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クエスト26:模擬戦

 モンスターヴィーゾフの大会が団体戦だなんて……

 しかも5対5の星取り合戦。せめて3対3ならこのカードゲームに慣れていそうなルク先輩とロボニッヒで戦えたかもしれないのに。


「なに暗い顔しているんだミリシャ」


「ルク先輩、やっぱり無茶です無謀です。本気でこの大会に優勝しようと思うなら私はメンバーから外してください。他力本願みたいで申し訳ないんですけど足を引っ張るだけですし……」


 ナフコフの危機に対して何もできない自分自身に憤りを感じつつも、今は身を引く事が最善の選択だと思いルク先輩に辞退を申し出る。

 そんな私に対して先輩は優しい口調で諭すように話しかけて来る。


「大丈夫だミリシャ。お前が全敗したとしても他で星を3つ取ればいいだけの話だ。何も気負う事はないさ、頭数として参加してくれればそれでいいさ」


 そう語るルク先輩の表情は自信に満ちていた。

 ……そうだよね、いくらなんでも残りのメンバーが初心者の私より下手って事はないだろうしそこで勝ち星が稼げればいいんだよね。

 完全に他人任せになってしまうが綺麗ごとを言っていられる状況でもない。ここはルク先輩のツテを活かした強力な布陣を組んでもらって優勝、いや悪くても上位入賞しなくては。私はうつむきかげんだった顔を上げてルク先輩に尋ねる。


「ところで団体戦の残り二人のメンバーはもう決まっているんですか?」


 今回の命運を握る強力な助っ人。遊び人のルク先輩なら交友関係も広いだろうし、もしかしたらこのカードゲームの強者とも知り合いかもしれない。


「あぁ、もう決まっているぞ。リムとさっきの竜娘だ」


 交友関係狭っ! 


「だ、駄目ですよ、めちゃくちゃ手近で済ませる気満々じゃないですか! もっと真剣に考えて下さい!」


「大丈夫大丈夫。リムはトランプ得意だし、竜娘もポーカーフェイスだからカードゲーム向きだしな。これから大会までにガッツリとルールを叩きこんでやるよ」


「二人とも初心者じゃないですか! ナフコフ最大のピンチになんで思い出作りレベルの面子で大会に参加しようとしてるんですか!」


「心配するなって、運の要素も大きいゲームだ。三人いれば初心者でも一勝くらいできるよ、多分」


 ぎゃんぎゃん喚く私をよそに鼻歌交じりに手元のカードを眺めるルク先輩。すでに先輩の中で面子は固定されているようだ、私の話を聞く気もない。


 リムちゃんにドラギスちゃんか……どう眉唾で考えても私のほうがまだマシだろうなぁ……これは私がしっかりしないと。先程までとは一転、一気に重圧が圧し掛かる。


「ミリシャ、そう難しい顔をするな。まずは一戦やってみようぜ」


 ルク先輩はそう言ってデッキの束の半分を私の手元へと置く。

 そうだよね、元はといえば私の監督不行き届きで陥ったこの状況。私が自分で頑張って解決するのが筋だよ。自らを奮い立たせるように拳を強く握りこんでルク先輩に頭を下げる。


