クエスト29:伝説のギルド
規模が大きいモンスターヴィーゾフ・クナシャス大会の予選は八ブロックに分けて行われる。通常は予選もカードゲーム専用の会場で行うのだが今回は設営のトラブルでどうしても一会場使用する事ができなくなってしまった。その機に乗じて名乗りを上げたのが他ならぬルク先輩……リム様の話を纏めるとこんなところだった。
「ルクちんは地の利は大きいと言っていましたよ」
「う~ん、まあ分からなくはないですけど」
確かにいつもと同じ場所で勝負ができるというのは大きいかもしれない……倉庫に縛ってある冒険者様達の事さえなければ歓迎すべき事なんだけどなぁ。
そんな事を考えているとナフコフの入口がガチャリと開く。
「組み合わせの結果が出たぞ」
姿を現したのはルク先輩とロボニッヒ。二人は手に持った組み合わせ表をひらひらとなびかせながら中へと入って来る。
「もう二人とも! 予選会場がここになったならあらかじめ言っておいて貰わないと困りますよ」
「あぁ、悪い悪い。言ったら怒ると思ったから言わなかった」
言葉とは裏腹に全く悪びれる様子もなくひょうひょうと答えるルク先輩。
「ルクちん。監督。組み合わせはどうでしたか?」
待ちきれないとばかりにリム様が二人の元に駆け寄り組み合わせ表を覗き込む。
「リム嬢ヨ、喜ベ。最高の舞台で最高の相手と戦えるゾ」
「最高の相手?」
「アア、相手は世界ランキング一位。モンスターヴィーゾフ最強のチームと呼ばれるチーム『センチュリオン』ダ」
「お~それは強そうですね~」
その場で飛び跳ねながらはしゃぐリム様。
いや、ちょっと待って……世界……一位?
「あの、ロボニッヒ。世界一位ってどういう事?」
「ン? 言葉のままの意味ダガ? 世界二位でも三位でもなく世界一位ダ」
「で、でも確か今回の参加チームって3000を超えるって聞いているんですけど……」
「予選から全部トーナメントだからな。そういう事もあるだろ」
横からルク先輩が口を挟んで来る。
「え……本当に……一回戦の相手が世界一位なんですか? 冗談じゃなくて?」
ルク先輩とロボニッヒは笑顔で頷く。この土壇場の状況でなんてくじ運の弱さ……最悪だ……私は微かに感じていた可能性の火を無慈悲に摘まれたようでガックリと肩を落とす。
「そう暗い顔をするなミリシャ。いずれは倒さなくてはいけない相手、それなら早い方がいいさ」
「でも……」
「ミリシャ嬢、物は考えようダ。初戦にも関わらず今までのデータからプレイスタイルが完全ニ把握できる相手ダ。逆に相手はこちらの情報を何も持ち得てはイナイ。どちらが有利か言うまでもないダロウ」
熊のお面を触りながらロボニッヒが自信満々に話す。
……うん、でも言われてみればそうかもしれない。私達は優勝を目指しているんだ、相手がどうこうなんて言っていられないよね。
「すいません、ちょっと怖気づいちゃって。そうですよね、決まった事を嘆いても仕方ないですものね。それに運の要素が強いこのモンスターヴィーゾフ。きっと勝機はありますよね!」
精一杯己を鼓舞して声を張り上げる。そうでもしないと不安と緊張で圧し潰されそうだ。相手が誰であろうと絶対に負けられない戦い……今日はそういう日なんだから。
「良い意気込みダ、ミリシャ嬢。そうダ、ルクよ予選は昼からだったナ。それまでに『センチュリオン』について教えておいたらどうダ?」
「あ、是非お願いします」
実力差を埋める為に相手の特徴を少しでも把握した上で対策を練らないと……私はメモを片手にルク先輩の元へと走る。
「う~ん……センチュリオンについてか。でもミリシャもあいつ等の事は知っているんじゃないか?」
「あ、いえ。すいません、私本当にカードゲームとかに疎くてまったく知らないんですよ。これだけ流行っているカードゲームの世界一位なら一般常識として知っているべきなんでしょうけど……」
