第11話 お茶会
非の打ち所がないという存在は、このような存在なのだろうかと、レティシアは思う。
マリアベル王女は短期間という形での入学であるが、入学してすぐにクラスメートだけでなく、違うクラスや上級生の生徒達の心をも惹き付けたようであった。
王族としての威厳や気品を持ちながらも、嫌味に感じない庇護欲をそそるような可愛らしい仕草も合わせ、またどんな相手にも平等に接する態度や、時折見せる人懐っこさからも、皆から好ましく思われている。
そして、それはレティシアへ対しても何も変わらなかった。
今日は、マリアベルが主催するクラスメートを招待したお茶会に、レティシアも招待されており登城していた。
マリアベルは、お茶を口にすると、フワリと柔らかな笑みを浮かべ、口にしたお茶の感想を述べる。
「レティシアさんのお勧めしてくださった茶葉は、本当に良い香りですわね」
「勿体ないお言葉にございます、殿下
わたくしは、この王国原産の茶葉をご紹介しただけですので」
「オーガストラ王国の事は、わからない事が多いから
レティシアさんのおかげで、わたくし、とても参考になりましたのよ?」
沢山のマリアベルからの褒め言葉も、レティシアにとってはあまり居心地の良いものではなかった。
その理由は、レティシアが座っている席にあった。
この国の王太子の婚約者という立場もあり、レティシアの席はマリアベルと同じテーブルに用意されていた。
それだけなら、まだ何とか振る舞えたかもしれないが、同じテーブルいる存在が、レティシアにとっては居心地が悪かったのだ。
同じテーブルには、心を許している幼馴染みで第二王子のアルフレッドもいたが、問題は側妃候補筆頭と巷で言われている、クララ·ヘインズもいたからだ。
クララは、先程からマリアベルがレティシアの事を褒めるような言葉を言うと、気付かれない程度にレティシアを貶しながら、マリアベルを持ち上げるような言葉を発していた。
そう、このように……
「我が国の茶葉の栽培は、シャルテ王国よりも日が浅いですから、殿下のお国の茶葉に比べると、我が国の茶葉は見劣りしてしまい、殿下が口になさるなんて恥ずかしいですわ」
レティシアは、クララの言葉に何とも言えないような笑みを浮かべたまま、ため息を飲み込むようにお茶を一口、口にする。
心の中では、様々な思いが渦巻いていた。
(シャルテ王国が古くから茶葉の生産が盛んな事は、私だって知っているけれど、自国の事を下に言うのもどうかと思う
それに、私はこのお茶の味が好きだったから、王女殿下から、この国生産の茶葉で何かお勧めがないかと聞かれた時に、勧めただけだもの
私も、殿下の口に合うかわかりませんがって、しっかり伝えたわ……
だけど、そんなふうにクララ様に言い返せる事が出来ないで、心の中でこうしてぐるぐる考えているだけの自分も嫌……
……っ……この場所は辛いな……)
そんなレティシアの心情を、アルフレッドは察しながらも、王族の自分が口を挟むべきなのか迷っていると、マリアベルの隣にいた人物が口を開いた。
「僕は、このお茶の味は好ましいですけどね」
そう、言葉にして口にしていたティーカップをソーサーに静かに戻し、レティシアへにこりと柔らかな笑みを向けた人物は、シャルテ王国の公爵子息で、カーティス·イェドヴァルという名の青年であった。
「カートは、この味が好きなのね?」
「ええ、シャルテの物は口当たりはいいけど、この茶葉はマリアが言うように香りが凄く良くて、こちらの方が僕は好みかな?
