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クエスト28:集え戦士達

 モンスターヴィーゾフ・クナシャス大会当日。その朝はいつもより少しだけ太陽の日差しが鋭く感じた。

 私は不安と期待を胸に集合場所であるナフコフへと向かう。昨夜は緊張でほとんど寝る事ができなかった。今まで大会などとだいそれたものに出る事がなかった私にとってまさに未体験ゾーンとなる一日の始まり。そして今日の結果によってナフコフの命運が決まる……そんな重要な一日なのだ。

 自分の気持ちを落ち着ける為にまだ白がかった空の空気を目一杯吸い込んで大きく息を吐く。


(大丈夫、特訓は受けた、戦術も練った、後は自分の力を出し切るだけだよ)


 それに初心者は私だけではない。まったく関係ないのに数合わせで参加させられるリム様と、今回のトラブルの原因とはいえ竜なのに人数に入れられたドラギスちゃん。

 この二人の不安感は私の比ではないだろう。カード大会に参加させられるだけではなく、今回の事が公になればドラギスちゃんが討伐対象になる事は必死。そうなれば当事者のドラギスちゃんは言わずもがな、ドラギスちゃんを人里へと連れて来たリム様も心に大きな傷を負いかねない。


(二重の意味で絶対負けられないよ。ファイトだよ私!)


 顔を二度三度と平手で叩いて気合いを入れ直した私はナフコフへと歩を進める。



「おはようございます」


 自分の緊張を伝えないように努めて明るくナフコフのドアを開ける。


「あ、ミリシャさんお久しぶりで〜す」


「おひざじぶりでず」


 ナフコフに集まっていたのはリム様とドラギスちゃんだけだった。


「リム様、ドラギスちゃん久しぶり、あのロボ野郎に変な事されませんでした?」


「ロボ? あ、監督の事ですね。いや〜厳しい特訓でしたよ。ねードラギスちゃん」


「がう」


 良かった、元気そうだ。

 大会参加が決まってからの一週間。リム様とドラギスちゃんはロホニッヒの特訓合宿に連れて行かれた為今回の事について話す機会がなかったのだ。もし責任を感じて気に病んでいたら嫌だなと思っていたのだけれど、どうやら杞憂だったみたいね。


「そんなに大変な特訓だったんですね。ごめんなさい、私も参加できれば良かったんですけど倉庫に閉じ込めている冒険者様達の食事の世話をしないといけなかったから」


「いえ、大丈夫です! 特訓の成果は本番で見てもらった方が驚きも倍増なので!」


「凄く自信がありそうですねリム様。心強いです」


「はい! 私もドラちゃんも特訓の末、ロホニッヒ監督と10回やったら9回は勝てるようになりましたから」


 それは逆に心配だ……大丈夫かあのロボ。


「カードのバランスも凄く考えてて最低でもフルハウスは出せるように同じ星の数のモンスターカードを集めてデッキを組んでいるんですよ〜」


 なんか私の知ってるルールと違うんですけど!?

 その後もリム様の口からはロイヤルストレートフラッシュの手役を作る難しさとそれに伴う美しさやファイブカードは簡単だが品が無い等のこだわり発言がどんどん飛び出して来る。


(リム様に何を教えたんだあのロボ……)


「それに頑張らないといけないですからね、たって今回の件は元はと言えば……」


 急に少し沈んだ表情を見せるリム様。


「あ……リム様、気にしないで……」


「元はと言えば怒り、悲しみ、喜び、恐怖、といった感情を人間に与えた神様のせいですからね。それさえなければ種族間の争いなんてなくて幸せに暮らせるのに」


 元のスケールでかいな。


「だから今回は神様が生み出した愚物である人間が生み出したカードゲームで世界の真意を問う、そういう戦いなんですよね!?」


 そんな神々の御心を知る為の戦いではない事は間違いない。でも目を輝かせて話すリム様のやる気を削ぐのもなんだかなぁ。


「えっ、と。まあそういう側面もあるようなないような……」


 どう答えてよいのか判断に迷い言葉がもにょる。


「ですよね! よーしドラちゃん、これは人と竜の対話に繋がる第一歩だよ、頑張ろうね」


「がう!」


 ……まあいいや。なんだか納得してるみたいだし。


「ところでルク先輩とロボニッヒはまだ来ていないんですか?」


「えっとルクちん達は先に組み合わせ抽選会に行っちゃいましたよ」


「そうなんですか? もう! 私にも一言言っておいてくれたらいいのに。というかリム様、予選会場の場所ってどこなんですか?」


 そういえば大会をやる場所も聞いてないや。今日待ち合わせて連れて行ってくれる約束だったのに、まったくもう。


「え? ここですけど」


「……はい?」


 よく聞き取れなかった私はもう一度聞き直す。


「だからここですよ、ここ」


 リム様はその場で地面を指差す。


「あ……あぁ〜地底帝国ですね。凄いなぁ、やっぱりスケールの大きな大会は違いますね。で、地底帝国ってどうやって行くんですか?」


 錯乱した私は訳の分からない事を言い始める。


「も〜何言っているんですかミリシャさん。予選会場はここ、ナフコフ受付所ですよ」


「やっぱりそうですよね! ちくしょおぉぉぉ――――!」


 何故か犯行現場で開催されるモンスターヴィーゾフの予選。裏でルク先輩の暗躍があったであろう事は容易に想像ができるが故の魂の叫びだった。


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