「よろしくお願いします、ルク先輩」


「まあ肩の力を抜けよ。これは練習試合だ。モンスターカードも通常ルールとは違って破り捨てる様な事はしないから安心しな」


 ですよね。練習でも破り捨ててたらカード無くなっちゃうよね。


「じゃあミリシャが先行な」


「あ、はい」


「じゃあ始めるぞ。モンスタァァァァヴィーゾォォォォォフテイクオ―――フゥゥ!!」


 なんだこの掛け声。

 ハイテンションに叫ぶルク先輩に多少の嫌悪感を催しながらも気を取り直してカードの束に手を伸ばす。えっと、まずはカードを6枚引くんだよね。



ヒツジヤギ【草食獣】

ATK:300

DEF:200

■牧草地を徘徊する草食の獣。近づくと甘噛みしてくる。



カガミガメ【甲殻類】

ATK:300

DEF:400

■鏡のような光沢をした甲羅を持つ亀。戦闘能力は低いが割らずに甲羅を剥ぎ取るのは容易ではない。



シャークフィッシュ【魚族】

★★★★

ATK:1500

DEF:1200

■大海原を回遊する強力な牙を持つ鮫。陸上では二足歩行で歩く



クイーンゴリウータン【獣族】

★★★★★

ATK:2100

DEF:1600

■圧倒的繁殖力を誇るビッチのゴリラ。生涯の経験人数は四桁を超える動く公衆便所。



タペタの名弓・セイレィン【装備】

■冒険者タペタが残した名弓の内の一本。その弦は一度引くと相手の息の根を止めるまで歌うように軋み響く。攻撃力+400



癒しの光【魔法】

■僧の力を持つ冒険者が放つ不思議な光は戦いで負った傷を癒す。プレイヤーライフを500回復させる。



 モンスターカード4枚に装備と魔法カードが1枚ずつか。えーと、次はサイコロを振るんだよね。私は机の上に転がっているサイコロを拾い上げ、そのまま落とすように放る。出た目は「4」だった。


 4かぁ。って事はクイーンゴリウータンは【守備表示】でしか出せないけど一応どのモンスターカードでも出せるって事だよね。ルク先輩の手札にどんなカードがあるかは分からないけど先輩がサイコロの目で「4」以上を出さなければ大丈夫だよね……う~ん。

 私は少し考えた結果、星4つのシャークフィッシュを【攻撃表示】で場に出す。


「ふふん、ミリシャ。流石に覚えが早いな。大まかな流れは今のでOKだ」


 ルク先輩が感心したように手を叩く。


「は、はい。ありがとうございます」


 良かった……ここまでは特に間違った手順ではゲームは進めていないようだ。


「だがそれではまるで駄目だ。素人丸出しの戦略だな」


「え?」

 

 ルク先輩は不敵に笑うとサイコロを勢いよく放る、出た目は「3」。先輩はモンスターカードを【守備表示】で出し、それとは別に1枚場にカードを伏せる。



【守備表示】

クロガネブタ【豚】

★★

ATK:800

DEF:600

■黒々とした肌をした食感の硬い豚。味は悪いが日持ちはする為、主に保存食として調理される。



「ターンエンドだ」


 ルク先輩は自分のターンの終了を宣言する

 星2つのカードかぁ、ルク先輩あんまりいいカードが手札になかったのかな。でも伏せカードがあるって事はあれ罠カードだよね。う~ん、ちょっと攻撃しにくいけど動かないと勝てないよね。


「じゃあ私のターンですね。えっと1枚カードをドローしてシャークフィッシュで攻……」


 そこまで言い掛けたところでルク先輩が右手を突きだして私を抑止する。


「何を言っているミリシャ。まだサイコロを振っていないぜ?」


 あ……その言葉を聞いて私は最初に出したカードが間違いであった事に気付く。そうか、サイコロの目はターンごとに振る。つまり私は「4」以上を出さないとシャークフィッシュを破棄しなければならない。


「正確にはサイコロの目は3でも守備表示に変えればシャークフィッシュは場に残せるけどな。先行初手は攻撃できないんだからダメージ覚悟でランクの低いモンスターを【守備表示】で様子見がセオリーなんだよ」


 したり顔で言い放つルク先輩。


「で、でも、4以上を出せばいいんでしょ!」


 私はサイコロをギュッと握りしめ、机に向かって勢いよく放る。出た目は「2」。


「あ……」


「大会ルールならこれでシャークフィッシュは永遠にサヨナラだな」


「うぅ~」


 私は呻く様な声をあげる。このモンスターヴィーゾフ、どうやら一筋縄ではいきそうもない。


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