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クエスト13:結末

「どうしよう……困ったな」


 綺麗な満月が町を照らす中、途方に暮れてとぼとぼと帰路につく。

 ガルニッヒを探してA級ギルド・パビェーダの冒険者が集まる屯所へと乗り込んだ私であったがその反応は予想外のものであった。鼻息荒く門を叩いたのだがどうやらパビェーダは取り込み中らしくあまり相手にしてもらえなかった。それでも屯所を行き交う冒険者に話を聞いた所、出て来た言葉はガルニッヒの悪評だったからだ。

 聞くとガルニッヒは数日前からパッタリと屯所に姿を見せないようになり行方をくらましていたらしい。なにやらギルド内でのいざこざがあったようでパビェーダの冒険者達も探している最中なのだとか……挙句には私にガルニッヒの居場所を聞いて来る始末でとても惚けているようには見えなかった。


 ……そうなると行き先はヒーテック山? 

 少し特殊とはいえS難度のクエスト。いかに腕に自信があっても単独での達成は困難を極める。その為、熟練冒険者であるガルニッヒがそんな無茶をするとは思えず考慮していなかったが今のパビェーダの様子を見るからに少なくともギルド内に協力者はいそうにない。


(もしかしてそれだけ精神的に追い込まれていたって事なのかな……)


 冒険者が所属ギルドから疎まれる気持ち……私には分かるはずもないけれど、それでも冷静な判断が下せなくなる程に追い込まれていたのだとしたら……

 ううん、冒険者ガルニッヒはリム様を騙した張本人。どんな理由があってもやってはいけない事はある。私はギュッと拳に力を込めて前を向く。

 どちらにしても今は一度ナフコフに戻るしかない。ヒーテック山を登るにしても私一人じゃとても山頂までは行けない。リム様……待っていて!



「あ、お帰りなさ~い。ミリシャさん」


 ナフコフ受付所に急いで戻った私を待っていたのは大きな口を開けて焼き鳥を頬張るリム様の姿であった。


「リ……リム様……」


 その元気な姿に安堵した私の目からは大粒の涙が零れ落ちる。


「も~ミリシャさんってば、ちゃんとミリシャさんの分もありますから泣かないでくださいよ~」


 口元に焼肉ダレを付けながら笑うその姿はいつものリム様そのものだった。


「う……うぅ……良かったリム様ぁぁ……」


 でもどうして……もしかしてガルニッヒが途中で考えを改め直してくれたのかな?

 そんな事を考えながら気が抜けてその場にへたり込んでしまう私。

 その時、ガラガラと何かの機材が運ばれる音と一緒に休憩室の扉がバタンッと開く。


「リム。こんがり焼けたぞ、さぁ食おう」


 休憩室から現れたのはルク先輩とロール状の肉焼き機に両手両足を縛られジューシーに焼かれる冒険者ガルニッヒだった。


「ガ、ガルニッヒ!! ……様!?」

 

 肉体的な意味でも追い込まれてるぅ!


「おうミリシャ。いいタイミングで帰って来たな。今丁度ガルニッヒが焼きあがった所だ」


「や、焼きあがったじゃないですよ、何をしているんですか! ガルニッヒ様からちょっといい匂いがしてきてるじゃないですか!」


「そうなんだよ、俺は豚君の事を侮っていた。まさかここまでの素材だったとは」


「いや、いやいやそうじゃなくて! 一体何がどうなったらこんな状況になるんですか!?」


「がはは、それは俺から話そう」


 丸焼けの豚と化したガルニッヒが肉焼き機に吊るされたまま不敵に笑う。


(なんか割と元気そうだ……)


「俺は井の中のおたまじゃくしだったって事だ。小さな世界でしか生きてこなかった自分の価値観が急に恥ずかしくなってな。こうしてルク先生に弟子入りしたってわけさ」


 ルク『先生』!?


「そして俺がおたまじゃくしから蛙になる為の第一歩がこの状態……狩られる側の気持ちになって世界観を広げろという先生の有り難い教えってわけだ。俺は図体ばかりでかくなって肝心な心の在り方ってものがまるでなっちゃあいなかった、恥ずかしいぜ」


 パチパチとケツのあたりを焼かれながら少し涙ぐむ。

 えっと……状況はどうあれ改心してくれたって事なのかな……?


「そういうわけだミリシャ、じゅる……こいつも自分のした事を、じゅる……反省しているようだから許してやれ」


 なんかじゅるじゅる言ってる!?


「で、でもリム様を騙した事には変わりない訳で……」


「ミリシャさん、じゅる……いいんです。私の事は気にしないで、じゅる……下さい。熱狂的なファンが奇行に走るのもアイドルとしての宿命ですから……じゅるじゅるじゅる……」


 めちゃめちゃヨダレ垂れとる!


「こ、こんな事駄目に決まってるじゃないですか二人とも!」

 

「大丈夫ですミリシャさん、私こう見えて胃は丈夫なんです」


 胃の心配をしてるわけじゃねぇぇ!


「大丈夫だミリシャ、死人に口なし」


 おいぃぃ!


「へへ、師匠は本当に厳しいや。豚に真珠」


 お前もなに受け入れてんだぁ!


「と、とにかく! このなんだか分からない焼肉パーティーはもうお開きです! ガルニッヒ様も、今回の事は口外はしないようにしておきますからもう二度と冒険者を騙すような事をしないと約束してくださいね!」


 私は机の上に並べられたお皿をそそくさと片付ける。


「まったく、忙しい奴だな。ちょっとは落ち着いて飯くらい食わせろ」


「そうですよミリシャさん。それにほら、この焼き鳥とっても美味しいんですよ」


 リム様はそう言いながら手に持っていた焼き鳥を私の口に近づける。その鳥のジューシーな肉質と香ばしい匂いに誘われて、促されるままパクリと噛みつく。


「もぐもぐ……!! お、美味しい……!」


 口の中に楽園が広がる。その鳥肉は今まで食べたことのない弾力のある食感と、とろける様な甘い肉汁。そして肉そのものが持つ独特の風味が効いており絶品の味だった。


「でしょ?」


「凄く美味しいですこの鶏肉。どこで買って来たんですか?」


「ん? どこで狩って来たって……そりゃあヒーテック山かな」


「?」


 小さく呟いたルク先輩の言葉は肉焼き機のパチパチという音にかき消される。

 私は美味しい鶏肉に舌鼓をうちながら、リム様の無事と、冒険者ガルニッヒ様の改心に改めて安堵するのであった。


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