マリアのこの国への遊学に、僕も同行できた事だけじゃなく、好みの味まで見付ける事が出来るなんて、良い発見をしたよ」
カーティス·イェドヴァル。
彼は、シャルテ国王の実弟であるイェドヴァル公爵の長男であり、マリアベル王女の従兄弟である。
レティシア達と同い年で、今回マリアベルが短期間学園で過ごす事になり、マリアベルに同行していた彼も学園に短期的に入学という形をとることになったのだ。
濃紺の髪色に、マリアベルと同じ空色の瞳を持つ容姿をしていた。
マリアベルは、そんなカーティスの言葉を聞きながら、愛らしい笑みを浮かべ、次はアルフレッドへ問い掛けた。
「アルフレッド様は、どんなお茶がお好みなんですか?」
「自分は……、シャルテ王国のお茶もとても飲みやすいと思いますが、自国のものは飲み慣れているものなので、好みというより口にするとホッとしますね
あ……、あまり、気のきいた事を言えずに申し訳ありません
話しが苦手なので……」
「いいえ、そんな事はありませんわ
アルフレッド様は、わたくしにも色々と気にかけて話してくださるので、嬉しいですのよ?」
同じテーブルに座る、アルフレッドとカーティスが、レティシアが王女に勧めたお茶の味を好ましいと言った事に、クララが僅かに表情を歪める。
レティシアが居心地が悪いと思っていた空気が多少緩んだ事に、少し息を吐いた時、レティシアの隣に座っていたカーティスは、レティシアへ向けて再度笑みを向けた。
その事に、カーティスが自分の事を助けてくれたのだとわかったレティシアは、この場であからさまにお礼を言う事は出来ないので、言葉にはせず笑みを返す。
そんなレティシアの様子が目に入ったアルフレッドが、テーブルの下でグッと握り拳に力を入れた事は、誰も知らない。
お茶会も終盤に差し掛かった頃でも、クララがマリアベルを持ち上げながら話す様子は変わらなかった。
クララはマリアベルに気に入られたがっているのか、積極的に関わり、マリアベルが他のクラスメートの所へ向かいたいと話せば、案内する為一緒に向かうと自分も席を立つ。
そんな様子をレティシアはぼんやりと眺めていると、隣に座っていたカーティスが話し掛けてきた。
「このお茶会は、レティシア嬢には楽しくなかったのかな?」
「え……? イェドヴァル様……?」
「折角、同じクラスメートになれたのだから、僕の事は君にもカーティスと名前で呼んで欲しいな」
「あ……、はい……
カーティス様、先程はあの場の雰囲気を変えてくださり、ありがとうございました」
「先程……?
ああ、あれは建前でなくて本当にこのお茶の香りが好きだと思ったから、そう言ったんだよ
でも、僕の言葉で君の事を助けられたなら良かったかな」
「殿下からお褒めのお言葉を沢山頂けて、とても光栄であったと思うのですが、その……」
クララの事を言い出しにくく、レティシアが口ごもると、柔らかな笑みを浮かべたカーティスは、小声でポツリと言った。
「君に対して、かなり敵意のある言葉が多かったからね」
「…………っ……」
レティシアは、カーティスもクララが自分へ向けて、敵意を含んだ言葉を投げ掛けていた事に気が付いていたのだと驚き、彼の顔を凝視してしまった。
「ん? あ、僕が彼女の意図に気が付いていた事に驚いたのかな?
まぁ、軽く聞いていると、ただの雑談のようにも聞こえるのだろうけど、しっかり聞くと、やっぱり端々に棘があるように聞こえたかな?
僕は気が付いたけど、マリアは……、今も彼女と仲良く話しているし、そんなに深く考えてなさそうだよね?
マリアはあの通り、良くも悪くも王女らしい性格だからさ」
他国の者に、自国のあまり誉められる事ではないような様子を見せてしまった事に、もっと自分が上手く振る舞えればと、落ち込むレティシアを庇うよう、ずっと黙っていたアルフレッドが口を開いた。
「俺が、もっと上手く立ち回れば良かった事だ
だから、お前は気に病まなくていい
イェドヴァル卿、我が国の、恥ずべき姿を見せてしまい申し訳ない
王女にも──」
「殿下がそこまで謝る事でもないですよ
マリアも大して気にしてないようだし、それにあんな感じの令嬢の牽制は、何処の国でもある事ですしね
だからこそ、僕も気が付いたのだと思います
ただ、お噂では王太子殿下の側妃候補の方だとも聞いたので、今後も大変そうですね」
カーティスの言葉に、アルフレッドは何ともいえない表情を彼へ向けた。
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作者の覚書
カーティス·イェドヴァル
父親は、シャルテ国王の実弟であり、国王の甥。
マリアベルの従兄弟にあたる。
マリアベルのオーガストラ王国への来訪に同行し、現在一緒に学園にも短期入学している。
濃紺の髪色に、空色の瞳。