流石にこれには申し訳なくて縮こまってしまう。
「いや、あいつらはメディアにはほとんど顔出ししていないからこのカードゲームをやっていない奴は知らなくて当たり前なんだけどな。そうじゃなくてほら、こいつ等センチュリスだよ。知ってるだろ?」
センチュリス? その名前どこかで聞いた事があるような……
私は自分の記憶を辿りその名前をどこで聞いたか思い出そうとする。以前はよく名前を聞いたような……あっ。
「……センチュリスってまさかあの冒険者ギルドのセンチュリスですか?」
「ご名答。センチュリオンってのはセンチュリスのメンバーで作られたゲーム大会用の名前だよ」
「えっ!? ほんとですか、あのセンチュリスの冒険者様達が!?」
発足からわずか一年でA級までのし上がった冒険者ギルド・センチュリス。短期間で数々の功績を残したその実力は少数精鋭という類似点もあってルーンヌィの再来とも言われていた。
「でも、確か二年程前に急に活動を停止しちゃったんですよね。そのギルドがなんでカードゲームの大会なんかに……」
様々な憶測を呼んだ突然の活動停止はセンチュリスの怪と呼ばれ今でも人々の語り草となっている、ある意味で伝説のギルドなのだ。
「奴等は怨念に憑りつかれたのさ」
「お、怨念?」
「働きたくない、寝ても覚めてもごろごろゲームがしていたい、そんな怠惰な日常を過ごしたいという怨念にな」
……ただの駄目な人達だった
「人としての欲に忠実に生きる……奴等は俺が尊敬する数少ない冒険者だ」
「へ、へ~冒険者様をルク先輩が尊敬するなんて珍しいですね」
「奴等は強いぞ、何といっても今までギルドで貯めた金を全てゲームに費やしてモンスターヴィーゾフのカードをフルコンプリートしている。しかも朝から晩までゲーム遊びに興じているんだからな」
ざ、残念すぎる……
「そしてその廃人達の中でも群を抜いた廃人! カード大会に出場するメンバーがこいつ等だ!」
ルク先輩はポケットから一枚紙を取り出して机の上に広げる。そこには今回の出場するチーム名とその選手の一覧表がずらりと並んでいた。
「センチュリオンの核弾頭、ゲヴォルグ・シュタイン! カードが擦り切れるまで遊び倒した結果手に入れた能力は予知能力に匹敵する先見術。通称『10秒先の未来が見える男』」
す、凄いけどなぜか悲しい……
「そしてセンチュリオンの奇術師、マトリック・クエイバー! 術の修行に割いていた時間を全てサイコロとの対話に費やしたこの男は自由自在に賽の目を出す事ができる。通称『賽の目を操る術師』」
いや術の修行しろよ。
「モンスターヴィーゾフプレイヤーランキング一位、異次元の戦術を駆使する『現実罠カードマスター』グリオン・トライエル!」
ノリノリだな……ルク先輩。
「センチュリオンの若き天才、その祈りは天にさえ干渉を及ぼす。『天候を操る少女』スノウウェル・ファルス!」
すでにカードゲーム関係ねぇぇ!
「センチュリオンのトップにして女傑、全ての始まりはギルドマスターであるこの女から始まった。『ゲームは一日一時間』クックスター・トリオットハート!」
異名がギルドのコンセプトと合ってねぇぇぇぇ!
「これが今日戦うセンチュリオンの面々だ。聞いて分かる通り一筋縄ではいかない強力なプレイヤーばかり。俺達の勝ち目はせいぜい30%といったところだろう」
いや、勝率高すぎるよ! そんなにないでしょ、こっち素人三人とそれに負けるロボが含まれているんですよ!?
「だいじょうぶ、みんながんばっだがら。どりょぐは嘘をづがないでずよ。さあ取りにいぎましょう、てっぺんを!」
『おぉぉ――――!!』
何故かドラギスちゃんが締めた!?
沸き立つ四人をよそに一抹の不安を感じながらも決戦の時間は無情に迫って来るのであった。




