第20話 知ってしまった想い
レティシアは、自分の事を見つめるアルフレッドの表情から、今の彼の心情を殆ど読みとる事が出来なかった。
そんな、アルフレッドは言葉を続ける。
「身体は?」
「え? あ、身体は何ともないの
大丈夫だって言ったのだけれど、皆心配しすぎなのか、今日は学園を休みなさいって言われたから、大事をとって休んだだけよ?
王女殿下方も、特に変わりがないって聞いて安心していた所なの
本当に、昨日は何だったのかしら……
あの……、アル……?
昨日の……その……」
アルフレッドは、小さく一つ息を吐くと、レティシアを再度見詰めた。
「お前の聞きたい事はわかっているよ
昨日の茶会で自分が意識を失った出来事よりも、俺がお前にした事を聞きたいんだよな?」
「………どうして……あんな事……」
「俺がお前の事を、ずっと好きだったからだ」
「え……? す、す……き……って……」
アルフレッドの突然の言葉に、レティシアは狼狽える。
「俺がお前に向けているその言葉の意味は、お前が俺に向けている、幼馴染みへ向ける好意という意味とは違う
兄上が、お前に向けているものと同じ好意だと思っていい」
「え……? ア、アル?
何を突然言って……」
「何を突然?
そうだな、本当なら俺のこの想いは、お前には伝えないつもりだった
お前がそういう表情になる事は、目に見えていたからな
結果的に、お前の気持ちを考えないで、俺の願望を押し付けた形になったけど、謝る事はしない
あの行為を謝るという事は、お前への自分の気持ちを否定するというように思うから
だけど、虫のいい話しなのかもしれないが、出来る事ならお前には、あの事を忘れて欲しい
俺は、お前と兄上の関係をどうにかしたい訳でもないし、二人には幸せになって欲しいと思っている事も、本心なんだ
二人とも俺にとっては、大切な存在なんだよ……
俺へ向けるお前の笑顔が、二度と見られなくなっても構わないから、この事は二人だけの秘密にしてほしいんだ」
アルフレッドは、悲しみを隠したような表情で、そんな事を言った。
レティシアが言葉に詰まると、アルフレッドは切なげな表情を浮かべ、彼女の頭を一撫ですると、公爵邸を後にした。
暫くして、公爵邸にまた王室の紋の入った馬車が到着した。
私室でぼんやりとしていたレティシアは、彼女の私室に入る事をハーヴィル公爵から既に許可されているその存在の声が、扉ごしに聞こえた事にピクリと身体を揺らした。
「レティ? 調子はどうだい?
中へ入ってもいいかな?」
「ジル……?」
レティシアはそれ以上反応を示さず、扉の外にいたジルベルトは彼女に再度声を掛ける。
「レティ、中に入るよ?」
私室内に置かれている椅子に、座っていたレティシアの表情を見たジルベルトは、レティシアのいつもと違う様子にすぐ気が付いた。
公爵家の使用人を下がらせ、レティシアの私室に二人きりとなる。
ジルベルトはレティシアの隣に座ると、彼女の頭をフワリと撫でた。
「午前中に、アルが来ていたようだね」
ジルベルトの言葉に、レティシアはビクリと身体を揺らす。
その彼女の反応から、レティシアとアルフレッドの間に、今、何かが起こっているのだとジルベルトは確信を持った。
そして、心の声が思わず口に出てしまう。
「だから、一番脅威だと言ったんだ……」
「ジル……?」
ジルベルトは、自分の反応を怯えたように伺うレティシアへ笑みを浮かべた。
「君は何も言わなくていいよ」
「え……?」
戸惑いの表情を浮かべるレティシアを見詰めながら、ジルベルトは心の中で呟く。
(たとえ、大切な弟の事であろうとも、君の口からあいつの募らせていた君への想いの事など、絶対に聞きたくはない……)
「後は、私とアルとで話をするから大丈夫だ」
「話しって……、ジルは──」
レティシアの言葉は、ジルベルトの口付けによって途切れる。
それはまるで、それ以上言うことは許さないというような、ジルベルトの強い思いを感じた。
レティシアは、自分がマリアベルやクララへ嫉妬し、あんなに酷い態度をジルベルトへとったのに、自分がその立場に置かれた時、彼のようにあのような潔い態度を取れない事が、物凄く狡いように感じた。
ジルベルトの何時もよりも荒い口付けの後、抱き締められた彼の胸の中で、そんな自分が嫌で仕方がなく、全てを彼へ打ち明けようと言葉を掛けた時、ジルベルトはその言葉に被せるかのように語気を強めた。
「ジル……私は──」
「聞きたくない」
「え……?」
「今は、君の口からアルの話を聞きたくはない
だがその事に、君は罪悪感を感じなくていい
私のただの我が儘なんだ
本当なら、君を巻き込む前にアルとしっかり話し合うべき事を後回しにして、君を手に入れる為に私は姑息な手段を使った
だから、まだ何も言わないでくれないか?」
ジルベルトの言葉に、レティシアは、自分が苦しまないような言葉を、彼はいつもどうして、こんなにもくれるのだろうかと思う。
「何で……?」
「レティ?」
「どうして、そんなに優しくするの?
私の事を責めないの?
ジルが不安になるような、態度を取っているのに……
それとも、私のそんな態度なんか気にもならないの……?」
レティシアは、どうしてこんな事を言うことしか出来ないのだろうと、自分が情けなくて嫌気がさした。
自分の今の置かれている状況で、こんな言葉を言うべきでないのにと……
そんなレティシアの考えもお見通しかのように、笑みを浮かべたジルベルトは彼女の頭を撫でる。
「気にならない訳がないだろう?
これでも、必死に自分の感情を抑えているんだよ?
レティは、私の君へ対しての執着心も独占欲の大きさを知らないから、そんな事を考えるのかもしれないけれど……
君をそんな表情にさせる存在は、全て零にしたいんだ
本来なら、アルと君との事に、私が口を挟む事は良くないとわかっている
君に委ねるべき問題であるけれど、これ以上君がアルの事で悩むのすら許したくはない
だから……、私がアルと話したいのだよ
でないと……私は君を、本当に閉じ込めてしまいかねないのだからね
わかったら、これ以上蒸し返さないで?」
レティシアは、ジルベルトが怒っている事に、彼の目を見て気が付いた。
笑顔を浮かべ、柔らかな口調で話しているが、内心は怒っているのだと……
そんなジルベルトに、頷く事しか出来ない自分がいた。
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