐっと(こら)える。


「そうだったら?」


 アルフレッドの言葉に、ジルベルトは目の笑っていない笑みをさらに深めた。


「お前が、本気で動き出した事は、私がお前を煽った事も原因であるから何とも言えないが……

 たとえ、大切な弟のアルであっても、()()レティシアに近付き触れようとするのなら、それは許しはしない」


「兄上のって、あいつはモノじゃないだろ!?」


「モノ?

 当たり前だ

 そんな訳がないだろう?

 レティシアは、()()唯一であるのだよ

 ()()()()唯一なんだ

 それは、お前にも理解してもらわなければいけない

 私達の間を脅かそうとするものは、何であっても許す事はできないからね」


「───もし、俺が脅かしたら……」


 アルフレッドの溢した言葉に、ジルベルトの顔から笑みは消え、突き刺すような殺気をアルフレッドは感じた。


「アル、一つ教えてあげるよ

 人はね、物事を起こす気がなかったり、既に何か起こしてなければ、警告した者にそういう事を再度確認したりする事は、あまりしないものなんだ」


「………っ!」


 アルフレッドでも初めて見るような、冷徹な表情を浮かべるジルベルトに、自分がレティシアにした事を兄は気がついているのかもしれないと感じる。

 ビリビリと感じるジルベルトの強い殺気に、アルフレッドは怯みそうになる事を必死に堪えた。


「アルフレッド

 レティシアに何をした?」


「………っ……」


 ジルベルトの強い怒りの籠った視線を向けられ、低い声が響く。アルフレッドは、その視線を反らさない事で精一杯であった。

 なかなか、自分の問いに答えないアルフレッドに、ジルベルトは一つ息を吐く。


「私がお前を煽った事も原因であるから、今回はこれ以上追及はしない

 お前のその表情は、何があってもその事を口に出しそうにもないからな

 だが、二度目はない

 これ以上、レティシアがあのような表情をするのならば、アルフレッドであろうとも、私は容赦はしない

 その事は覚えておけ

 それでも動くというならば、私にも考えがある」


 ジルベルトは、そのような言葉を言うと、アルフレッドの前から踵を返し王城へ戻っていった。


 兄の強い怒りへの恐怖と、自分にとっても唯一である存在を手にしている兄へ向ける強い嫉妬という、そんな感情が綯交ぜになった気持ちの悪い感覚に、アルフレッドは心の中がどんどんと黒く濁っていくような感覚を覚えた。



 ◇*◇*◇



 数日後の学園が休みの日、ジルベルトは王城の自分の執務室で、執務の補佐をしているアランと共に執務に追われていた。

 そこに、侍従からマリアベルからの庭園で一緒にお茶を楽しまないかという招待を告げられる。

 あからさまに機嫌を悪くしたジルベルトへ、アランは口を開く。


「で? 返事はどうするんだ?

 侍従が困っているぞ?」


「………時間が空けば、顔を出すと伝えてくれ」


 ジルベルトがそう告げると、侍従は執務室を下がっていった。


「殿下のご機嫌は悪そうですね?」


 アランが茶化すように言った言葉に、ジルベルトは大きなため息を吐く。


「毎度毎度、茶会だと何を考えているんだか……

 こっちは、レティとの時間を削ってまで、増えた執務やら公務に奔走しているのに、さらにその大事な時間を、くだらない茶会に費やさなければならないなんて、忌々しい」


「それもその茶会には、この国の主要な家柄の子息令嬢を毎回招いているようだしな?」


 アランの言葉にジルベルトは手にしていたペンを置くと、椅子の背凭れに背を預ける。


「もう、この国の妃になったかのような、振る舞いだよね?

 どう、動くのか放任していたが、アルが彼女にそのような気がないのは確実であるし、もう切っても問題ないかな?」


「まだ、アルは返事を保留にしているんだろ?」


「………アルは、王女には何の興味の一つもないよ

 あるとしたら、国の為になるならばっていう考えくらいだろうね」


「それは、このところのお前のその機嫌の悪さと、珍しく苛立つアルと、落ち込むレティシアも関係してくる話なのか?」


 アランのその言葉に、ジルベルトの機嫌がさらに悪くなったが、アランは特に気にする様子もない。


「………アルの頭の中には、王女が入り込める隙間なんて、僅かにもなかったという事だよ

 アランだから言う事だが、アルは何かしらの形で、レティへ自分の募らせていた想いを伝えたのだろうね

 そしてその方法は、言葉だけでないのは確かなのだろうけど……二人からは、敢えて聞いていない

 まぁ、それは私とアルの問題だから別の話になるけど……

 だから、あの王女をこの国に滞在させる理由なんて、一つもないって事だよ」


「その話を詳しく聞きたいところだが……

 では、お前の判断的にはシャルテはいいのか?」


「アルに王女へその気が少しでもあるなら、あの国の手綱を握るのも有りかと思ってはいたが……

 アルにその気もないなら、軍事力や魔術師団の力でも我が国に勝る訳でもなし、周辺諸国からの干渉も、あの国と仲良くしてもあまり意味を成さない。

 あるとしたら、あの国が裏の特産としている()()ぐらいだろうが、それはこちらが規制をしっかりとかければ何とでもなる話だ

 だから、我が国にとっては必要ないっていう判断だよ」


 ジルベルトの冷たいような意見にも、アランは特に反応することもなく、いつも通りに言葉を返す。


「お前は、そういう所は容赦ないからな

 レティシアは、そういう面にあまり気が付いていないのだろうけど……」


「婚姻する前に見せるものでもないよ

 でもレティも、私の本質を本能的には察しているとは思うよ?

 主に立つ者は、全てに良い顔は出来ないし、するわけにはいかない

 先ず第一に考えなければならないのは、自国の民の安全と安定であるのだから、目先の()に溺れて判断を誤る訳にはいかないし、それを脅かすものへは、毅然とした態度を取らなければならないんだ」


「で? あのお茶会好きな、フワフワした王女への対応は?」


「ただのフワフワした王女であれば、何も問題はないのだけどね……」


 そうジルベルトは言葉を溢すと、椅子から立ち上がり執務室を後にした。


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