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クエスト24:カードゲーム『モンスターヴィーゾフ』

「さて、金で解決と言っても金がない。どうするつもりだロボニッヒ」


 久々に帰って来たナフコフ受付所の椅子に深々と腰を下ろしてルク先輩がロボとなったガルニッヒ、ロボニッヒに話しかける。


「ルクよ。コノ私が生前に師と仰いだ君にナラ見当がついていんジャアないノカ?」


 回転式となったU字型の手首を回転させながら応えるロボニッヒ。


「考える事はやはり同じか、俺たちの出所日が大会に間に合ったのも運命なのかもしれないな」


 意味深に語り合う二人。だが今はルク先輩が戻って来た事とかガル公がロボになった事などはどうでもいいのだ。外の冒険者様達の治療をしないと……

 私はいてもたってもいられず二人の会話に割って入る。


「ちょっと二人とも! 意味の分からない事を言っていないで外の冒険者の方々を病院に連れて行きますよ」


 ルク先輩は私の言葉に反応してポケットから受付所倉庫の鍵を取り出す。


「心配するなミリシャ。奴等はすでに受付所の倉庫に縛り付けて保護してあるから」


「それは保護とは言いませんよ! なんで罪を重ねてるんですか!」


「大丈夫だって、応急処置はしてあるから。それよりも今は金の亡者である冒険者が請求してくるであろう慰謝料についての対応を考えるのが先だろう?」


 金の亡者って……まあ治療費は当然払うべきだし、お金を請求されたら断れないかもしれないけど。でもそれは不祥事を起こした受付所の対応としては間違っている、それじゃあまるでお金で冒険者を懐柔するみたいじゃない。


「やっぱり冒険者の方々に誠心誠意謝罪しましょう。お金で解決なんて良くないですよ」


「甘い!」


 私の言葉はルク先輩にぴしゃりと一喝される。


「考え方がお子様すぎるぞミリシャ。謝罪を言葉だけで済まそうなんて考え方は甘いを通り越して冒険者に対する侮辱だ。こちらに謝罪の気持ちがあるなら形にすべきなんだよ、それを受け取る受け取らないは俺達が決める事じゃない」


「うぅ……」


 確かに先輩の言う通りかもしれない。私達が本当の意味で冒険者の方達に許してもらおうとするのであれば出来得る最大限の準備はするべきだ、それがお金という方法であったとしても。

 ……それにしても珍しいな。いつものルク先輩ならその場で穴を掘って冒険者を埋めれば解決だ、とか言いそうなものなのに。監獄に入れられて少しは改心したのかな?


「と、いう事でミリシャ。大会に出るぞ」


 目をキラキラと輝かせてルク先輩が私の方を見てくる。


「は?」


「だから大会だよ。『モンスターヴィーゾフ』の大会に出るんだよ」


 何を言っているんだこの人は……


「モンスターヴィーゾフ? って、あのカードゲームのですか」


 私の問いにルク先輩とロボニッヒは同時に頷く。


 モンスターヴィーゾフとは遊技者数50万人を超える大人気トレーディングカードゲームだ。数千種類のカードを競わせて戦うこのゲームは実際のモンスターや武器がモデルとなっており老若男女問わず討伐感覚が味わえると話題になり、発売から10年経った今でも人々を熱狂させている。

 ……カードゲームって大会とかあるんだ、へぇ~。


「私そのゲームやった事ないんですけど、カードゲームにも大会ってあるんですね。でもそんな大会に出てどうするんですか? 今はお金をどうやって作るかって話をしていたはずですけど」


「ヤレヤレ、ミリシャ嬢はスットコドッコイダナ」


 なんだとガル公!?


「ミリシャ。モンスターヴィーゾフ世界大会の優勝賞金がどのくらいか知っているか?」


「あ、賞金とか出るんですね。えーとどれくらいですか?」


「1000000000ルーブだ」


「じゅ、十億ルーブ!?」


 富豪の資産クラスの賞金額に唖然とする。え、だってたかだかカードゲームだよ!? SS難度のクエスト討伐よりも報奨金が高いってどういう事なの??


「は、はは……う、嘘でしょ……」


「浮世離れも大概にしておけよミリシャ、一般常識だぞ。今世界でクエストの次に金が動く産業がこのカードゲームなんだぜ? 賞金額も破格だが生産枚数の少ないレアカードなんかは数百万ルーブで取引されることも珍しくないしな」


「す、凄いですね。ブームになっている事くらいしか知りませんでした……私の田舎ではそのカード自体売っていなかったので」


 そういえばたまに『レアカードの奪取』とか『カード窃盗犯を捕まえろ』とかクエストでも取り扱われていたよね。アレってそういう希少価値の高いカードを巡ってのクエストだったんだ……


「そのモンスターヴィーゾフの大会が三日後、このクナシャスで開かれるんだよ。俺達はそれに出場して賞金をゲットするって寸法だ」


「へ~……って! む、無理ですよ! だから私カードゲームなんてやった事ないんですって」


「大丈夫だ、ウチには名将ロボニッヒがいるからな」


 ルク先輩はそう言ってロボニッヒの角ばったボディをポンッと叩く。


「名将って、ロボニッヒはこのカードゲームの遊び方知っているんですか?」


「失敬ナ。私はこの時の為にロボになったのダ。戦術ゲームにかけて私の右に並ぶものナドいないヨ」


 熊の面から自信に満ちた瞳が光る。

 この時の為にロボになったんだ……後先考えろよ。


「じゃあまずは俺が簡単にルールを説明してやるよ」


 ルク先輩は懐から分厚いカードの束を取り出すと、その中の何枚かをチョイスしてテーブルの上に広げる。私は乱雑に散らばったカードをまじまじと覗き込む。


(モンスターや武器の絵柄がついたカードね……これがモンスターヴィーゾフかぁ)


 そして運命の決闘(デュエル)が幕を開ける。


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